2章 初めての街へ
ガタガタ、ガタガタン。
ん?何だ?なんで揺れてるんだっけ?
「オル起きた〜」
隣で座っているディミが、ニコニコしながらこちらを見ている。そうだった。先生のお願いで街に行ってるんだった。
「どのくらい寝てた?」
「お昼ご飯食べてすぐぐらいだよ〜」
ディミが他の乗客に迷惑をかけないように、声を抑えて笑った。僕は外を見ると影が少し横に伸びていた。
「結構寝てたな」
「慣れてないから、疲れてたんじゃな〜い?」
隣町のリッカルから乗り合いの馬車に揺られて一日、途中の村で一晩過ごしたが、ただ座っているだけだと、ディミが言ったように疲れたのかもしれない。
「確かにな」
ガタンガタンと、心地良い揺れが続くとアクビがでてしまう。また寝てしまいそうである。
「オルは此処まで来た事ないんだよね?」
「ん。そうだな。初めてだな」
「私にまかせてよ〜。ギルドにもたまに納品あるから、場所は分かるよ〜」
いつものんびりしているが、今日は何だかディミが頼もしく見える。
「じゃ、頼むよ」
ディミがエヘヘと笑う。
「街が見えてきたよ〜」
ディミが目の前を指差す。見えてきたのはリッカルの村にはない石壁だった。
「中が壁で見えないな」
石壁は家を隠すように高くそびえ立ち、ぐるっと囲っているように見える。
「ダイヤリルの街は東西南北に入口があって、そこから入るんだよ〜」
城壁の入口に行くと、鎧を着込んだ兵隊が荷物をチェックしていた。
「うちの村と違うようね〜」
ディミが言うようにリッカルの村では、挨拶をするくらいで簡単に村に入れる。それほどダイヤリルは危険なのだろうか?
「そう緊張しないの〜、見た感じより簡単だよ〜」
僕達の番にくると兵士が近づいてきた。見た感じ僕達と同じくらいだろうか?
「今日はインテル君だ」
インテルと呼ばれた兵士は、少し顔が緩んでディミを見る。
「ディミさん。こんにちは。お久しぶりです。今日はお父さんとは、一緒じゃないんすか?」
「そうだよ〜。検品よろしく〜」
インテルはディミの荷物の蓋を軽く上げると、苦みのある匂いが辺りを包む。インテルは軽く見るとすぐに閉めた。
「今回もどうぞ。こちらの方は?」
インテルはディミの時とは違って、僕を睨みつける。
「前に話したオルだよ〜」
「あぁ、君ですか」
僕、なんか悪い事でもしたかな?視線が痛い。
「あ、オル、手紙だして」
ディミに言われるまま、僕はインテルに手紙を渡した。
「ギルドにですね。ちなみに誰からですか?」
インテルの声は優しいようで、トゲがある言い方だった。
「先生からです。裏に名前が」
彼は手紙の裏を見て表情が変わった。
「ヴィンセントさんのお弟子さんでしたか。これは失礼しました」
急に背筋をピンと伸ばし、緊張した様子になるインテル。
「先生とお知り合いですか?」
「あ、いえそういうわけではないのですがヴィンセントさんの噂は色々ありますので、尊敬しているんです」
先生の噂?なんの事だろう?聞いた事がない。
「では他の人もありますので失礼します」
インテルは他の人の聞き取りに行った。
「ヴィンセントさんなんか凄い人らしいよ〜。私はあまり知らないけど、ギルドの人に聞いてみたら〜」
「そうだな」
ギルドに行った時にでも聞いてみよう。インテルの取り調べが終わり、街に入ってみると見た事がない景色が広がっていた。
二階建てでレンガ作りの色とりどりの壁、剥き出しの木の板で作られてる僕達の村と大違いだ。道だってそうだ。石が敷き詰められてコツコツと音がなって歩きやすい。
「キョロキョロしてオル、面白〜い」
横にいるディミが口元に手を丸めて笑っている。
「何だよ。悪いか」
僕はなんだか悔しくなって、ディミとは逆の方を向いた。
「あ、拗ねてる〜」
ディミが笑いをこらえているのが分かる。
「後で美味しいもの案内するから許してよ〜」
美味しいもの、きっと僕達の村と違うんだろうな。
「まぁ、それでいいよ。ディミは年に二回来るんだっけ?」
「うん。四年位前からかな〜」
年に二回。それにしては、ものすごく慣れている気がする。
「あ、そこに冒険者ギルドがあるよ。私も顔を出したいし行こう」
ディミが指さした先に大きな建物があった。入口の上には冒険者ギルドと書いてある。重々しい扉を開けると目の前に女性が立っていた。
「あそこがカウンターだよ」
ディミが教えてくれる。カウンターの人がニッコリと笑いかけてくれる。
「どうしました?」
女性の凛とした声が聞こえてくる。
「こんにちは、フィルシーさん」
フィルシーと呼ばれた女性は、ディミの顔を見て表情が柔らかくなった。
「あら、ディミさん。お久しぶりです。お薬の納品ですか?」
そういえば、薬の納品で冒険者ギルドにも行くと言っていたっけ。
「それは明日また来ます。今日は別で、ほらオル」
僕は促されてカウンターに歩いていき、カバンから手紙を取り出した。
「僕の先生から預かってきた手紙です」
フィルシーさんは流れるような動作で、受け取ってくれた。
「お預かりいたします」
受け取るとフィルシーさんの長い髪が、はらりと前に垂れた。彼女は髪をかき上げ耳の後ろに髪を戻した。
「ちょっと、オル見過ぎだって〜」
急にディミに声をかけられ、一歩後ずさってしまった。
「まぁ、フィルシーさん綺麗だから仕方ないよね〜」
「あら、ディミさん。お世辞でも嬉しいですよ」
フィルシーさんは手紙の裏を見て、少し眉をピクっと動かした。
「先生ってヴィンセントさんですか?」
「はい。そうですが。どうかされましたか?」
フィルシーさんは顎に手をやって、少し考えた様子になる。
「オルさんってこの後、ご用事ありますか?」
先生からは何も言われてないし、後はディミにご飯を案内してもらうだけか。
「いえ。特にないです」
「では、少しお時間下さい。そちらの椅子に座ってお待ち下さい」
フィルシーさんは慌てて奥に入っていった。僕達は顔を見合わせる。
「どうしたんだろうね〜?」
「僕、何かしたかな?」
僕達は言われるまま、いくつもある椅子に座った。
「いつもはたくさん人がいるんだけど、今日はどうしたんだろう?」
ディミが不思議そうな顔をする。その時、急に横から僕達に向けて声が聞こえてきた。
「そこにいるのは、オル君とディミさんじゃないか」
振り向くと、銀髪の男の人が立っていた。
「ダルクさんお久しぶりです」
「どうしたんだい?」
ダルクさんは向かいの席に座った。
「先生のお使いです」
「ほぉ、ヴィンセントさんは来なかったのかい?」
「別の場所に行くので、まかされました」
一瞬、ダルクさんの唇が緩んだ様に見えた。
「どうかしたかい?」
ダルクさんの表情はさっきと変わらない。きっと見間違えだろう。
「何でもないです」
「ねぇ〜。ダルクさん。今日は人少ないよね〜?」
ディミの質問にダルクさんは、ぐるっと辺りを見渡した。
「まぁ、そうだな。今、この間の君達の村であったような事がまた何件かあってね。大半はそっちの対応をしている感じだよ」
「え、ジュエルベアーみたいな魔物がまた出たんですか?」
ダルクさんはコクリと頷いた。
「オルってのは、こいつでいいのか?お、ダルクもいるのか丁度良い」
石のような重い声が後ろから聞こえてきた。
「マスター、その言い方はちょっと失礼ですよ」
フィルシーさんの声も聞こえたので、僕はちょっと安心して振り返ると、そこにがっしりした大男が立っていた。
読んでいただきありがとうございます。
初めての石畳の街や、冒険者ギルドの雰囲気に心高まるオル。
楽しんでもらえたら嬉しいです。
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