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17.術札

読んで頂きありがとうございます。

この章から読まれた方は、是非【ユキア・サガ 航海① ネフシュタンの魔片 第一巻 第1章】から読んで頂けますと、幸甚です。


 ピッコロからの情報と地図をもとにし、警備の甘い海軍施設から、一ヵ所ずつ変化の術を駆使して、私はロックの所在の手掛かりを毎日捜索していた。

 が、奇妙なことに、全く何もつかめずにいた。

 ピッコロやモンテも情報収集に協力してくれているのだが、結果の出ない日々が続く。

ーー某日。

 キラさんから、ユキア様とザザ達と合流して、レムスで滞在できる銀の匙という宿で準備ができたと、ギルド・アルカに連絡が入った。

 その翌日からレイはナーヌス山を出て銀の匙へ移っている。

 隠れ家の様な宿の佇まいに、珍重な紫檀をふんだんに用い、紫を基調ととした客室の内装と相まって、気韻に満ちた落ち着ける場所だったので、私は安堵した。

 さすがはキラさんが手配した宿だ。と私は感心するばかり。

 寝室は5部屋、広いソッジョルノと書斎もあった。

 浴室とバグノは別々。

 ソッジョルノに隣接した台所には、パン窯も完備。

 セルモは全室にある。

 私の希望以上の宿だった。

 キラさんの話によると、元々この部屋には台所はなかったらしいのだが、宿の支配人が「そういう部屋もあってよさそうですな」と寝室の一部屋を改装したとのこと。

 支配人にそう言わせるだけの何かが、キラさんにあるに相違あるまい。

 私はそう沈吟した。

 それぞれの居室空間には、格調高い調度品が見事に配置され、居心地を良くしている。

 だが……。

 深夜、碧みがかった黒豹の獣人に変化してソッジョルノに出てきた私の瞳の底には、苦悩の影が沈む。

 ロックの所在、足取りが何一つ掴めず行き詰っているからだ。

 実際のところ、私は胸臆で焦っている。

 何としてでもユキア様がレムスに到着する前には、ロックの居場所を突き止めておきたい。

 その為に、レムスへ先入りしたというに、全く情けない……。

 ユキア様からザザよりも腕を買ってもらって頂いたのに、この様は何だっ!

 調子者に見えるが、根が真面目なザザは己の任務に抜かりはない筈。

 負けるわけにはいかぬ。

 私は到頭、厳重な警備が張り巡らされている神聖ロムルス皇国海軍本部に、潜入する決断を下す。

 黒豹の獣人に変化していた故由はそのことだった。

 深夜の暗闇に紛れて、素早く、力強く行動する為に。

ーー然し、結果は出なかった。

 海軍の名簿のどこにも、ロックの名前はなかった。退役軍人も含めて。

 私には、それが不自然に思えたし、何か嫌な予感がした。


 ※※※※※


 翌日の夕刻。

 私は夕闇が忍び込むソッジョルノの床で胡坐を組み、思案に耽っていた。

 暫くして閉じていた目蓋を開き立ち上がる。

 「陣、在、闘」印を結び、刀、結の陰と続け三字を切り、左腰に装備している愛刀、篠の雪ーー名腰三十三刀の一つーーの刃の上の右手親指をすっと走らせた。

 私は親指からにじみ出る血を宙に躍らせ「時遁、口寄せノ術」術を唱えた。

 私の見上げた空間が、大きく渦巻き、歪み、拡大し、皓い閃光が鋭く四方八方に散る。

 眉目艶麗、美々しく清楚な女性が粉雪をまとい、ふわりと私の前に立つ。

 その面は、キラ・ユ・ガイアとそっくりだ。

 異なるのは、キラよりも少し大人びた雰囲気であることと、服装、その瞳の色の違いだけ。

 私の前に現れた女性の切れ長の藍色の瞳が妖し気に、冴え冴えとした耀きを放つ。

「レイ、三カ月ぶりですね。変わりはありませぬか?」

 聖獣ビオリス姉妹の一人、キョウの聲はしっとりとして穏やかだ。

 雪が透けるような皓透色の肌に豊かに流れる黒髪が、妖麗さを増し加えている。

 肌と同色の着物だから、立ち居振る舞いが艶めかしく、裾の上部に広がる雪原にはらはらと雪が舞っている。

 2人はディバーノにクリスタッルムの卓子を挟んで、それぞれ向かい合って座る。

「キョウ、申し訳ないが、無理を願いたい」

 私はそう前置きし、ユキア様の国抜けから現在に至る全てを丁寧に説明した。

「然様なことになっていたのですか……」キョウは驚いたというより、到頭そうなってしまったのかという声色で「ユキア殿がパークスを離れたとは……。

 心配には及びませぬ。

 妾は何なりとお手伝いいたしましょう」

「然らば、海兵が良く出入りする酒場や賭博場等でロックの所在、情報収集を願いたき。

 キョウも存じている通り、私は酒を極力飲まぬようにしておる故、大衆食堂や、リストランテを中心に動こうと思う。

 キョウにとって酒は水みたいなものだし、大人の女人故、力を借りたい」 

「妾など」キョウは袖で口許を隠しくすくす笑い「レン姉様や、メグ姉様と比べたら、美しさも酒量も大したことはありませぬ」そう答え一言。

「変化」

 座っているキョウの四囲を純白の粉雪が吹雪くが如くその姿を隠す。

 程無くして吹雪がすっかり消えさり、白銀に煌めくアーピト・ディ・セーターーシルクのドレスーーを着た踊り子姿のっキョウの姿が現れ、艶然と微笑んでいる。

 キョウは印を結びもせず、ただ術の名を唱えただけで踊り子に変化したのだ。

 確かに踊り子姿なら、酒場でも賭博場でも出入りに支障はあるまい。

 私は、キョウの陰も詠唱も必要としない術と、任務に最適な姿を瞬発的に判断、選択した両方に賛辞を贈りたい心情になった。

「レイも早くキョウのように印を省いて、自由自在な術を操れるようになりたい……」

 思いがけず心の聲がぽろりと漏れてしまう。

「其方ががそれを成し遂げた時には、もう妾も必要としなくなるでしょう」

 キョウがちらりと見せた寂し気な容色は、ぞっとする程に美しい。

「いや、そういう訳ではない。レイはまだキョウの力添えを必要としている故に」私は動揺してしまう。

「サイゾウ殿以来、誰一人として、存在してはおりませぬが、妾は其方こそレン姉様の姿を目にすることができると信じて疑いませぬ」

「時にキョウ、一つ訪ねたいことがある」私は遠慮気味に訊く「エマ、サヤ、ナギサ、キョウは全員そっくりで、服装や髪の毛が違う程度。

 おそらく、レン、メグも同じなのだろう」

 キョウは話題を変えた私に対し、優美にこくりした。

「然れば、ヒト族にビオリス姉妹にそっくりな存在がいることは、存じているか?」

「はい。存じております」キョウはその事実をあっさり認めたが「その故由については、妾の口から申し上げることは出来ませぬ」

 それ以上の質問に答えてくれそうになかったが、それでも私は敢えて聞く。

「どうすれば、その答えを知ることができるか?」

「其方はレン姉様に訊くより方法はありませぬ。

 もう一人の方は、メグ姉様から訊くより方法はありませぬ。

 この話はここまでにしておきましょう」

 ということは、メグとキラさんには何らかの関係があることになるが……。

 それはどんなことなのか?

 なに故なのか?

 少なくともご本人には全くその心当たりすらないようだが……。

「あまり深く考えないでも、答えは必要なときにわかるものです」キョウは立ち上がって「では行ってまいります」

 再び粉雪が吹雪くと、キョウの姿は隠れてしまう。

 私の眼前から粉雪が消え去った時、そこにキョウの姿はなかった。

 馥郁と伽羅の馨を残して。

 私は、キョウの言う通りだと考え、果たすべき任務に集中する。

 一文字に唇を結び、凛然と夜闇が覆いつつあるレムス市街へ向かう為、宿の窓ーー私の滞在している客室は3階だったがーーから、眼にも止まらぬ速さで飛び出していく。

 音もなく地上に着地したレイは

 いつの間にか若い水夫の姿に、別人の姿になっていた。


 ※※※※※


ーーユキアが秘蹟によって生まれ変わった日の夜。

 ナーヌス山の広いソッジョルノでは、巨樹の卓子の奥中央にモンテが腰を据え、ゴブレットに注がれた蜂蜜酒をごくごくと喉を鳴らして飲んでいる。

 右隣にキラさんが、その隣にはピッコロが。

 左隣には、銀虎の獣人に変化した私が、その隣の雪龍のキョウ、更にその隣にカリーノ。

 カリーノがお得意の様々な肉料理の皿や、美味しそうなパン籠、インサラータ。フルッタ、葡萄酒、蜂蜜酒、巴旦杏酒等が、賑わっている。

 キラさんとキョウ、ナーヌス山に初めて訪れた二人を私が紹介して、夕餉は始まったばかり。

 ピッコロから、ユキアが手紙と術札を贈って来たとの連絡が銀の匙で宿を取っている私に入った。

 同じ宿に滞留しているキラさんは、私とキョウと馬車でナーヌス山を訪問したのだが……。

 双子と言っていい程、そっくりなキラさんとキョウを、ナーヌス親子が目にした時の驚愕した面容は、目玉が飛び出るのではないかと、私が心配したくらいだった。

 モンテは目にした現実を受け入れることにしたらしい。

 ユキア様から届いた術札を脇において、嬉しそうに眺めたり持ったりして食事をしている。

 が、ピッコロとカリーノは、キラさんとキョウの2人を交互に見較ていたから、まだ食事に手を付けていない。

 あのピッコロが、まだ料理に突撃してないのだから、その驚きがどれだけ大きいかを物語っている。

 聖獣雪龍のビオリス一族が、ヒトの姿でいることの衝撃。

 そのキョウとキラさんの違いがあまりにも少ない。

 キョウは極東の島国ヤマトの人々が時折装う純白の着物を着衣しているが、キラさんは白銀に煌めく絹の長衣(ローブ)姿だった。

 然程ではないが、敢えて言えばキョウの方が大人びて見え、瞳の色がキョウの藍色に対してキラさんは黒目がちであることが、2人の違う点だといえる。

 その他に相違を見出すことは難しい。

 実際のところ吃驚しているのは、ピッコロとカリーノだけだはなかった。

 それは、このナーヌス山に馬車でやってくる途中、ある質問をできなかった人。

 「何故私は」誰よりも一番衝撃を受けて当惑しているキラさん本人が恐る恐る訊く。「あなたに似ているのでしょうか?」

 なぜあなたは私に似ているのか? と訊かないところがキラさんらしいと私は思う。

 キラさんは些細なことでも、誰かの心魂を害さないように留意している優しい方だと、いつもながら私は感心している。

「然らばなに故でしょうか?」謎めいた艶麗な微笑みを湛え「あらゆる結果には起因があるように、妾と其方が似ている故由も、また現存しているでしょう。

 然れど、その答えを話す義務も権利も妾は持っておりませぬ。

 其方が歩み続けている道が正しければ、何れそれを知る機会は必ず訪れます。

 今はその時をお待ちなさい。

 長い時を生きてきた其方が答えを知る日は遠くない筈」

 何故かキラさんは、一瞬瞠目して頷く。

 が、同時に何らかの喜びを得た様態に私には感じられた。

 一方でキョウが、永い時を生きてきた其方が、と言ったのはどういう意味なのか?

 新たな疑問が生まれる。

「レイ、ということは」キラさんは欣然として「私は他の雪龍にも似ているのかな?」

「その通りです」恬然と答えた。

「私の勝手な斟酌だけど、聖獣雪龍のビオリスの一族と私は全く無関係じゃなさそうね、

 レイ、あなたと同じ様に」

「そういえばビオリス一族の中で、ビオリス姉妹の中でメグは、キョウの姉で、レンの妹ですが、我等ネブラ一族ではなく、他の誰かにしか口寄せできなという話がありまする。

 仔細は存じませぬが……」

 レイは今日の口から「もう一人に方はメグ姉様から訊くより方法はありませぬ」という話が合ったことは敢えて言わない。

 それを伝えることを、キョウが嫌がる気がしたから。

 キラさんは「その誰かが私だったらいいのに……。召喚術士じゃないけど」陶然としている。

「キラもレイも、折角お招き頂いたのだから、カリーノの料理が温かいうちに頂きましょう。

 キラ、果報は寝て待てばよいのです」

 キラの双瞳は星屑がばら蒔かれた様に耀き「わかりました」と素直に従う。

 と、「しまったでごわ」心の聲がだだ洩れになっていることに全く気付いてないピッコロが、父モンテに負けるまじと、猛烈な気勢で料理へ突撃を開始した。

 キラさんとキョウの登場で、夕餉のことをすっかり忘れていた自分に怒っている。

 私は然もあろうと思った。

 瓜二つの美女が2人顕れ、独りは聖獣ビオリスなのだから無理もあるまい。

 モンテがユキア様からの手紙を私に手渡す。

 私は読み終えると、「ユキア様から情報提供が」キラにそれを差し出す。

 キラは面色も変えず余も終わると「了解。情報提供に感謝します」手紙をモンテに返す。

 カリーノはまだキラさんとキョウが気になるようで「それにしても、2人とも美人ごわねー! 羨ましいでごわね」としみじみ。

「カリーノ、あなたこそとても可憐で美し人だと妾は思うけれど。

 もっと自信を持ちなさい。

 妾の知る限り、ナーヌス族の中であなたは指折りの美女よ。

 殿方から告白されたことも、一度や二度ではなうでしょう?」

 キョウがお見通しですよ、という音調で問いかけた。

「アタシはピッコロにお嫁さんが出来るまで、男の人のことはどうでもいいごわね」

 カリーノは顔を真っ赤にして、葡萄酒を呷り誤魔化し、キョウに給仕してから自分の食事を始める。

 こうして楽しい夕餉のひと時が訪れた。

 私。キョウ、キラさんは、カリーノの料理のおいしさに、賞詞を連発した。

 カリーノはその度に、にこにこしていた。

 そんな娘に、モンテは愛隣の情を感じさせる眼差しを注いでいた。

 それに気づいた私は、その心持ちを理解する。

 モンテが早くに奥方を喪ってから、カリーノは忙しい父の代わりに幼い頃から家事をこなし、弟ピッコロの面倒も見てきた筈。

 私にはモンテが、肺腑からカリーノに詫びているように映る。

 私も男で一つで育てられた。

 母の顔も知らぬ。

 然れど父は修行こそ厳しかったが、それ以外は、いつも優しく思いやりのある仁の人だ。

 家事も13歳の誕生日、6月11日まで一切させてくれなかった程。「幼き頃こそ、徹底的に忍術や武術の基本を身につけ、基礎を知㏍リ築くことが大切なのだ」

 父は口癖にようにそう言って、私に家事より修行を優先させた。

 然ればこそ、今の私がある。

 同世代の者達が家事の手伝いをしながら陰陽座で修行する中、私は一日中修行できたから。

 その成果が老師クー・マゴに認められて、ユキア様、ロック、オクトー、ロクネ、ザザ達と花果水簾洞での修行に励めたのも、今思えば全て父のお陰だと思う。

 家事も最初の頃は当番制で、兎に角私を修行に行かせようとしていた頃が懐かしい。

 もっとも、料理の楽しさを知ってから、料理は私の担当のなったが。

 父には幸福になって欲しい。

 まだ、38歳。

 私に遠慮していだが良き縁談があるように、今夜聖書の神に祈りを捧げよう。

 ピッコロの食欲はまだ満たされないようだったが、私も含めて他の者は皆、ご満悦の体だ。


『陰陽分身 幸鴉 急急如律令 五芒星 六芒星 九字』


「レイ、この術札だけど」キラが術札を見せながら「オンミュウブンシン ユキア キュウキュウニョリツリョウ、って書いてあるけど、どいう意味なのかな?

 それに続くソロモンの五芒星、ダビデの六芒星、おそらく九字を切るという意味を持つ9本の線が、何故ここに書かれているのかな?」

 キラさんは術札に穴が開くのではないかという目力で、じっと魅入っている。

「よくそれが読めましたね!」私は吃驚して瞠目した。「その文字は我等パークスの民草の本来の祖国、極東の島国ヤマトのものです。

 なに故、ヤマト語を御存知なのですか?」

「あれ? レイらしくないね」キラは艶然として一笑する。「質問に質問を返すなんて。

 話すと長くなるから省くけど、私もヤマト人の血脈なの。

 だから、忍者の存在も知ってたって訳」

「成程……」私は是非詳細を聞きたいと望んだが、キラさんが省くといった以上無理だと断念した。

 雪龍ビオリス一族との関係、ヤマトの血族、キラさんの謎は増える一方だが、ユキア様と合流したら報告しなければなるまい。

「書かれているのは」私は頭を切り替える。「術札に封入されている術名を含む術式です。

 聖術や魔術で言うところの詠唱みたいなものだとお考え下さい。

 五芒星、六芒星、九字について、なに故術札に記述しなければならないのか、私は詳しいことを存じておりませぬ」

 私の回答に、キラさんは明らかに落胆している。

「然れども」私はキラさんの期待に応える自信はなかったが、「五芒星と六芒星について、キラさんの求める答えとして、満足して頂けるかどうかはわかりませぬが、知っていることがあります」

 キラの瞳に光が戻る。

「五芒星は、忍術の源流となる陰陽道の達人、安倍晴明が用いていたことが知られていて、『清明判文』と呼んでおりまする。

 六芒星はユキア様のヴェルス家の紋章と関係がありまする。

 六芒星を象って穴を開けたドエルン金貨が正六角形になるよう配置されています。

 そのドエルン金貨の中心点を互いに結べば、そこに六芒星が浮かび上がりまする。

 もうお気づきかもしれませんが、ユキア様の眼帯の刻印が、その紋章、則ちヴェルス家の家紋となっておりまする」

 キラさんは、ユキア様の緋色の龍革に純金のドエルン金貨の眼帯を、思い浮かべてるようだ。

「六連貨と呼ばれている家紋ですが、六連星という別名もあります。

 ヴェルス家、マリス家、ラーディックス家、スペース家、この四家は、元々星を祀る者達だったらしく、一つの一族だったと伝えられていまする」

「六連星……つまり、プレアデス星団!」

「その通りです。我等は昴と呼びまする。

 パークス国主の居城もそれにちなんで昴城と名付けられておりまする。

 私の知っていることは話しました。

 キラさんが何を考察しておられるのかわかりませぬが……」

「パークス四家の起源は祭司だったのね。

 五芒星、六芒星、プレアデス星団……メシア教、メッカ教、ラウズ教の唯一神とのどこかで関連が間違いなくあると思う。

 ひょっとして、海滅時代に存在した聖書に登場する唯一神の民草、イスラエルの12部族に一つ、レビ一族の末裔なのかもしれない。

 さすがに飛躍しすぎだろうか?」

 独り言を零しながら、推量するキラさんだったが、

「されば、術札の使い方について説明させて頂きますが、よろしいでしょうか?」

 レイの言葉に、思考を切り替えて居住まいを正す。

 そもそも、この夜の本題は、術札の使い方と効果についてだった。

「この札にユキア様が術を封入しておりまする」レイがモンテの術札を指差す。「それ故、皆さんは術札に封じられている術を、簡単に一度だけ発動できまする。

 利き手の人差し指と中指を立てて、他の指を握ってください。

 これは伝の印と申します。

 両手を結ばぬ故、印をを立てると言いまする」

 レイは右手でその印を見せる。

「伝の印で立てている二本の指で、札を3回、トントントンと軽く触れて、『解』と唱えれば井戸だけ術が発動します。

 ユキア様の分身体が出現し、皆さんの代わりに闘ってくださいまする」

 驚喜と好奇心で心を占領されたピッコロは「そんな簡単に? 一度だけでごわすか? 大切にしないとでごわす!」

 モンテも「ユキアの分身体と話は出来るでごわすか?」童心に戻ったように喜んでいる。

 レイは想像もしていなかった問いに呆気にとられたが「勿論可能です。然りながら術札を使う必要のある焦眉の急の折に、無闇に聲を掛けるのはいかなるものかと」

 上機嫌でモンテは「確かにその通りでごわす!」呵々と笑う。

「忍術って素晴らしいね」キラさんは詠嘆の聲をあげ、感謝も忘れない。「これは本当に嬉しい。

 いつもユキアがいるのと同じだから。

 ユキアに感謝しないと。

 でも、この術札を使う危急の事件が起こらないことを、私は神に祈ります」

 キラさんは天を仰ぎ、十字架をきった。

「アタシもっ!」カリーノが羨ましそうに願う。「アタシも欲しいごわね。

 カリーノは双瞳を潤ませながら、私を真っ直ぐに見つめた。

「術札は3枚より他がなく……私はこの術を会得してない故……」」困り果てた私は心底申し訳なく思い、頭を下げてカリーノに詫びる。

「カリーノ、妾が今宵の宴の礼に札を一枚進呈しましょう」

 キョウは葡萄酒が注がれた酒杯に右手の真っ白で細くて美しい人差し指、中指、親指を浸す。

 それから濡れた指先に伝う葡萄酒を面前の宙に巻いた。

 雫は光彩の尾で弧を描く。

 その一瞬間、弧の中心から手品でも見ているかの如く純白の札が一枚、クルクル回りながら現れた。

「あ、札ごわね!」カリーノは瞬きも忘れて魅入っている。

 キラさん、モンテ、ピッコロも今日の所作と奇しき千万の術に言葉が出ない。キョウは雪の様な純白な札を手に取り、カリーノに渡す。

「カリーノの身に危局が迫ったり、何か重要な願い事があったりする時、術札を両手で持ち、妾の名を呼べばよい。妾の雪分身が現れるであろう」

「キョウさん、ありがとうごわね!」随喜の涙を浮かべカリーノは「アタシの宝物ごわね」

「キョウ、、私からも礼を言います。

「雪分身……私にもチャクラ切れに備え、一枚頂いて貰いたいものですが……」

 そのとき不意に、

「楽しそうな宴の最中些か心苦しゅうございますが、ご報告させて頂ければと思い、……」

 キョウが帯から手鏡を取り出し卓子の上に置くと、幻怪なことにその鏡面から、、踊り子姿のキョウに上半身が映し出された。

「一つ、ロックの手掛かりを掴みました」

「わかりました」キョウは今日は美しい曲線を描いている顎を引いた。「では、ここへ」

 再び葡萄酒に指を浸して、その雫を自分の背後に撒く。

 雫が今度は粉雪に変化しながらそれが徐々に人の形になり、終には白銀のアーピト・ディ・セータを着こなした艶やかな踊り子姿のキョウの分身がそこに立つ。

 キョウは変化と雪鏡の術を操りロックの情報収集を続けていたのだ。

 私は改めて、聖獣の凄まじい法力に畏怖の念を抱く。

 雪分身のキョウは丸めた一枚の多くな神を本体のキョウに差し出す。

 どうやら貼紙(ポスター)らしい。

 キョウはそれを受け取り「ありがとう。引き続き任務に戻りなさい」分身体に命じる。

 雪分身の踊り子は、捏ね雪絵と姿を戻し渦巻き、霧が晴れるが如く消え去ってしまう。

「レイ、ご覧なさい」キョウは貼紙を広げ「ロックはもう海兵ではないようですね」

 巨樹の卓子に並ぶ皿や籠等を脇に寄せて、開けたその場所にキョウはそれを置く。

「キョウ、忝い。これで道は開いた。なれど……」時の間私は言葉に詰まった。

 その中央には孤独と憤怒と闘志を両眼に宿した格闘士の風姿がある。

 その名は『ロックス・マレノ』

 私が探していたロック・マリスその人だった。

 両脇には、剣闘士セルギオスと女聖導士ベラドンナが並んでいる。

 その下にも妖艶さと清楚さが共存している稀有な美少女、超人気の歌姫の美貌が大きく映っていた。

 それは、6月11日に円形闘技場で開催される大人気興行『モノマキア』の案内をしている。

 当日は、格闘王ロックス、剣闘王セルギオス、法術王ベラドンナと予選大会を勝ち抜いた挑戦者の決闘が行われること、

 獅子、虎、熊等の猛獣と闘う闘獣が行われること。

 歌姫エスのコンチェルト(ライブ)も開催されること。

 罪人の公開処刑も行うと告知されている。

 3人の王者への挑戦者を決める予選大会の案内もあった。

 5月5日から予選大会が法術士、剣闘士、格闘士の順で開催され、その出場申請制限は、4月27日までとなっている。

 世界中から、格闘士、剣闘士、法術士も猛者が集い、予選トルネオ(トーナメント)がその幕を開け、6月11日の王者大会へと続く。

「ロックって、闘技場の絶対王者ロックスのことだったでごわすかっ!」ピッコロは驚愕して大声だ。「そう言えば、元海兵っていう噂もあったでごわす。

 パークスの忍者なら道理で強い訳でごわす」

 正体を知ったピッコロは大興奮していた。

「父さんとピッコロが」感謝の気持ちを込めた口調で「クレブリナ海賊団に捕らえられたから、モノマキアの予選大会は2月から延期になっていたごわね」

 でも私は、ロックの外貌を見て、胸騒ぎが止まらない。

 名前こそ偽っているものの世界的に有名な大会モノマキアに出場するのは、それだけにロックにとって危ない行為の筈なのに。

 パークスの刺客が、このことに気付いてないのは奇跡的だといえよう。

 自らを危険に晒してもモノマキアに出場せねばならぬ事情があるとしか思えぬが……。

 その原因はロックにとって良いものではあるまい。

 然すれば、ロックを仲間に迎えることは難しいかもしれぬ。

 キラさんが何気なく「6月11日がモノマキアの王者大会なのね。私の誕生日だな」

「え?」私は喉の言葉が詰まったが「わ、私も6月11日が誕生日……」

 私とキラさんはまずお互いを見かわしたあと、殆ど同時に、キョウへ強い眼矢を放つ。

 今度は知っていることを白状してもらおうとばかりに!

 けれども、キョウは艶然と微笑むだけで、2人の思惑には乗らない。

 私とキラさんの注視から逃れ、キョウはカリーノ?に問う。

「カリーノ、モノマキアの予選大会は、なに故2月から延期になったでしょう?」

「皇帝が、モンテ親子を救出するまで、娯楽にうつつをぬかしてる場合ではない! って言ってくだっさったからでごわね」

「そう、それで先刻の其方の言の葉には、感謝の心持ちが含まれていたのね」

 二人の会話を聞いて、私とキラさんは、求める答えが返ってこないことを悟ると同時に、モンテ・ブカの偉大さを再認識させられたのだった。


 ※※※※※


ーー一夜が明けた。

 一体ロックはどこにいるのだろう?

 まだ昼間だが、私は酒場を兼ねた賭場へ銀虎の獣人に変化し、傭兵の風体で入った。

 レムス市街の華やかな表通りから、その裏通りへと足を運ぶと、一見して酒場だが実は賭場という場所はあちこちに散見できる。

 その中で私が『ナウタ』という場所を選んだのは、まだナーヌス綾で起居していた頃、モンテの弟子ベツァルエルの勧めがあったからだ。

 モンテを含めナーヌス族はモノマキアが大好きだったから、その賭場についても詳しい。

 予選大会、王者大会何れも、全ての闘いに誰が勝つのか予想して、金貨を賭けるのだ。

 ナウタは、その言葉が意味するように、海軍の水夫も出入りしているという。

 モノマキアの賭場としては、レムスで3本指に入るとモンテの弟子達は口を揃えた。

 成程。

 酒場になっている1階にはモノマキアの貼紙が四囲に貼られていた。

 格闘士、剣闘士、法術士達の色紙もずらりと並んでいる。

 剣闘士の現王者セルギオスが初めて王者になった時、数か所刃毀れした大剣も、鉤付ヴェトリーナ(ガラスケース)に入れられ展示してあった。

 2階は賭場になっている。

 3階は巨大なオスクで円形闘技場にいるのと同様、モノマキアを観戦できるとベツァルエルから教えられている。

 後ろの人も見やすいように、四辺の有料観客席は円形闘技場宛らに段差がついているらしい。

 だから、中は3階建てなのに、外からは、5階建ての高さに見えた。

 1階の酒場にはシエスタだというのに、闘いと賭博と酒が好きな者達で賑わっている。

 葉巻や煙草の煙で空気は濁り、その匂いが種々雑多な酒の馨と入り混じっていた。

 その片隅で、独り静かに酒杯を呷っていたこの国の海軍水夫は、銀虎の獣人の相席を喜んで赦す。

「6月11日のモノマキア王者大会に、お前さん観戦に行くのか?」

 水夫は潮焼けした赤銅色の相貌にむさくるしい無精髭を生やし、訛声で話を振ってきた。

「勿論だ」私は即答し「あんたはどうなんだ?」

 私はモンテのお陰で円形闘技場の北側最前列の席を既に確保してもらっている。

「羨ましい限りだぜ。

 立ち見入場券すら手に入らなかった。

 だから当日はここの3階で観戦だ。

 3階の観客席も完売だってよ」

「そうか、それは残念だったな」

「金貨はあるってのによう、知ってる通り、モノマキアで一番人気は、公開処刑、その次は罪人が闘う闘獣だ。

 この二つは生で見た方が迫力があるからな」水夫は、二ッと笑った。

 然し私は違う。

 私はこの水夫に限らず、人間が密かに持つ残酷な残虐性に唾棄したい思いだった.

 どんな罪を犯したとしても、然るべき罰を堪え償いをさせるべきだろう。

 例えば殺人者に対して殺人、則ち死刑という法による 行為もまた罪だと私は確信している。

 殺られたら、殺り返せでは、丸で子供の喧嘩ではないか。

「まぁ、然しなんだ」水夫は私の機嫌が何故悪くなったのかわからないからだろう、話題をを変えた。「やっぱり一番面白いのは格闘士の闘いだな。

 3王者船の中では一番人気だから、勝者の賞金額も他の王者戦より多いもんな。

 だが、度の闘いにも結局のところ度の闘いも大いに盛り上がる」

 そういうことだったのか、と私は悟った。

 柔拳術より、剣槍術が得意なロックが、敢えて格闘士として闘っているのは、賞金額が高額だからに違いあるまい。

 ということは、そうまでして金貨を稼がなければならない故由があるはずだが……。

 再び、わたしの胸襟を不吉な予感が過ぎる。

 水夫は酒杯を空にすると「そう鵜やお前さんは飲まないのか?」

「いや、付き合おう」私は飲みたきなかったが、情報収集のためと割り切る。

「蜂蜜酒にする。あんたにも一杯奢ろう」

 水夫は大喜びで叫んだ。

「蜂蜜酒と、ルム酒を大酒杯で頼むっ!」

 私は、1ユエロン銀貨を2枚指で弾き、水夫に渡す。

 大酒杯が届くと二人は乾杯した。

 水夫はがルム酒を喉で鳴らすと「格闘士の人気が一番人気で面白いのは間違いない。

 だがな、現王者のロックスは今までにたった一度も被倒(ダウン)を取られたことがないんだぜ。 

 相手の攻撃が直撃したと観える程の神技的防御(ディフェンス)を誇っている。

 ロックスに攻撃を命中させることが出来そうな奴は、誰一人思いつかん」断言した。

「お前さん達獣人族にとっては」水夫は一杯奢って貰っているからか遠慮がちに言う「ロックス憎しっ! と言ったところだろう。

 獣人族は20年位以上格闘王の名をヒト族に渡さなかったし、21歳で史上最年少の王者白豹の獣人レントゥス。スペルピアが現れて時は、最低でも10年は奴の時代になっただろうと信じていただろうからな。

 おそらく今回の予選大会も、レントゥスが勝ち上がるとオレは予想している。

 奴はロックスと対戦する度、間違いなく実力をつけている。

 努力家肌の天才なんだろうな。

 オレはヒト族だが、レントゥスのことは嫌いじゃねぇ」

「気を使う必要はない」私は蜂蜜酒を飲みながら淡々と語る。「生憎だが、ヒト族と獣人族を含む亜人増との諸問題には興味ない。

 強い者が勝つ。

 それが摂理であり通りってもんだろう」

「あんたは話の分かるいい漢だっ!」水夫はルム酒を飲み干すと上機嫌で「おい! お代わりを頼むっ!」

「そのロックスに会える方法はないか?」私は水夫の機嫌がよくなったのを見て取り「あんた水平兵ろ? ロックスは元海兵って噂だが、何か知らないか?」

「何だ、奴の色紙でも欲しいのか?」水夫は怪訝そうに武人姿の私を繁々と見た。「まさか、勝負を挑む心算か? 目的はなんだ?」

「目的……か」私は時の間考えて「それは本人と会ってから決めることになる」

「はいっ! ルム酒お待ちっ!」若いヒト族の男性店員がそれをを卓子に置き会話が中断。

 水夫が銀貨を1枚親指で弾くと「あざっす!」素早く使に取り店員は頭を下げ踵を返す。

「何だそりゃ?」水夫は話しを戻し、意味不明という語り口で「確かに奴は異例の速さで中尉にまで出世した奴だ。

 然し、噂じゃ厄介ごとの巻き込まれて失脚したらしいが。

 オレ達下っ端には雲の上の話さ。

 だが、その結果奴は今や円形闘技場の絶対王者と呼ばれる超英雄(スーパーヒーロー)だぜ?

 仮に奴の居場所がわじゃっても、簡単に会える相手じゃねぇだろ?

 それに力になれなくて残念だが、オレは奴がどこに住んでるか知らねぇ。

 悪いな」

 私はまたも期待していた応えを得られなかった苛立ちを、蜂蜜酒を呷って共に飲み干す」

 水夫に「あんたの言う通りだな」と得心して店を後にする。店外に出た時には、私はもう本来の姿に戻っていた。

 ロックがレムスで何をしようとしているのかは判明したが、その所在は全く見当がつかないでいる。

 キョウと別行動をとり、範囲を拡大して情報収集をその成果が出てない。

 ばかりか、いやな予感がした通り、ロックは何らかの問題を抱えている。

 それはのが確定的で、私の目指す前途には暗雲が漂う。

 一旦銀の匙へと帰路に就いた私は、さり気なくある気速度を落とす。

 首筋の後ろにチクリと刺さる目線を感じる。

 このところ、誰かに視られているという感覚に何度か襲われていた。

 が、その正体を確かめようとする度、奇しきことにその感覚は途絶えてしまう。

 私は、伝の印をたて左肩から右足に向けて、素早く払うように振る。

 こうしてチャクラを身にまとい、周囲にそれを張り巡らせていく。

 自分に向けられた視線の方向や、何者かの気配を探りつつ歩を進める。

ーー5時の方向、距離約40ヤード!

 私は次の交差点を曲がりながら」、何気なくその辺りに眼を流し見た。

 だが、そこは夜の開店を待つ酒場で、ヒトの気配はない。

 怪しげな雰囲気はすっかり消滅してしまっている。

 間違いなく気の所為ではないと思うが……正体を掴めぬのが何とも歯痒い。

 一体誰が、何の目的で、私を注意深く観察しているのかが見当がつかぬ。

 パークスからの刺客が放たれるまで、まだ猶予はある。

 ルーナ様率いる月の物がレムス、ラティウム都国の情報収集をしている筈。

 が、その者達なら、私を注視したりはしない。

 我等が国抜けをしていることは全く知らないその者達が、寧ろ聲を掛けてくるだろう。

 やっぱり気の所為なのか……?

 吐息を零し、私は銀の匙へと帰路を急ぐ。

 その例の背後36ヤード後方の上空に、背と翼は黒灰色で、腹は皓く灰黒色の横斑のある隼が、すーっと飛けて行った。

読んで頂きありがとうございます。

駄作ですが、批評も含め、ご感想を頂けると喜びます!

評価✩✩✩✩✩やブクマをして頂けると更に喜びます!

長い物語ですが、様々な要素で楽しんで頂けるよう努力してます。

これからの物語も是非読んで頂けますように・・・。 m(_ _)m

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