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第十二章

エドランにその話を持っていくまで、彼は思っていたより長く時間をかけた。


考えそのものに迷いがあったわけではない。むしろ逆だった。考えはあまりに筋が通りすぎていて、だからこそ口に出すのが厄介だった。こういう種類の発想は、まず“発見”としては受け取られない。最初に来るのはたいてい、長く当然とされてきた秩序そのものに手をかける気か、という反発だ。


エドランが彼を通したのは、夜もだいぶ深くなってからだった。通常の政務が疲労のほうへ崩れていく時間をすぎ、本当に話す必要のあることだけが残る時間。大きな広間ではない。評議のための執務室でもない。細長い窓と、紙も置かれていない卓だけがある小さな部屋だった。つまり、真面目に聞くか、あるいは証人なしにその場で切るか、そのどちらかだ。


今回は、彼は先に保証を求めたりはしなかった。


信頼が増したからではない。ただ、今回の話題は不快ではあっても、エドランが個人的な脅しへ跳ぶ種類のものではないと分かっていたからだ。ここで立ちはだかるのは別のものだ。もっと乾いた習慣の抵抗。


「またその顔だな」


彼が入ると、エドランは言った。


「自分でも筋が通りすぎていて、危険だと分かっていることを持ってきた時の顔だ」


「だいたいそんなところです」


彼は答えた。


エドランは軽く手を振って、向かいの席を示した。


「なら座れ。そして私の夜を台無しにしろ」


彼は腰を下ろした。


最初の石を自分で置かなければならないような会話では、どうしても数秒は沈黙が要る。エドランは急かさなかった。顔を見れば、それがどういう話かはある程度分かるのだろう。


「魔法のことです」


彼は言った。


「それはもう、良くない始まりだな」


「あなたにとっては、たいていそうでしょう」


「続けろ」


彼は正面から見た。


「いま、古いやり方が戻り始めています。力を、一人から最後まで抜くのではなく、分けて、残しながら取るやり方が。なら、次の論理は自然です」


エドランは何も言わなかった。ただ待っていた。


「女の子を、幼いころから魔法に育てることができます」


彼がそう言った時、エドランの顔はたしかに変わった。


大きくではない。だがはっきりと。怒りというより、長いあいだ家を支えてきた梁の一本に、いきなり手をかけられた時の乾いた苛立ちのようなものだった。


「初産までだろう」


エドランは言った。


問いではなかった。


限界を先に置く言い方だった。


彼には、いま何が言外に置かれたのかはよく分かった。母になる前まで、などという柔らかい言い方ではない。この世界で、女の身体が一つの不可逆な線を越えたと見なされる、あの粗い常識の言い方だ。そこにもう一段粗暴な前提があることも、もちろん分かっていた。だが、彼は今はそこへ踏み込まなかった。


「はい」彼は落ち着いて答えた。「初産までです」


エドランは目を細めた。


「自分で言っていて、その滑稽さが聞こえないのか。何年もかけて育てたものが、結局その時点で役割から落ちる」


「いまは、そもそも何年もかけて育てていません」


彼は言った。


「育てる前に、ほとんど“使う”側にしか回していない。それが、なぜか経済的な失敗には見えていないだけです」


エドランは、楽しげではなく、乾いた笑いを少しだけ漏らした。


「早々に非難から入るな」


「非難じゃない。算術です」


王は椅子の背に少し身を預けた。


「いい。では、その算術を聞こう」


彼は頷いた。


「女たちは、いまでもすでに二つに分かれています。産む者と、儀式で死ぬ者。構造自体はもうある。あなたもその中にいる。なら、その分け方を少しずらせばいい。産む者と、魔法を担う者に」


エドランの視線が、さらに硬くなった。


「それを、ずいぶんと簡単に言う」


「簡単な話じゃありません。でも、戦争の必要としてなら通せる可能性がある。そして、そのついでに、この世界の醜い慣れも少しずつ壊れる」


エドランは肘掛けを指で軽く叩いた。


「ホウセイならまだ想像しやすい。神殿がある。見習いという形もある。少女たちをどこかへ組み込み、まとめて育てる場所を、制度の中に作りやすい。だがここはどうする? こちらでも同じような神殿を建てるのか」


「神殿は必須じゃない」


彼は答えた。


「必要なのは、制度です。少女を選び、育て、まとめておき、家と出産の線へ完全に流れ込む前に、魔法の側へ載せるための場。神殿は、その一つの形にすぎない」


エドランはもう、軽い皮肉を交えずに聞いていた。


それは良い兆候だった。安堵には程遠いが、本質には近づいているという意味で。


「お前は、まだ一つ当然のことを飛ばしている」


エドランは言った。


「誰かは結局産む。誰かは魔法から離れる。誰かは、役に立つ前に失われる」


「それが?」


彼がそう返すと、エドランは眉を寄せた。


「本当に、その返しを口にさせるのか」


「はい」


王は小さく息を吐いた。


「投じたものが安定して返らない。機能が途中で抜ける。構造が揺らぐ。そういうことだ」


「男と同じです」


彼は即座に言った。


「兵を育てても、その半分が最初の大戦で死ぬことはある。将を育てても、愚かか、臆病か、三十までに死ぬか、そのどれかになる者はいる。それでも育てるでしょう。必要なのは一人ひとりの保存ではなく、全体の戦力水準だからです」


エドランは彼を長く見た。


「いま、お前は女を兵と並べた」


「いいえ」


彼は言った。


「能力に投資するという意味で並べました。それだけです」


「この宮廷、この世界では、それだけで充分に危うい」


「結構。なら、ようやくこの世界も、不快な比較に耐えるところまで来た」


エドランは、今度こそ短く鼻で笑った。


それから、また真顔に戻った。


「仮にだ」


彼は言った。


「仮に、この発想そのものを受け入れるとして。私に何が返る? 少女の育て方は乱れ、家々は騒ぎ、“女の自然な道を奪うのか”と年寄りどもは喚くだろう。それで得るものは何だ」


彼は肩を少し動かした。


「魔術師の数が増える。予備層が厚くなる。今までのように一部の男と、限られた資質の女だけに頼るのではなく、より広く戦力を持てる。損耗を埋める手段が増える。そして――はい、最後にきれいな言葉も足します――国家そのものが、女を見る目を少し変えざるをえなくなる。産むか、儀式で消費されるか、その二択ではなく、“技術を持つ者”として見る方向へ」


「最後に、自分が本当に押し込みたいものを、ずいぶんきれいに載せたな」


エドランは言った。


「もちろんです」


「隠す気もない」


「その必要が?」


エドランは首を振った。


「お前は、軍事上の利得と秩序への揺さぶりを、都合よく一列に並べてから、“たまたま重なっただけ”という顔をするのが好きだ」


「あなたは、少しだけマシなことが、たまたま少しだけ得でもある時に、それを好むのが好きだ」


彼は答えた。


「だから、たぶん私たちは互いに使い道がある」


それで、エドランはしばらく黙った。


今度の沈黙は、反発ではなかった。もっと深い計算だった。紙の上ではなく、その下で。資源だけでなく、習慣、家、噂、血筋、“女らしさ”についての古い言い回し――そういうものすべてに、この考えを一度重ねてみるための沈黙だった。


「だめだ」


やがて彼は言った。


彼は驚かなかった。


だがすぐに、これは“最終的な拒否”ではないと分かった。


エドランも、その顔を見てそう悟ったのだろう。


「“不可能”という意味ではない」


彼は続けた。


「今は、だ。変わりすぎる。広がりすぎる。明日下す命令でもなければ、今月出す布告でもない」


「だが、考えてはいる」


エドランはまっすぐ見た。


「そうだ。考えている」


それだけでも、十分に大きかった。


一度の会話にしては、大きすぎるほどに。


「この先を考えるなら」


彼は言った。


「始めるのは公ではなく、少数からのほうがいい。公言せずに。能力だけじゃなく、秩序の側の反応も見る。誰が最初に牙を立てるか。誰が告げ口に走るか。逆に、誰がいちばん先に得を嗅ぎつけるか」


「もう計画を作ってきている」


エドランは言った。


「まだ下書きです」


「そうだろうな」


エドランは立ち上がった。会話は、彼の側ではひとまずそこまでだった。


だが最後に、ひとつだけ付け加えた。


「お前は一つ、まだ口にしていない」


「何をです?」


「このことが、国家の戦力だけでなく、女たち自身を変えると、お前は思っているのだろう。変われば、もう以前の役割へ素直には戻らなくなると」


彼は、とぼけなかった。


「はい」


彼は答えた。


「そう思っています」


「それでも提案する」


「だからこそです」


エドランは頷いた。


同意ではない。ただ、こちらが本当のことを言ったと知ったうえで、それをそのまま受け取っただけだった。


「行け」


彼は言った。


「私が、お前に考えを声に出させたこと自体を後悔し始める前に」


彼が女たちの棟へ戻ると、そこにはもう夕方の、ほとんど家庭的ですらある雑然とした気配があった。廊下には湯と薬草の匂い。少し先では、誰がまた良い櫛を持っていって返していないのかで、低い声の言い合いが起きている。厨房の隅では何かが焼けていて、匂いだけで、カイラがまた料理係を口説き落として、捨てるはずだった肉の端切れを“何とか食べられるもの”へ変えさせたのだと分かった。


部屋へ入ると、三人ともいた。


リラは低い卓の前で、茶のための薬草を選り分けていた。アヤノは本を開いていたが、きちんとは読んでいない。視線が時々、頁ではないところに落ちていた。カイラは、何もしていないふりをしていた。だが、その身体の向きひとつで、全部を聞いているのが分かる。


「で?」


最初に言ったのはカイラだった。


「また帰ってきた顔が、“国家をひっくり返したいのか、このまま倒れて死にたいのか分からない人間”みたいだけど」


「後者は今は保留だ」


彼がそう言うと、カイラは満足そうに鼻で笑った。


「じゃあ前者ね」


リラが顔を上げた。


「重かった?」


「はい」


アヤノは本を閉じた。栞も挟まずに。つまり、本気でこちらへ意識を向けたということだ。


「何の話?」


彼は三人を見て、ここであまりに整った言い方から入るのは間違いだと感じた。理解されないからではない。むしろ逆だ。これはもう、彼女たちの誰にとっても抽象では済まない話になりすぎている。


「女の子を、幼いころから魔法に育てられるって話だ」


そう言うと、部屋が静かになった。


カイラでさえ、すぐには割り込まなかった。


最初に訊いたのはアヤノだった。


「もうエドランに言ったの?」


「言った」


カイラがまばたいた。


「待って。それ、ほんとにそのまま? “女を産むか儀式に使うかだけじゃなく、育てて戦力にしよう”って?」


「そこまでひどい言い方はしていない」


「残念。聞いてみたかった」


リラは彼を見ていた。いつもの静けさのままだが、薬草を持つ手はもう止まっている。


「どう返されたの?」


「まず、“どうせ初産までだろう”って」


アヤノの目が、ほんの少しだけ細くなった。


すぐ分かったのだ。


もちろんリラにも分かった。だが彼女の顔には、もっと静かな影として浮かんだ。カイラは、両手を後ろについて少し反った。


「つまり、いつものやつね。まず“どうせ続かない”、次に“育てても消える”、そのあと何かしら“自然な秩序”について」


「だいたいそんな感じだ」


「で?」


「だから言った。女たちは今でもすでに、産む者と、儀式で死ぬ者に分けられてる。だったら、産む者と、魔法を担う者に分け直せばいいって」


カイラの口元に、鋭い笑いが浮かんだ。


「ようやくマシ」


リラは小さく問うた。


「すごく怒った?」


「怒るというより……考えた。抵抗はしてる。変わりすぎるから。でも、考えてはいる」


アヤノは閉じた本の端を指先でなぞった。


「ホウセイなら、たしかにもう少し自然だった」


彼女は言った。


「見習いとか、神殿内の女の枝とか、そういう形へ落とし込みやすいから。こちらはそのぶん難しい」


「俺もほぼ同じことを言った」


彼は答えた。


「でも神殿は必須じゃない。必要なのは制度だ。選ぶこと。教えること。まとめて置いておくこと。家と出産の線へ流れ切る前に、魔法の側へ載せることができる仕組み」


カイラはめずらしく、かなり真面目な目で彼を見た。


「ねえ、それ今の言い方だと、私たちを子どものころからどう改造したら便利か、みたいな話にも聞こえるけど」


「そう聞こえるのは分かってる」


彼は言った。


「だから続きがある。今すぐ公に広げるんじゃない。少人数で、秘密に。まずは、すでにここにいる人間から」


その言葉で、リラがようやく本当に目を上げた。


「私たち?」


「そうだ」


カイラがゆっくり座り直した。


「ちょっと待って。つまり、私たちにまた魔法を教え始めるつもり?」


「そうだ」


「しかも、秘密で」


「そうだ」


「それを、ずいぶん落ち着いて言うのね。うまくすればいい話、失敗したらものすごく面倒な話なのに」


「面倒になる可能性はある」


彼は認めた。


「だから秘密でやる」


アヤノは彼を長く見た。


「なぜ今?」


それが、いちばん正しい問いだった。


彼は、ごまかさなかった。


「世界がもうずれ始めているから。エドランは、すでに十分なところまで見てしまった。今なら、この発想は完全な狂気には見えない。儀はもう、分配型へ動き始めている。ここで、“そのうち”の思いつきのままにしておけば、すべてまた後回しの美しい話で終わる。だから、最初は生きている人間から始めるべきだ。そして――」


彼は一度言葉を切った。


「お前たち三人を通して、俺はこの古い秩序の代価を、あまりにはっきり見すぎた」


カイラは短く息を吐いた。


「ほら来た。きれいに聞こえる言い方。怪しい」


リラは微笑まなかった。だが顔の中に、あの静かな集中が入っていた。もうこれは仮説ではなく、自分たちの日々へ入ってきうるものだと見始めた時の表情だ。


「何を教えるの?」


リラが訊いた。


「最初は制御だけだ。保持。流れを感じること。大きく放つやり方はまだいらない。危ないものもいらない。今必要なのは威力じゃない。繰り返せることだ」


アヤノが最初に頷いた。


「それは理にかなってる」


カイラはすぐにそちらを見た。


「平然と言うわね。もし見つかったら、その“理にかなってる”は一瞬で面倒ごとになるのに」


「分かってる」


アヤノは言った。


「でも今さら、“男だけが学ばれる側である世界”のほうを、私は平気な顔で受け入れられない」


カイラは鼻を鳴らした。だが、以前みたいな棘はなかった。


「そういうところが、ほんと、きちんと嫌いきれないのよね」


リラが訊いたのは、まったく別のことだった。


「それ、私にも本当にやらせたい?」


彼は少し意外に思った。


問いそのものではない。声の置き方に、だ。


「どういう意味だ?」


リラは、弱さからではなく、言葉をきちんと選ぶために、一度だけ視線を落とした。


「学ぶのは怖くない」


彼女は言った。


「あなたも怖くない。でも、魔法って、人を変えるでしょう。流れを感じること、力を持つこと、それを自分の中に置いておくこと。技術ってだけじゃない。世界に立つ感覚そのものも変える。あなたは本当にそれを望んでる? 私たち全員に」


いい問いだった。


生きた問いだった。


不快で、だから良かった。


カイラがすぐに口を挟む。


「それ、“私がもっと扱いにくくなるのが不安”って聞こえるけど?」


リラは静かに彼女を見た。


「違う。彼が、“例外としての私たち”を愛するほうが、“新しい始まりとしての私たち”を愛するより楽なんじゃないかって、そこが少し気になっただけ」


そこで、彼は本当に黙った。


それも、正確すぎるところへ当たっていたからだ。


もちろん、アヤノが最初にそれを見た。


「で?」


彼女が訊いた。


彼は、身を守る言い方をしなかった。


「ある」


彼は認めた。


「俺の中にはそれがある。だからこそ、その便利な場所で止まらないために、先へ進みたい。お前たちを“俺のそばにいる特別な例外”としてだけ扱えば、それもまた、古い秩序を別の形で温存することになる」


カイラはゆっくり笑った。


「今日はやたら正直じゃない」


「邪魔しないで」


アヤノが言った。


「してないわよ。珍しいもの見てるだけ」


リラはまだ彼を見ていた。


「それなら私はやる」


彼女は言った。


「本当にやるなら。身振りじゃなくて」


「本当にだ」


アヤノは本をきちんと閉じ、脇へ置いた。


「私も」


カイラだけが、最後に少し長く間を取った。


いちばん迷っているからではない。ただ、最後の抵抗を挟まずに頷くのが嫌いなだけだ。


「私は、一つ条件付き」


彼女は言った。


「何だ?」


「私たちを、“国家の魔力備蓄の未来”みたいな目で見て話さないこと」


彼は思わず少し笑った。


「約束する」


「よし。じゃあ私も乗る。これでまた宮廷の年寄りどもが苛立つようなら、ちょっと楽しいし」


アヤノは小さく首を振った。


「その言い方は、むしろすごくホウセイっぽい」


「ありがとう」


カイラは言った。


「いまの悪口、ちゃんと受け取った」


リラは小さく笑った。


その時、彼は不意に、これが“本当の始まり”なのだと分かった。布告からではない。改革からでもない。支配者がようやく決断した瞬間からでもない。一つの部屋で、三人の女が、静かに、秘密裏に学び始めることへ同意することからだ。世界にはもうひびが入っている。そのひびに、言葉だけではなく、実践まで差し込まれる。


彼は三人の近くへ座った。


中央ではなく。師としてでもなく。ただ並ぶように。


「じゃあ、最初は小さく始める」


彼は言った。


「とても静かに」


カイラが即座に言う。


「で、私がみんなより才能あったら?」


アヤノが先に返した。


「今よりもっと面倒になる」


「いい感じ」


とカイラ。


「計画通り」


リラは軽く首を振った。静かにはならない日がほとんどだろうと、もう分かっている顔だった。


それでも、止めはしなかった。


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