5章 力と守るもの
ダルクさんはヌルリとこちらに向かって、動き出す。
「なぜ、融合なんて事をした」
ダルクさんは首をかしげる。
「なぜ?おもしろい事を聞く。世の中は力が全てだからだよ」
彼は拳を握りしめる。
「力があればなんだってできるんだよ。ガントフォレストの時だって力があればあいつらは死なずにすんだんだ!」
ガントフォレスト、先生が僕の村に来るきっかけになった魔物の名前だ。
「お前だってこの力の前で何もできないだろ」
ダルクさんはヌルっと蛇の様に、ジクハさんに近づき殴りつける。ガンとまるで鉄と鉄がぶつかる音がした。
「ぐ、なんだその力は」
ジクハさんは盾で防いではいるが、ジリジリと押されてる様に見える。一発、二発、三発と殴りつけるダルクさん。
「オル!」
矢と共にアーチェさんの引きつった声が聞こえてきた。僕は目の前の光景が、今だ理解ができずに体が動かない。
飛んできた矢はカツンとダルクさんの体に当たるが、何事もなく折れて地面に落ちる。
「そんなもの効かないって言ってるんだよ」
荒々しい声が僕の耳に響く。
「ダルクさん正気に戻って下さい。ダルクさん」
「そういえば君がいたな」
ダルクさんは不敵に笑った。
「思えば君が一番の予定外だったな」
ダルクさんはジクハさんを殴り続け、とうとうジクハさんは片膝を突いてしまった。
「思えばグルッセルの時からだったかな」
グルッセル?あの時からダルクさんは関わっていたのか?
「次はジュエルベアーか、あの時ヴィンセントを殺す予定だったのに、お前が予定を狂わせたな」
蛇の瞳の様に怪しい瞳で、僕を睨みつける。先生を殺す?本当に何を言っているんだ?
「お前の魔法はなかなか強力だったな。お前は何を望んでいる?」
冷たい視線が僕の瞳を突き刺す。
「お前はどうして、そんな激しい魔法をイメージした?」
僕の中に何か冷たいものが入り込んでくる。
「オル君!耳を貸すな」
遠くの方でジクハさんの声がする。
「うるさいな」
ダルクさんはジクハさんを地面に叩きつけ頭を踏みつけた。
「お前はなんのために魔法を得た?」
僕は、僕は・・・何のために?覚えたのだろう?
「お前の炎は全てを焼き尽くすためではないのか?」
焼き尽くすため?本当にそうなのか?本当に?
「でたらめを言うな」
僕は走り出した、目の前にいる異型の人間に刃を振り落とした。しかし異型の人間はヌルリと軽々しく避ける。
そしてダルクさんだった異型の者は僕の方に一歩、二歩と近づき右手を僕に出した。
「俺と一緒に来ないか?俺は力を、お前は魔法を追求すれば良い」
僕は何を言われているのか分からなかった。
「魔物と融合すれば簡単な事だ!俺と一緒に全てを手に入れよう」
本当に全てを手に入れれるのか?それを僕は望んでいるのか?
「オル君しっかりするんだ」
僕の前にボロボロになった盾を持った男が現れた。
「こんなやつの話を聞いたらいけない!」
「良い所なのに邪魔をするな」
異型の拳はジクハさんの盾を粉々に破壊した。盾の破片が僕の剣の火に反射する。反射する光は祭りで踊った先生の火の光と重なっていく。
「違う。僕の炎は人を守るためのものだ」
僕は人を守るために、ディミを助けるためにこの剣を握るんだ。
僕はジクハさんの前に立ち、剣を握りなおした。異型の人間は一歩後ろに後ずさった。
「お前もつまらない人間の側か」
異型の人間は唾を地面に投げつける。
どうする?前に出たはいいが、僕の炎の剣では当てる事ができない。後ろには膝を突いたジクハさんがいる。どうする?僕はジクハさんを守る事ができないのか?守る?そうか!
「今から何をやっても遅い」
異型は拳を振り上げる。僕はジクハさんのような盾を思い浮かべる。
「己とは何か、己が守るものは何か」
火の剣は広がり、そして留まり僕達を守ってくれる存在になっていく。
「なんだ。今度は盾だと」
異型の人間は数歩、下がり警戒心をあらわにする。
「土壇場で覚えただと」
頭を掻きむしる異型の人間。
「まぁ、いいすぐ消え、ガハ」
異型の人間は、喉の奥から血を吐き出した。
「融合したての弊害か」
血を拭い異型の人間は闇に消えていく。
「今日の所は見逃してあげましょう」
ダルクさんだった男は、その場からスーっと闇に消えていった。
「助かったのか?」
力が急に抜け、膝が地面に落ちていく。
「すまない。俺は何も助ける事できなかった」
すっと横からアーチェさんが僕を支えてくれた。
「何だと、ダルクの野郎がか!」
マスターが書類を書いている手を止めた。
「はい。魔物を生み出していたような事を、言っていました」
アーチェさんの言葉にマスターはこちらを向いた。僕とアーチェさんはギルドに今回の報告に来ていた。
「時期は?あいつはいつからか言っていたか?」
「僕の村のグルッセルの事件は関わっていたみたいです」
マスターのペンが折れた。
「そんな前からか」
マスターは深い溜息を付いた。扉からコンコンと音がしてフィルシーさんが入ってきた。
「今忙しい。あとにしてくれないか」
マスターは邪魔ものを追い払う仕草をする。
「いえ、ヴィンセントさんから急ぎの手紙です。多分この件にも関わっていると思います」
先生からの手紙?
「そうか、アジトに向かったんだったな。貸してみろ」
マスターはフィルシーさんからバッと手紙を受け取り、読むと頭を抱え込んでしまった。
「ヴィンセントが向かった所にも、ダルクの痕跡が見つかったらしい」
マスターは一度深呼吸して僕達の方を向いた。
「こちらも少し整理したい。また明日詳しく聞く。今日の分の報酬を受け取って帰ってくれ、もちろん上乗せして払う」
僕達はそのままギルドを出た。
「俺はジクハに報酬を渡して、帰るからまた明日な」
ジクハさんは街に戻ると医療所にまっすぐ向かっていた。
「また明日な」
アーチェさんは手を振って去っていった。
「オ〜ル〜」
横から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「終わったの〜?」
ディミが僕の顔を覗いてきた。
「どうしたの〜?」
ディミにダルクさんの事を伝えると、きっとショックを受けるだろう。どこまで話すべきなのか分からない。僕は彼女から顔を反らした。
「ん〜。そうだ」
ディミは急に僕の腕を掴んだ。
「昨日言った屋台連れて行くね〜」
「ちょっと僕そんな気分じゃないんだけど」
僕はディミの手を振りほどこうとしたが、ディミは離してくれなかった。
「いいから、いいから〜」
僕は無理やり引っ張られて屋台までやってきた。
「ここ。ここ〜」
香ばしい匂いが漂ってくると、不思議とお腹が空いてきた気がした。僕達は焼き串を何本か買い近くのベンチに座った。
「さぁ、食べよ〜」
ディミはすぐに食べ始めた。僕も釣られて食べ始めたがディミがお勧めするのが分かる。あっという間に食べてしまった。
「どう?落ち着いた〜?」
不意に彼女が空を見ながら、僕に質問してきた。
「僕ってそんなに分かりやすい?」
彼女がこちらを見てニヒヒと笑う。僕は今日あった出来事をディミに伝えた。
「ダルクさんが・・・」
ディミも言葉がでないようだった。
「僕、ダルクさんに何のための力かって言われた時、すぐに答えがでなかったんだ」
僕はディミの顔をまっすぐ見る。
「でも、ディミの顔が浮かんだ時、君や人を守る為の力なんだって思えたんだ」
辺りは少しずつ日が落ち、赤く染まっていく。
「ありがとう。気づかせてくれて」
彼女は優しく僕に微笑んでくれた。夕日に照らされた彼女はとても眩しく見えた。
〜終わり〜
オルのお話第3弾を執筆しました。
今回はオルが初めて行く街に戸惑いながら仕事をして、信頼いていた人物が裏切り、そして自分の中の魔法の新しい形を見つけるお話でした。
全5章、最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。
もしこの先の話や先生の過去の話など、読んでみたい展開があれば、ぜひご意見・ご感想お待ちしています。




