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第一章

戦争が終わったのは、軍がぶつからなくなった瞬間ではなかった。使者たちが再び互いを死者の名簿ではなく正式な肩書で呼び始めた時ですらなかった。


終わったのは、もっと後だった。城が退屈することを許した、その瞬間だった。


彼にとって、いちばん癇に障ったのは「公式に終わった」という言い方だった。


嘘だからではない。実際、文書は交わされ、印は押され、使者は各地へ走り、ついこの前まで兵の移動や損耗、次の一撃までの時間しか話題にしていなかった広間では、いまや街道や補給、捕虜交換の順序が論じられている。平和は本当に結ばれたのだ。紙も、印璽も、証人も、使節も揃っている。国家というものは、こういう時だけは見事に国家らしい。形に終止符らしい顔を与えるのがうまい。


だが、身体は文言を覚えない。


身体が覚えるのは、刃が人に入る感触だ。魔力が手から離れ、誰かがあまりにも早く倒れて、思考に変わる前に現実になってしまう、その速さだ。そして夜になって、音ではなく「もう起きてしまったことだ」という知識で目が覚めることだ。


だから城の中が本当に危機を過去のものとして扱い始めても、彼には安堵が来なかった。代わりに訪れたのは奇妙な空白だった。周囲はようやく息をついているのに、自分だけはまだそこまで辿り着けていない、そんな感覚だ。


城は細部から変わっていった。厨房ではまたどうでもいいことで言い争いが起きるようになった。中庭では鍛錬のあとも兵たちがすぐに散らず、少し居残るようになった。召使いたちも、次の災厄がいつ廊下を曲がってくるかわからない場所特有の、あの正確すぎる早足をやめていた。


皆、生活へ戻っていく。


彼だけが、まだ完全には戻れない。


窓辺に座り、本は開いていても読まず、彼は中庭を見下ろしていた。考えていたのは平和ではない。代価だった。この思考だけは消えず、形を変えながら居座り続けている。戦時中はまだ単純だった。どれほど醜く歪んだ論理であっても、それは「生き延びるための代価」として見えた。だがいま、平和が署名されてしまったことで、別のものが露わになった。この世界の根幹は何一つ変わっていない。魔法は相変わらず女たちの上に成り立っている。彼女たちの身体、その源としての資質、他人の力のために使い潰されうるという前提の上に。


しかも彼が古い文献や記録から掘り起こしたものは、それをいっそう悪くしていた。より穏当なやり方は存在したのだ。ただ捨てられた。忘れられたのではなく、捨てられた。そちらのほうが都合がよかったからだ。速く、短期的には安く、効率がよかったから。


一度「効率的」になった暴力は、驚くほどの速さで自然に見え始める。


「また世界の仕組みそのものと喧嘩しそうな顔で一点見つめてる」


カイラの声だった。


彼はすぐには振り向かなかった。声だけでどこに立っているか分かる。戸口にもたれ、裸足で、寝起きのまま下ろした髪を揺らし、何もかも少し退屈そうな顔をしながら、それでも一番痛いところから先に刺してくる女だ。


「だいぶ前からですよ」


リラが静かに言った。


彼女は低い卓のそばで布を畳んでいた。片づけているのか、ただ手を動かして落ち着いているのか、その境は曖昧だったが、彼女の手にかかると雑然としたものでも部屋らしさを持ち始める。仮の場所に住まいをつくってしまう、不思議な力が彼女にはあった。


カイラが鼻で笑う。


「ほらね。あんたの陰気な沈黙、もう計測対象になってる」


「沈黙じゃない」彼はまだ窓のほうを見たまま言った。「思考だ」


「違うわね」とカイラ。「自分の中に意地で埋まっていくのを、格好よく言い換えてるだけ」


「たまに同じことです」


今度はアヤノだった。


彼は振り返る。


彼女はもう一つの窓際に座り、本を膝に置いていた。以前のように本の陰に隠れてもいなければ、ここにいないふりをしているわけでもない。ただ、部屋の一部になっていた。会話の一部に。彼らの、奇妙で、それでもいまや確かに成り立っている生活の一部に。カイラほど多弁ではなく、リラほど柔らかくもない。だが言葉はいつも、思ったより正確に深く入る。


「どこが同じなんだ?」彼は尋ねた。


アヤノは視線を上げた。


「もう答えを探してないところ。答えの中で煮えてるだけになってるところです」


カイラが満足そうに笑う。


「そう、それ。だからあたしこの子好きなのよ。綺麗に切るのに、ちゃんと深い」


リラがやわらかく微笑む。


「あなたも深く切りますよ」


「私は綺麗じゃないだけ。流派の違い」


アヤノはわずかに首を振り、それから彼に向き直った。


「また代価のこと、考えてたんですか」


何の代価かは聞かなかった。そこはもう説明がいらない。


「そうだ」


カイラが戸口から離れて近づいてくる。


「じゃあ口にしなさいよ。世界史そのものをいまから個人的に否定しそうな顔で黙ってないで」


彼は溜息をつき、本を閉じて窓辺に置いた。


「代価が消えたわけじゃない」と彼は言った。「今はただ、見ないで済ませやすくなっただけだ。平和は結ばれた、皆ほっとした、安定の話ができる。そういう顔をしていられる。でも魔法の根っこが、相変わらず女たちの消耗の上にあることは、何ひとつ変わってない。ただ“緊急性”がなくなっただけだ」


カイラは腕を組んだ。


「つまり、周りがあっさり息をつきすぎてるのが気に食わない」


「気に食わないのは、それを“普通”だと思ってることだ」


「彼らにとっては、ね」


アヤノが静かに繰り返した。


彼は彼女を見た。


座り方は変わらないのに、顔つきだけが少し引き締まっている。彼女が本当に会話の中に入ってきた時の表情だった。


「“彼らにとっては”って言った」とアヤノ。「私がこの世界の外側の人間みたいに」


「そういう意味じゃない」


「分かってます。でも、それでも違います」


カイラの笑みが消え、リラも布を置いた。


アヤノは自分で続けた。誰にも意味を和らげさせないように。


「平和は結ばれた。皆、喜ぶべきなんだと思います。でも私は、ちゃんと喜べない。向こう側に、知っている人たちがいるから。親しいわけじゃない。友達でもない。でも同じ広間に立って、同じ訓練場にいて、毎日声を聞いていた人たちです。その中の何人かは、あとで私たちの前に出てきた」


少し間を置く。弱さではなく、言いたくない言葉の形を選ぶための間だった。


「私は、彼らを直接一人も殺していません」と彼女は言った。「でもそれで無関係にはなれない。私はこの側にいた。彼らが死ぬ間、生きていた。たとえ正式にはもう平和でも、それで彼らが“かつて同じ命令の下にいた人たち”に戻るわけじゃない」


リラが立ち上がり、そばへ寄ったが、すぐには触れなかった。


「アヤノ……」


彼女は小さく首を振る。


「後悔してるわけじゃないです。この側を選んだことを。たぶん、もう一度でも同じ側を選ぶ。でも、それと“平気”は違う」


彼は彼女を見つめた。胸の奥で、嫌なほど素直な感情が疼いた。彼はついさっきまで、彼女の過去を制度として、神殿として、政治として、象徴として考えていた。だが彼女はいま、人について話していた。彼もまた殺した人々について。顔も知らず、名前も知らず、知る暇さえ自分に許さなかった人々について。


「俺も、平気じゃない」


カイラが勢いよく彼のほうを向いた。


「やっと言った」


「何がだ」


「そういうことを、変に理屈で包まずに言うのを。まず理論を作ってからでないと当たり前のことも認められない、その面倒くさい男の癖をようやく一個飛ばした」


リラが小さく笑いを漏らす。


「それは少し、言い方が……」


「きつい?」とカイラ。「でも正しいでしょ」


彼は反論しなかった。できなかった、と言ったほうが近い。


リラはようやくアヤノの肩に触れた。ふわりと、形だけではなく本当に優しく。


「平和のあと、すぐ楽にならなくてもいいんです」と彼女は言う。「戦争が感じさせなかったものを、平和になってからやっと感じることもありますから」


アヤノは一瞬だけ目を閉じた。


「たぶん、そうなんでしょうね」


カイラは彼の寝台の端に腰を下ろし、脚を組んで、三人を見回した。ややこしい人間ばかり集めた自覚はあるくせに、もうこの組み合わせを手放す気はまるでない顔だった。


「よし、整理しよう。一人は世界の仕組みを憎んでる。一人は平和の中で平和を許せてない。一人はみんなを優しく包もうとして、結果もっと重くしてる。そして精神的に一番健康なのが私」


リラが今度ははっきり笑った。


「それは違います」


「早いな否定が」


「あなたもちゃんと苦しいです。ただ、先に怒るだけで」


カイラは唇を引き結び、それから不承不承という顔で鼻を鳴らした。


「……まあ、少しはね」


アヤノがかすかに笑う。


「今のは、ほとんど告白でした」


「調子に乗らないで」とカイラ。「私は限定的にしか優しくないの」


彼は三人のやり取りを聞きながら、安堵ではない熱を覚えていた。派手でも明るくもない、だが確かに家の温度に近い熱だ。それがむしろ危うかった。これこそが今の自分の本当の弱点なのだと分かってしまうからだ。傷でも、魔力でも、国家の思惑でもない。彼女たちの声。こんなふうに言い合えること。アヤノがもう部屋の外側に立っていないこと。リラが庇うのではなく支えること。カイラが愛情を侮辱みたいな口調で投げつけ、それでも一番まっすぐ届くこと。


その時、扉が叩かれた。


妙に間のいいタイミングだった。現実のほうが、今夜はこのくらい正直で充分だろうと言いにきたみたいに。


真っ先にカイラが目を上げた。


「ほら。会話が生きてきた瞬間にこれ」


彼は立ち上がり、自分で扉を開けた。


立っていたのは普通の召使いではなく、エドランの近くで使われる男だった。こういう者が来る時は、たいてい日常では済まない。


「陛下がお呼びです」と男は言った。「お二人を」


言い終える前に、ほんのわずかに視線がアヤノへ流れる。それで充分だった。


扉が閉まると、部屋の空気ははっきり変わった。


「今のは嫌な予感しかしない」とカイラ。


リラはアヤノを見た。


「神殿国家のことだと思う?」


アヤノはゆっくり立ち上がった。


「たぶん」


声に取り乱しはなかった。だが彼はいまの彼女をもう十分に知っていた。平静の下にあるものが聞こえる程度には。恐怖というより、内側がひとつ縮むような感じ。自分の中でできれば閉ざしておきたい部分へ、また視線を向けねばならない人間の緊張だった。


彼女は彼を見る。


「もしあの国のことなら、私は行きたくない」


「分かってる」


アヤノは首を振った。


「いいえ。あなたが分かってるのは、私が“場所として”行きたくないということ。でもそれだけじゃない。もう平和は結ばれた。公式には終わってる。だから、これから向こうへ行くなら、それは“戦争の必要”じゃなくて、私自身の選択になる。分かりますか。戦争の間は、言わずに済むことがたくさんあった。でも、もう無理です」


その静かな言い方のせいで、カイラでさえ茶化さなかった。ただ、思いのほか真面目にアヤノを見た。


「なおさらでしょ」と彼女は言う。「向こうがあんたを呼ぶなら、それはもう戦争の話じゃない」


リラも頷いた。


「ええ。もう、個人的なことです」


彼は三人を見て、この瞬間が本当の意味での“次”の始まりなのだと理解した。勝利でも、平和でも、魔法の新しい知識でもない。ここだ。公式の戦争が終わったからこそ、罪や選択や、人と人のあいだに残るものを、もう国家の言葉でごまかせなくなった、この場所だ。


「行こう」


そう言うと、アヤノは息を吐いた。落ち着いたのではない。ただ、覚悟の形に整えたのだ。


「はい」


二人が部屋を出た時、彼はもう分かっていた。エドランがこれから何を言おうと、それは古い戦争の続きではない。


もっと厄介で、もっと正直な何かの始まりなのだ。

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