4章 突然の冒険
「オル君、頼みます」
「はい」
僕は一回呼吸をして、体と心を落ち着かせる。
「火は己の一部、火は自ら生まれ、そして広がっていく」
僕の手の中に火が現れる。この火は僕の一部だ。僕が消すまで決して消える事がない。
「おぉ、さすがヴィンセントさんのお弟子さんだ」
ジクハさんが目を丸くする。ここでも先生の名前がでてきた。先生はどれだけすごいのだろうか?昨日フィルシーさんが言っていたが具体的な事は聞いていない。帰ったら聞いてみるのも面白いかもしれない。
「これだと安心して任せられますね」
アーチェさんは弓を構える。
「では行きます」
先頭からジクハさん、僕、ダルクさん一番後ろにアーチェさんの順番だ。
少しずつ、少しずつ進んでいく。洞窟の中は暗くどこまで続いているか分からない。僕の魔法では奥まで見えない。
「オル君、緊張しているみたいだな。もう少し気を抜いてくれ。こっちも緊張してくる」
僕はそれほど緊張していたのか。気づくと額にじっとりと汗をかいていた。
「ジクハ、それは難しい事だ。なぁオル君」
アーチェさんが、ジクハさんを諭すように呟いた。
「何でも初めてなんだからさ。俺達もそんな時があっただろう」
「そうだな。すまない」
ジクハさんは僕に向かって一礼した。
「いえ。気にしてませんよ」
ん?奥から微かに獣臭い匂いがしてきていないか?
「どうした?オル君?」
ダルクさんが声をかけてくれた。
「いえ、なんか生き物の匂いのようなのを感じたのですが」
みんながピタッと動きを止めた。
「流石だな」
ダルクさんが小声で呟いた。
「オル君、匂いはこの奥からか?」
ダルクさんの声に、僕は慌て首を振った。
「僕の勘違いかも知れないですよ」
ジクハさんが、ゆっくりと静かに声を発する。
「それは違うよ。その気づきは、もし違ってでもみんなの無事に繋がるかもしれないし、とても重要な事だよ」
ジクハさんの声は重く心に響き渡る。
「オル君も戦闘体制に入ってくれ」
僕は頷き、火をだしている手で、腰にある剣の柄を握る。
「己とは何か、己の体はどこにある」
火の光はスゥっと伸び剣の形に形成されていく。僕はゆっくりと剣を構えた。
「それが噂の剣ね。すごいな」
後ろからアーチェさんの声が聞こえる。
僕の準備が終わると、ジクハさんはゆっくりと奥に進み出した。奥に進むにつれ、獣の匂いがきつくなり、カツカツと鉄のようなこすれる音が聞こえてきた。
「アーチェ、何か見えるか?」
アーチェさんは、人より夜目が利くと教わっていた。
「どうやら、ストーンスネークみたいだね。まだブロンズってところかな」
僕は何か動いているぐらいしか分からない。名前からして硬いヘビだろうか?
「他にはいないみたいだよ」
答えを聞いたジクハさんは、僕を向いた。
「オル君、君の剣はどのくらいのものが切れる?」
正直、その答えに僕は困ってしまった。実際どこまで切れるか試した事がない。
「オル君の魔法はジュエルベアーくらいは軽く切れるよ。あの魔物くらいなら余裕だと思うよ」
横にいるダルクさんが、付け加えてくれた。
「よし、やつは耳があまり聞こえないから俺が先に行く。ダルクとアーチェが援護しつつ、オル君が一気に行ってくれ」
みんな僕の方を見る。その中でダルクさんが頷いてくれた。
「分かりました」
ジクハさんが魔物に剣を構えた。
「いくぞ」
ジクハさんが走り出した。金属の鎧を着込んでいるせいか、ガンガンと小刻みに金属の音がぶつかる音が聞こえる。
奥に進むにつれ岩だと思っていた物体が、ヌルリと動き出した。
「来るぞ」
物体が一本の棒になって向かってきた。ピュっと風を切り裂く音とともに、後ろから矢が飛んで来る。矢は物体に当たったがカツンと壁に当たったような音がした。
ドンと、ジクハさんが盾で防ぎその魔物の巨体は横に跳ね返った。僕の火に照り返されて魔物の体が照らし出された。巨大な蛇だった。斑状に岩の様な箇所がある。舌をニュロニュロとだしながら、こちらを観察しているように見える。
蛇は僕に向かってヌルリと滑るように向かってきた。
「ダルク、オル君のサポートを」
ジクハさんの叫び声に、ダルクさんの返答はない。
「ダルク、どうしたんだ」
叫びながらジクハさんが僕の前に出て、ドシンと盾で受け止める。
「オル君、今だ」
ジクハさんの声と共に、僕は前に出て切りつけたが、蛇は体をくねらせ後ろに下がった。
「しまった」
蛇の肉の部分は切りつける事ができたが、石のような所には傷をつける事ができなかった。
ビュッと風が唸る音が聞こえ、すぐさまドシンと横から音が聞こえた。
「大丈夫か」
ジクハさんが僕の横に出て、何かを受け止めてくれたようだ。
「尻尾も気をつけないとな」
ジクハはふぅと一回息を吐き、盾を構え直す。
「ダルクはどうした?」
辺りを見渡すがダルクさんの姿がない。まさかいつの間にか攻撃を受けたのか?
「気になるがそれどころじゃないな。アーチェ行けるか!」
「任せろ」
声と共に数本の矢が次々と蛇に向かっていく。硬い体で二、三本は防げたようだが、残りは刺さり魔物は声なき声を上げた。その隙にジクハさんは近づき、盾を蛇に押し付けた。
「今だ!」
ジクハさんの声と共に僕は飛んだ。僕は蛇の体を切れるイメージを想像する。僕の火の剣は赤々と燃え、蛇の体を真っ二つにした。
「やったな」
ジクハさんが歓喜の声を上げた。僕はジクハさんの所に駆け寄った。
「すごいなあんな硬い魔物を綺麗に真っ二つだ」
「やれやれせっかく育てたのに、あっさりとやられてしまいましたね」
僕の後ろから、ダルクさんの失望した声が聞こえてきた。
「まぁ、実験としてはいい出来だったのかな?」
振り向くとダルクさんは魔物の側に近づいて行く。
「ダルク?お前どこにいた?」
ジクハさんが何が起こったのか分からず、ダルクさんに呼びかけるが、何も答えずダルクさんは死体から何かを取り出した。
「お前どういう事だ」
ジクハさんが声を荒げながら身構える。
「フフ、これからが面白いところです」
取り出したのは何かの結晶だった。結晶は不気味な煙を放ちダルクさんの体を包んでいく。煙に触れた体は魔物の様になっていった。
「まぁまぁかな」
ダルクさんは、何度か拳を握りしめる。
「ダルク、その姿は一体なんだ」
ジクハさんが姿勢を低くして叫ぶ。
「だから実験だったんだよ」
ダルクさんは人を馬鹿にしたように話す。
「生き物を魔物にできないかっていうな」
ダルクさんは天井を見上げた。
「そういう事か、お前はさっき、あの魔物って言っていたな。つまりはお前はこの魔物を知っていたって事か」
「ジクハは意外と頭が回るな」
ダルクさんは小馬鹿にしたようにジクハさんを見る。
「そしてな。もう一つ実験があったんだよ。それが」
ダルクさんは自分の身体を指さした。
「魔物と人間の融合っていうな」
読んでいただきありがとうございます。
急な依頼で洞窟に向かう事になったオル。そして突然の仲間の裏切り。
オルは何を思うのか?
次回で最終回になります。楽しんでもらえると嬉しいです
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