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16.ナーヌス山とギルド・アルカ

私はモンテとピッコロの後に続いて、港町を西から抜けた。

 迷路のようなモザーイコ(モザイク)模様の石畳の小径を、しばらく歩いて行くと、賑やかな広場が視界に飛び込んでくる。

 そこはほぼ真円になっていて真ん中はそのまま西へ向かう小径が続いていた。

 その賑わいに驚いた私は、しばし足を止めて四囲を見回す。

 北側の中央には時計台が、広場中心から少し南には一角鯨の噴水がある。

 南側の中央には、港町とは趣の違う清潔で華やかな高級宿が見えた。

 盛況のようで、人の出入りが絶えない。

 広場に入って直ぐの右側に、値段の表記がない龍革の武具一式。

 80万ドエルンの長剣スキアヴォーナ。

 60万ドエルンの槍コルセツ等を、店舗で展示している武器。武具店が営業していた。

 客も10人以上いて、店員と思しき糸杉の木人や、鹿の獣人が接客していた。

 私は、さすが老舗だけあって、しなぞろいも良く、信頼できる店だなと感心。

 機会があれば一度立ち寄ってみたいな。

 武器武具の隣には、ヴェートロ張りなので鍛錬が丸見になっている、格闘士、剣術士の広い道場があった。

 良い案配だというべきだと私は点頭。

 モノマキアーー格闘士、剣術士、法術士達がその技と術をぶつけて闘う大会のことーーを開催しているレムスの道場だけに、軽く50人は超えるヒト族、獣人族の男女が汗を流している。

 私は考量した。

 修行風景が丸見えだから、誰しも無様な真似は見せられない。

 人の視線に慣れさせることは、本番の闘いで緊張感を緩和させるだろう。

 良い道場だ。同情主は指導力が高い人物に相違あるまい。 

 その右隣にはパスタ店、ピッツァ店が並んでいる。

 居酒屋を一見挟んでパン屋もあった。

 ユキア様がおられたら、大はしゃぎでパン屋に突撃していたことだろう。 

 転じて広場の入り口左側には法術用具店が営業している。

 店頭には銀や、錫の鍋や、真鍮のランオパダ(ランプ)が展示されていた。

 20人近い客が入っていたが、ヒト族の聖術士の店員達が接客に追われている。

 そこから、法術杖店、続いて箒店が軒を並べていた。

 南側中央に構える高級宿がある。

 そのは左側には、主に長衣(ローブ)や外套を取り扱う洋装店が営業中。

 店主らしいエルフォ族の美しい女性が、店頭の展示品を従業員のエルフォ族2人に指示を出し入れ替えをしている。

 その隣は、法術薬物店だった。

 黒猫の獣人が、奇妙奇天烈なヴェートロ容器に入っている謎の液体を、煤で汚れて煮え立つ鍋に入れながら、ゆっくりとかき混ぜている。

 最後に眼に入ったのは、薬屋の隣の店。

 丸で小さな植物園といった概の薬草屋だった。

 店内は、どうやらあらゆる植物で埋め尽くされているが、営業はしていない。

 この広場を抜ける時にそれはわかった。

 店に掲示板には、

『ご来店、誠にありがとうございます。

 ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、本日はマンドコラの鉢植えの為、臨時休業とし、明日から通常刺せて頂きますのでまたのご来店を心よりお待ちしております』

 と書いてある。

 マンドコラは、根っこから引き抜かれた時、心魂を劈く叫びにも似た悲鳴をあげることを、私も知っていた。

 更にそれを耳にした者が狂死にすることも。

 店を臨時休業するのも、確かに止むを得まい。

 私はこの店にも入ってみたいと思った。

 再び石畳の小径を数分進んで行く。

 左手に市場大通りの入り口が見えてきた。

 その市場へと一行は進む。

 精肉店、鮮魚店、その他の食料雑貨店が立ち並ぶ。

 他に、南にはギルド・アルカを筆頭にいくつかの造船ギルドがある為、船舶関係の店が目立つ。

 鍛冶屋、

 艤装雑貨店。

 金細工店。

 弾薬庫店、何れも繁盛している。

 一行はその市場の出口から右折して海を左手に暫く西へ進む。

 潮の馨を濃く含んだ涼風が、さざ波の如く流れていく。

 右手に、お椀を逆さにした形の小さな山が見えてきた。

 標高は300フィートに満たない。

 その山に向かうのか、モンテ達は石畳で舗装された道を右折する。

 途中、左折して西へ向かう道が伸びていた。

 その行き止まりには、造船所らしき建築物がどつしりと構えている。

 私は、おそらくあれがギルド・アルカだろうと推断した。

 が、一行は直進し、遂に山裾に到着する。

 そこには、私が見たことのない仄かに光る紅茶色の金属門が重々しく座っていた。

 後ろ足で立つナーヌス族の守護中グリュープス(グリフォン)が二頭、それぞれ中央に向いて堅固な門に、意匠(デザイン)されている。

 ピッコロは門の右にある掌(サイズ)の扉を開く。

 そこにはαとΩ、0~9の文字・数字を刻印してした文字盤があった。

 宛らクルムの画面に見える。

 ピッコロが音を鳴らして文字盤を五回押し最後に六回を押すと、

ーーピーッ!

 という音の後、

ーーガゴン!!

 金属門から音がして、門扉はゆっくりと内側に開く。

 向こう側は、人口のものだと明らかな幅10フィート、高さ10府フィートの洞窟が奥へと続いている。

 天井には、白蛍光岩が埋め込まれていて、洞窟を明るく照らしていた。

 ピッコロは全員が中に入ると、入り口側に向かって左側の壁にある黒い突起物(ボタン)を押す。

 金属門はゆっくりと閉じていく。

ーーガチンッ!

 洞窟内に金属音が響き渡る。

 洞窟を10ヤード進むと別の扉が現れた。

 青銅製に扉には、翼を大きくひろげたグリュープスの下に四つの手形があった。 

 ピッコロがその中の一つ、一番右の手形に自分の手を重ねて離す。

 扉はすーっと開く。

「法術ではなかでごわす」

 ピッコロは、驚いている私に得意顔だ。

ーー扉の手形がおそらく鍵穴で、ピッコロの手そのもが鍵の役割を果たしているんだろう。

 そこまではわかるが……。

 どういう仕組みか、さっぱりわからぬ。

 首を捻る私に、

「ここがおいどん達の家でごわす」

 モンテが手招きする。

「この山は、おいどん達ナーヌス族がすんでいるでごわすから、ナーヌス山と呼ばれているでごわす」

 そう話すとモンテは、

「おーい!おいどんが帰ったごわっ!」

 家の中に向かって大声をだした。

「ただごわっ! ボクも帰ったごわっ!」

 ピッコロも元気に帰宅を伝える。

「おかごわぁーー!!」

 奥から、驚きと喜びがぶつかって、裏返った聲が返ってきた。

 一行が玄関から、かなり広い円形ソッジョルノに入り「カリーノ、お客さんごわ」とピッコロが知らせる。

 けれど、カリーノはその聲が全く耳に入らなかったらしい。「本っ当に心配したごわね。

 どうやって助かったごわね?

 怪我はないごわね?

 ギルド・アルカには連絡入れたごわね?」

 一目で憔悴しているのがわかるカリーノは、矢継ぎ早に問う。

 私ははナーヌス親子をっみてうるとーークレブリナ海賊団のと立ち向かいたたかって良かったーーしみじみ思う。

 ユキア様がのここにいたら、この親子の再会を喜んでいたに相違いない。

 罪なき人の幸福を奪う権利は、誰に見ない故に。

 私の心魂に、英気と勇気が漲ってくる。

「や、まだごわ」。詳しい話はあとでごわ」モンテは急いで返答して私に紹介した。「長女のカリーノでごわす」

 カリーノは、父や弟と違い顔は卵型で、眼はぱっちりとして大きかい。

 体形はモンテやぴj¥っコロと異なり、全然細身で、2人よりも背が高かった。

 とても愛らしく、優しそうで可憐な女性だ。

 カリーノは漸く私に気付き、お辞儀をする。

「きれいな眼をしてるでごわねー……」

 銀虎の獣人の少し潤んだように見えるであろう、妖異な黒藍の瞳に、カリーノは釘付けになってしまう。

 さり気なく咳払いして、私はその目線を逸らす。

「おい」モンテが娘の肩をぽんぽん叩く。「腹減ったごわ。食事の用意を頼むごわ」

 カリーノは糸を引くように、私から目を話し「わ、分かったごわね」奥の居所へとことこ向かって行った。

 私は忍者の習性から、周囲を観察する。

 広い円形のソッジョルノには、樹齢の想像がつかない巨樹を活用した大きな卓子が中央に、ドンッ、と構えていた。

 11脚の椅子も同じ樹から製作されてものだろうと、私は推察した。

 モンテは腕の良い船大工だから、弟子も抱えている。

 弟子たちも含め、来客も多いに違いあるまい。

 私が今いる一階を見渡すと、西洋扉が六つあった。一つはカリーノが入った台所。

 後に判明したが残りの五つは、モンテ、ピッコロ、カリーノ、浴室、バグノだった。

 上階と地下へ向かう階段が、正面少し右にある。

 見上げると吹き抜けになっていて、三階まであった。

 天井から巨大なルーク・ランパダーリオの照明が眩しく降り注ぐ。

 この階を取り囲む壁は、珍重されているし紫檀が惜し気もなく張り巡らされている。

 二回の壁は黒檀、三階の白檀の壁には、絵画がいくつか飾られていて、北側の壁には絵巻と思しき彫刻が見えるが、その詳細はよくわからない。

 もともと存在していた洞窟を利用してるのではなく、山の内部を掘削した素晴らしい住居だ。

 秘密基地を想起させるから、ユキア様がここに来れば、眼を耀かせるだろう。

 私は考量しながら、この家で暮らすナーヌス親子お生活は、富裕層に属すると認識していた。

 紫檀の壁、巨樹の卓子、巨大なルーク・ランペダーリオ。

 どれほどの金貨が積み上げられたのか、想像を絶する。

 三階の絵画や彫刻も、相当な価値があるに相違あるまい。

 さすがは、世界一の船大工の家だと私は感嘆していた。

 「ピッコロ」モンテが二回を指差し「レイをグリュープスの間に案内するでごわ」

 [レイ、ボクについてくるでごわす」

 2人は階段を昇り、二階の廊下に出て直ぐ左の西洋扉をピッコロが開く。

「この部屋を自由に使うでごわす。食事の用意ができたら聲を掛けるでごわす」

 「忝い。暫し御厄介になるがよろしくお願いいたす」一れをする私に、

 ピッコロは「命の恩人でごわす。頭を下げちゃだめでごわす」面前で両手を振り、にっこり笑って階下へ降りて行く。

 部屋はゆったりとした広さがあり、天鵞絨で覆われた寝台が二つ並ぶ。

 寝台と寝台の間には、紫檀の小卓子があり、その上には、グリュープスが雄飛する姿が似事な燭台が置かれている。

 その前には、セルモと聖書が並んでいた。

 この部屋の壁も紫檀が用いられている。

 更にグリュープスの鉤爪の形をした足を持つ紫檀の卓子と、ふかふかした桃色のディバーノが2脚、寝台の前に配備されている。

 浴室とバグノも別々に完備。

 大画面オスクが、寝台の反対側に配置されていた。

 客間というより、高級宿の客室と言って良い。

 私は荷物の整理を終えると、ディバーノに身を沈めた。

 脳裏に、ザザと共にパークスを出立してからの日々が、次々と思い起こされていく。

 変化もせず、堂々とリスボアを闊歩していたユキア様には、呆気にとられ、私の方が慌ててしまった。

 クレブリナ海賊団の襲撃とキラさんと、ナーヌス親子との出会い。

 更に、愚人のノアとアララトの聖樹の話。

 全てが偶然ではなくて、必然だったと感じるから、不思議だなと私は思う。

 然れば、私は今歩んでいる道が間違った方向ではないと確信している。

 さりとて、何れ迫りくるパークスからの追手や、我等の船が完成後海賊として海へ出たら、難題難関に遭遇することは自明の理。

 油断は赦されぬ。

 私は一つ呼吸をして、聖書を読み始めた。

 入手して以来、少しでも暇があればその度に、毎日読み続けている。

 集中して読んでいた筈であったが、いつの間にかうとうとしていた私は、コン、コン、扉を叩く音でハッ! と目を覚ます。

 「食事でごわす! 下に降りてきてでごわす」ピッコロの聲だ。

 自由の身になり、無事家に帰れた喜びが溢れ、元気に弾んでいる。

 早速ソッジョルノに降りると、卓子の上には豪勢な肉料理が、これでもか! と言わんばかりにずらりと並んでいた。

 ビーム肉、角羊肉ーー左右の巻角の以外に額から鋭い円錐形の角を持つ羊の肉。その肉は珍味とされ、体毛は羽毛より軽く、高級掛け布団等に利用されているーーといった高級肉や、牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉の料理が揃っていた。

 インサラータ・ミスタ(ミックスサラダ)フルッタ(フルーツ)の盛り合わせ、パン、葡萄酒や蜂蜜酒等々、大きな卓子に隙間がなくなるほど込み合っている。

 馨わしく芳醇な馨がいやがうえにも食欲を猛烈に刺激した。

 卓子の中央にモンテが、右隣にピッコロが座っている。左の隣の席を一つ開けてその隣にはカリーノが腰かけていた。

 モンテは私に左隣の席をぽんぽんと叩いた。

 私がナーヌス親子に会釈して席に着くと、直ちに「いただきごわっ!」ピッコロが料理に突撃した。

 遅れまじと、モンテが追撃を開始する。二人の凄まじい食欲を今やよく知っている私は、殆ど届かないだろうと思いつつ、礼を伝え遠慮なく食事を始めた。

 忙しく食事をしながらも、モンテとピッコロは海賊に捕らわれてからの一部始終を、カリーノに語る。

 ユキア達がいなかったら、もうカリーノの笑顔は見れなかったと二人は話す。

 カリーノは涙ぐみ私に礼を繰り返した。

 自分の食事を忘れ私の給仕をしている。

 モンテは、ユキア様とザザは後から合流すること、キラさんはレムスで宿をとり、ユキア様達の宿の手配が済み次第、セルモに連絡が入ってくることもカリーノに伝えた。

 カリーノは、父と弟の無事を歓喜して玉の様な涙を零して止まらない。

 無理もないと私は感じた。

 船旅の途中で聞いた話では、母親はピッコロを生んで間もなく亡くなり、以来家族3人で寄り添いあって生きてきたのだから。

 モンテは、2人の姉弟が可愛くて仕方ないようだった。

 もし、モンテとピッコロを喪ってしまってたらカリーノは独りぼっちになってしまう。

 それはカリーノにとって、自らが生きる意味さえ忘れさせる悲しみになっていた筈、と私は切々たる思いを抱く。

 ギルド・アルカは神聖ロムルス皇国海軍にモンテ親子が捕らわれたことを1月29日に知らせ、救出を実行するよう、弟子のベツァルエル、オホリハブが中心になって働きかけていたとカリーノが話した。

 モンテは世界一の船大工で、近い将来人間国宝とになると確実視されていたし、海帝艦隊の船の建造が目的だと推測されていたから、神聖ロムルス皇国は勿論、ラティウム都国の法皇も賛同していたという。

 救出作戦会議が行われ、直ぐ様神聖ロムルス皇国海軍がクレブリナ海賊団の捜索を開始。

 それが事件が発覚してわずか二日後の1月31日のことだたという。

 このカリーノの話から、モンテが如何に国から重要視されているかが、窺い知れる。

 同時に神聖ロムルス皇国はクレブリナ海賊団船長カルロス・ファルカンを10億ドエルンの賞金首とした、

 それは即、ラティウム都国の法皇の名のもとに、メシア教カットリチェシモを国教としている国々に伝達されたことも、カリーノが語る。

 そんなカリーノが、食事もろくに摂れず、睡眠もあまりできてないことを、私は憔悴した彼女を見た時から推察していた。

 それでも、喜び溢れる涙顔でこの料理を一生懸命に作ってくれたに違いあるまい。

 私は、カリーノにどう言葉をかければ、目の前にある料理を食べてくれるだろうか? と考えた。

「カリーノの料理は、心魂まで届く優しい味で本当に凄く美味しい!

 さらば、ユキア様が口にされたら大喜びすること相違あるまい。

 されども、この食卓にユキア様とザザが加われば、これ以上の量が必要となる故、カリーノも確り食事を摂って、きちんと眠り、体力をつけておかねばならぬ」

 私の賛辞にカリーノは少しはにかむ。

「この3倍でも楽勝ごわね!」 いつもこの食卓には大勢が集まるごわね。

 じゃっどん、もっと料理頑張るごわね」

 漸く食欲が出てきたのか、カリーノも食べ始めた。

 モンテもピッコロも、それを見て嬉しそうにしている。

 私は、自分自身の食事を済ませると、巨樹の卓子から少し離れ、変化ノ術を解いた。

 吃驚したカリーノは、息を呑んでレイの真の姿から目が離せなくなっている。

 しっとり潤んで耀くように見える私の黒I藍色の双瞳を「やっぱり綺麗な瞳をしているごわね……」カリーノはうっとり見つめていた。

 私が変化していた理由を、ピッコロが得意満面で話す。


 ※※※※※


 私には、自分への注目を解くのに、ちょうどよい話題があった。

 ロックの情報収集をしなければならない。

 ピッコロに私は尋ねる。

 神聖ロムルス皇国海軍本部を含む、レムス内の海軍施設の場所。

 海兵の出入りが頻繁な、居酒屋、大衆食堂、リストランテ、賭博場等々。

 ギルド・アルカは海軍の艦船も建造されているので、その辺りの情報にピッコロは詳しい。

 ピッコロは船の図面を描く時と同じように、私の求める情報の地図を作成する。

 私はピッコロに赤心から礼を伝えた。

 一日も早く、ロックを探し出さなければならないと、私は意を強くしている。

 ピッコロが鶏の照り焼きをむしゃむしゃ食べながら「海軍の海兵達は、日の出と共に動き始めるでごわす」

「では私もそうしよう。されば部屋に戻り入浴して、今夜は早く眠ることに致す。

 美味しい食事、心より感謝」

 私は会釈して部屋へ戻って行く。

 その後姿にモンテは「ゆっくり眠れると良いでごわすな、お休みごわす」

「お休みごわす」ピッコロが続き、

「お休みごわね」カリーノも挨拶をする。

 私はもう少しゆっくりしても良かったのだが、親子水入らずの時間を早く作ってあげたかったし、三人を見ていると父の貌が何度も浮かび、目頭を押さえたくなるのを悟られたくなかった。

 カリーノ、ピッコロ同様、私も父ロイに男で一つで育てられてきたから故……。

 部屋に戻り浴槽に湯を入れている間、私はディバーノに身を沈め頭を切り替える。国抜けした我等に、パークスの新たな刺客が差し向けられるのは必定。

 その前に、何としてもロックを仲間として迎えたいが……。

 ユキア様がレムスに到着した時には、良い報告がしたい。

 それまでには、ロックの所在を掴んで会っておきたいところ。

 なんとなれば、ユキア様の現況ととご意向を伝え、仲間に加わると快諾を得ておきたいが故。

 我等にロックが加われば、パークスの主戦力の下忍が50人相手でも、傷一つ負わされることはない。

 中忍30人でも無理な話。

 さればこそ、パークス国主もそう簡単には刺客を出せなくなる。

 ロックは本来、パークス御三家マリス家の正統後継者で、侍忍者の身分。

 その剣槍術は、パークス四獅王の一人、グラヴィスに比肩する実力。

 更に、海、湖、河等で活動することが得意な意味のものを率いるマリス家の一員だったのだ。

 海賊となったユキア様が、ロックを仲間に迎えたいと願うのは当然だろう。

 ユキア様が、私やザザ、ロクネ、オクトーに個人的なことで相談を持ち掛けることは、滅多になかった。

 今回の国抜けも我等には何も話さず、突然の行動だったことは今も悲しく思う。

 然れど、以前からロックには時折相談していた節がある。

 私はこの点においても、ロックにはユキア様の仲間になって欲しいと強く願う。

 私に殆ど個人的な相談をしてくれないのは、やっぱり寂しいし、情けないが……。

ーー眠りにつく直前のこと。

 私は初めて聖書の神に、国抜けしてから今日までのことを、感謝して祈りを捧げた。

 聖書を読んでるからこそ、神は直向きな信仰を持つ者の祈りを、必ず聞き入れて下さる方だと私は信じて疑わない。

 神よ、どうか父ロイの前途が平安であります様に、父がいつまでも健康であります様に。

 私をここまで育ててくれたことに、百倍の報いを与えたくださいます様に願いまする。

 ユキア様と我等の前途を祝福し、いかなる困難にも打ち勝てますようお導き下さい。

 祈り終えた後、閉じた目蓋から一筋の涙が零れ落ちた。

 そのまま眠りに沈んでいく……。


 ※※※※※


ーー翌日、払暁の頃。

 私が部屋から出てソッジョルノに向かうと、ナーヌス一家は勢ぞろいしていた。

 私を待っていたのだ。

 モンテから、この家と、ギルド・アルカのセルモ番号が書かれた紙片を渡され

「帰ってくる前に公衆セルモから何時に着くか連絡するとよかでごわす。

 その時間に、おいどん達三人のうちの一人が門の前で待っているでごわすよ」

 私は「忝い」と低頭した。

 カリーノが朝餉を調えてくれていたから、私は感謝の言葉を伝えありがたく搔っ込む。

 私は素直に嬉しかった。

 自分の為にナーヌス一家ができる限りのことをしてくれているのが、ひしひしと伝わってくる。

 ユキア様やザザがいなくて寂しかったから、三人には感謝しかない。

 私は食べ終えると「ご馳走様」そう言った後、少し言葉を選んでから打ち明ける。「私は独りっ子だが、ピッコロやカリーノのように、男手一つで育てられてきた。

 父には、感謝という言葉も軽く、霞んでしまうような心持ちが心魂に刻まれている」

 ナーヌス一家はただ優しく微笑んでくれている。

 そこに音として耳に入る言葉はなっかたが、私とナーヌス一家の間には、交わされた言葉が間違いなくあった。

 私は一つ首肯してピッコロに見送られ、洞窟から出ると、ナーヌス山を後にする。

 暁に、水平線から放たれる金色の光芒が、黒い夜闇を追い払い、紺碧の空へ変えていく。

 塩味の海風が、私に絡み爽やかに吹いている。

 私は、一陣の風となって疾駆した。

 一路、レムス市街へとーー。か


 ※※※※※


ーー『アララトの聖樹』が、ギルド・アルカに届いたその日のこと。

 私は、ギルド・アルカ」の隠しバチノへ(ドック)とピッコロに案内された。

 未だロックの居場所は判明してなかったが、私もアララトの聖樹には強い関心を抱いていたから、ピッコロの誘いはありがたい。

 ナーヌス一家の地下へと続く階絵段からもそこに行けるという話だったが、この時はギルド・アルカの隠し通路から隠しバチノへ。

 モンテの話によると、神聖ロムルス皇国や、その属国エクエス・テッラーー騎士団国家ーーラティウム都国の槍と呼ばれているーーの海軍の船はここで建造されているとのこと。

 船舶が完成したらバチノに海水を入水させ、一旦ギルド・アルカにつながっている地下海水溝まで浮かせて、表のバチノまでそれを進めていく。

 その後海水溝の海水は排水溝から排水する。

 戦艦の建造は軍事機密の為、情報漏洩を防ぐ目的だろう、と私は感心しきり。

 終に私が私が目にしたアララトの聖樹。

 それは優に300ヤードをあるバチノの入り口手前から奥にかけてぎっしり山積みになっている。

 アララトの聖樹は、私の想像を上回る素晴らしい正に奇蹟の建材だった。

 船大工にとっては、夢のような資材だろう。

 古代遺跡から切り出されたというそれは、今も水々しく、眩しい光沢を放っている。

 神秘的でさえあった。

 古代遺跡から生え出た樹木も同様で、数千年もの間、氷の中で育ってきたという。

 その事実だけでも奇蹟なのに、生き生きとした強い生命力を感じさせる。

 どれ程水を浴びても、丸でそれを水と油のように弾き、浸水を赦さない。

 水や海水の中で、アララトの聖樹の木片を沈め石で暫く押さえてから外に出しても、水や開始がしみ込んだ形跡は全くなく、水没させる前と寸分と変わらないのは驚異だった。

 アララトの聖樹は、水や海水を完全に弾き濡れない!

 材質は他にも不思議な力が宿っている。

 柔軟性が、それが木材だということを疑問視する程、しなやかだ。

 24ポンド砲の弾丸でさえ、軽く跳ね返してしまいそうな位に。

 私の頭にある一つの仮説が生まれた。

 アララト山の古代遺跡は、其れそのものが、義人ノアの箱舟かもしれぬ……。

 この健在なら、大豪雨、大嵐、大洪水に対して恐れることはない。

 水分をすべて弾いてしまうのだから。

 その柔軟性についても、私には思い当たる節があった。

 箱舟には象も含めて巨大生物もいた筈。

 大嵐と大洪水で大きく揺らいだであろう箱舟の船室に、それら巨大生物が衝突したらどうなったことか?

 普通に考えればその衝撃で船室は破壊され箱舟は沈んでいたに相違ない。

 然れども、この建材の柔軟性ならそうした事故は、防げたことだろう。

ノアが」神に命じられた通り建造した箱舟は、大いなる深淵がことごとく裂け天の窓が開かれて、大豪雨、大嵐、大洪水の中、沈むことは無かったと、聖書で読んだ。

 それは正しく、このアララトの聖樹で建造された箱舟だったからではあるまいか?

ーー「ノアは神に従って導かれ、海の上を漂った。

 そして希望の虹が示された。

 だから、オレも海から始めてみようと思う」ーー

 ユキア様のこの決意を私は再び思い起こす。

 アララトの聖樹で建造する我等の海賊船は、ノアの箱舟宛ら、決して沈むことのない『不沈艦』となる。

 私は今や、無上のの愉悦に心躍らせていた。

 モンテ、ピッコロ、カリーノ、他の弟子達もアララトの聖樹の材質に欣喜している。

 モンテが声を弾ませ、一同に宣言した。

「おいどんは、この奇蹟の建材で、世界一の海賊船を建造することに、全身全霊を尽くすでがわす!

 生涯一度も目にすることができない。

 と思っていたアララトの聖樹を前に今おいどんは身が引きs○覚悟でごわす!

 おいどんのこれまでの船大工人生の全てを賭けるでごわすっ!」

 ピッコロ、カリーノ、弟子達はいつになく能弁なギルド(マスター)を目に映し、全員が興奮と真剣さを同居させた面構えで、凝然と傾聴している。

「じゃっどん、これから建造する船は先刻言った通り、海賊船でごわす。

 おいどんや¥とピッコロを何の見返りも要求せず救ってくれた、海賊達の船でごわす。

 おいどんは皆も知っての通り、海賊の船と知って建造したことは一度もなか。

 罪の無い人々に恐怖と不幸をもたらす海賊がおいどんは大嫌いでごわす。

 じゃっどん、今回はそれを知った上で、おいどんは海賊船を建造するでごわす。

 何となれば、その海賊達は賊は賊でも、海の義賊だからでごわすっ!」

 モンテはそう言って口を噤んだ。

 私は全く考えていなかった問題が、潜んでいたことに気付く。

 海賊船を喜んで建造する船大工等、世界中探しても誰一人いないことを。

 然し、モンテの弟子、ナーヌス族8人の筆頭格で坊主頭に鼻から下は全てあちこちに髭がピョンピョンはねているベツァルエルは、逡巡する間をおかず応答する。

「親方、おいどん達は家族でごわす。

 家族はどんな時でも苦楽をを共にするものでごわす。

 況してや、親方やピッコロを掬ってくれた海賊の船なら、おいどん達は断られても仕事を奪うでごわす。

 おまけにアララトの聖樹とくりゃ、おいどん達は頭を下げても仕事をするでごわす。!」

すると髭を2本に分けて編んでいるオホリアブ他6人の名0ヌス族達も「ごわす!! ごわす!」

と異口同音に賛同した。

 「皆さん、真にありがとうございまする。」私が深く一礼して「確かに我が主、ユキア・ヴェルスは現在海賊を名乗っていますが、仲間は我が主ともう1人しかいない上、船もまだご存じの通り所有して入りなせぬ。

 然らば、我等は正式には海賊とは言えますまい。

 皆さんはいつも通り、一般の顧客の船を建造しているものと考え、これより先もそれで通して下されば

よろしいかと」

 きっと、ユキア様も同じように言う筈。

 私はそれを信じてナーヌス族達に伝えた。

「レイ、あいがとうでごわす。モンテはにっこり。

「この船の建造は、ここにいる11人だけで行うでごわす。

 他の者には、一切他言は無用でごわす。

 他の職人達は今うちのギルドで受注している三隻の船を建造させるでごわす。

 ベツァルエルは、勢いよく頭を上下に振って「一隻改造案件があるでごわすが?」

「あれもおいどん達でやるでごわす。

 そう時間はかからんでごわそう」モンテは即答してきぱきと次の指示を出す。「オホリアブは建材以外で調達せねばならぬものを、ピッコロ、カリーノと打ち合わせして手配を頼むでごわす。

 何れも金貨に糸目は就けず、最高の者を入手すればよかでごわす。!」

 オホリアブは「承知でごわす!」ニッと笑った。

「他の者は、おうどんとピッコロが書いた図面でこれから打ち合わせするでごわす。

 ピッコロ、カリーノ、ベツァルエルは、オホリハブもそれぞれ仕事を片付けたら合流するでごわす。

 以上、掛かれっ!」

 11人のナーヌス族の船大工達は、世界一の」海賊船を建造する為一斉に動き出す。

 私は、心中で頼もしい11人のナーヌス族に頭をお下げて感謝した。

 私も仕事をしなければならぬ。

 ナーヌス族達の熱っぽい心魂に触れて、私はじっとしていることができない。

 ピッコロにレムスに向かうこと、帰る時間をセルモに連絡することを告げて、ギルド・アルカを後にした。

 神聖ロムルス皇国海軍の海兵に変化して。

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