22.激闘 モノマキア第2回予選大会!
読んで頂きありがとうございます。
この章から読まれた方は、是非【ユキア・サガ 航海① ネフシュタンの魔片 第一巻 第1章】から読んで頂けますと、幸甚です。
終に迎えた第2回予選大会。
広漠とした大空。
少しばかりの真っ白な雲がゆっくり流れている。
暖かい陽差しがレムス闘技場を満たしていた。
3日前の興奮冷めやらず、70.000万人の大観衆の熱気がうねる超満員の闘技場。
第2回予選大会同様、北側にはレイ、ザザ、キョウ、チュチュとギルド・アルカのナーヌス族達。
西側にはキラ、リオ、トバルがそれぞれ前回と同じ席で応援に駆け付けていた。
オスクに第2回予選大会第1試合に出場する、選手達の映像が映し出される。
スペアカーの叫びが響き渡る。
「今大会も決勝まで勝ち残れるのか!? バルセルンの破壊獣っ! グリィース・グルトォーンッ! 入場っ!」
オスクの映像が変わる。
グリス・グルトンの巨躯が映し出された。
グリスは東側の入り口に現れる。
両拳を突き上げて登場。
その肉体は依然見た時とは違った。
減量され引き締まった、筋肉の鎧に変貌している。
この日に備え闘える体躯を確りつくってきた。
オスクにグリスのインテルビスタ映像が流れ始める。
「まさか、ビーストが負けるとは想像もしてなかった。
奴とは因縁がある。
今回その蹴りをつけ、レントゥスを斃し、王者大会でロックスと闘おうと考えていた。
奴には、クィーンズティアラの女王も失望したことだろう。
この試合の対戦相手ともちょっとした因縁がある。
まぁ勝つのは俺だが」
グリスは大股で戦闘領域へと突き進む。
闘技場の東側と南側に集結している亜人族は、グリスの名を狂ったように連呼。
大いに盛り上がっている。
言うまでもなく、西側から北側に陣取っているヒト族達は静まり返っていた。
彼等が応援すべき格闘士が登場してくるのを、待ち構えていた。
オスクに、ノブシゲ・サナダの姿が映し出される。
「うぉーっ!」という聲が地鳴りの轟となって響動めく。
スペアカーが聲を嗄らし再び叫んだ。
「第1回予選大会を秒殺劇で駆け登ってきた少年格闘士、神の祝福を与えられた少年格闘士、ノブシゲェーッ、サナァーダッ! 入場!
続いて、オスクにノブシゲのインテルビスタ映像に切り替わる。
「んーと、王者のロックスと闘う為にオレはモノマキアに参戦してるんだ。
だから、誰にも負けられない。
グリスやレントゥスに勝てる自信があるか?
それは勿論ある。あるよ。
今日の第2回予選大会もこの前同様、サクッと勝ち上がるから」
西側の入場口にノブシゲの姿が現れる。
同時に、ヒト族の大歓声で闘技場が湧きに湧いて沸騰する。
亜人族は不満聲をあげて応戦。
オレは、静かだがギラギラと燃え熾る闘気を身にまとう。
ゆっくりと戦闘領域に入っていく。
「小僧……」グリスが低く呻り、オレを見下す。
「この俺を騙したな。
まぁいい。
嘘つきにはお仕置きしてやろう」
「嘘なんかついてないよ」オレはけろりとして「あの時オレが倒したのはディアスを入れて4人だけだった。
他はオレの仲間が片づけたんだから」
「じゃあ何故あの時俺と闘わなかった?」グリスはオレを睨みふん反り返った。
「そういうことを訊くお前だからだよ」半ば呆れてオレは答える。
「そりゃどういう意味だ?」グリスは訳が分からないというのが丸見えだ。
「オレとお前があの船上で闘ったら、船は無傷で済むと思うか?
間違いなく船のどこかを損傷してた筈だ。
それは、他の乗客や乗組員にとって大きな迷惑になったに違いない。
その位のことがわからないのか?
お前は鍛えすぎて脳まで筋肉にしちまったのか?」
「小僧っ! 殺してやるっ! ぶっ飛べっ! 岩衝っ!」
グリスはわめき叫ぶ。
巨体からは想像つかない速さでオレに有無を言わさず右肩を激突!
オレは20フィートふっ飛ばされてしまう。
「あーあ、勝手に始めちまったよ」溜息を隠さずスペアカーは殆どやけくそ気味に「ベッラーレ!!」闘いを追いかける。
グリスはオレに直ぐ様突撃し、オレの体を軽々と高く抱え上げ、
「よっしゃっ、次っ! 岩砕っ!」
背中から思い切り叩きつけられた。
この衝撃で、戦闘領域に砂塵が舞い上がり亀裂が走っていく。
観客の亜人族から、この一方的且つ圧倒的な展開に、大歓声が湧きおこった。
他方、ヒト族からあちこちで悲鳴と「反則だっ!」という抗議の聲が連呼。
ヒト族達が憤然とするのも無理もない。
グリスは試合開始の合図を待たず、オレに奇襲してきたのだから。
それでも、ザザとギルド・アルカのナーヌス族達は諦めない。
オレに必死の声援を送り続けている。
レイ、キョウは全く動じることは無い。
オレの勝利しかありえないと思ってくれているのだろう。
が、グリスの攻撃は止まらない。
「まだまだ行くぞっ! 岩突っ!」
間髪容れず跳躍して、オレの心臓めがけて急降下させる、全体重を乗せた剛腕の左肘!
すんでのところでそれを交わすオレ。
右肩の突撃と地面に叩きつけられるという連撃。
グリスが肘を突き刺した地面は1フィート以上陥没していた。
もしそれがオレの心臓を直撃していたら、レイやザザが凍り付く結果になっていただろう。
ふらふらとしながらオレは立ち上がった。
右足を前に、足を肩幅より少し広げている。
肩の力を抜きだらりと両腕を垂らす。
これがオレの戦闘態勢だ。
「ディアスやビーストに勝った実力は認めてやる」
素早く立ち上がったグリスは余裕の態度で構えを取る。
「だが調子に乗ってもらちゃ困る。
ここはモノマキアの闘技場だ。
ガキが遊ぶ場所じゃねぇ!」
オレは挑発に乗らず、呼吸を整える。
「打撃や斬撃も俺は得意としているぞっ!
行くぜッ! おらぁーっ!」吼え哮り、グリスが放つ左の直突き!
シュッ、と切り裂かれる空気。
だが、直突きに観えるそれは、打撃でも斬撃でもない。
強堅で尖鋭な詰めによる刺突!
が、その刹那。
ーーバキンッ!
太い木の枝を圧し折った時に鼓膜へ届く音を鳴らし、
「うがっ!」
グリスの呻き声が洩れた。
観ればいつの間にか、グリスの左腕はあらぬ方向へと完全に折れ曲がっている。
悲鳴のようでもあり、吃驚のようでもある複雑な韻律。
大観衆の中でそれが波紋となって広がっていく。
強烈な激痛がグリスを襲っている筈。
それでもさすがはグリス。その闘志は些かも揺るがない。
腕を一本壊された以上次戦で闘うことは無理だと、グリスも判断してるだろう。
最早、相打ち覚悟で共倒れを狙うしかないグリス。
鬼気迫って迷う隙を見せず、
「おおおおおおーっ」
ブンッ! と裂帛の気合で薙ぎ払う凶悪な右爪の斬撃!
頭を下げ、神気楼でかわすオレ。
だが、それは想定内だったらしく、グリスはニヤリ。
下げていたオレの頭が元の位置に戻ってくるのを待っていたのだろう。
そのまま右こぶしを握りこみ、
「喰らえっ! 裏岩っ!」
渾身の力を込めた剛腕の裏拳!!
今度こそこの攻撃は、オレに直撃したかに観えただろう。
が、またしても、
ーーバキンッ
という容赦ない乾いた音と同時に、
「うごっ!」
グリスは呻いた直後、オレの足下にうつぶせになり喪神していた。
その右腕も、完全に折れている。
亜人族達の悲鳴と怒号、ヒト族達の驚喜の大歓声で闘技場は爆発!
「勝者っ! ノブシゲェーッ、サナァーダァーっ! よくやったっ!!」
スペアカーのおまけつきの絶叫が闘技場を貫く。
然し、例によってオレがどうやってグリスを斃したのか、レイ、ザザ、キョウ、チュチュ以外知る者はいない。
オスクがこの37秒の闘いを流した。
やはり何が起こっていたのか判然としない。
続いてレント像が再生される。
グリスの闘いの合図を待たずに仕掛けた反則攻撃の体当たり!
間をおかずオレを地面にたたきつける!
倒れてるオレに左肘の突撃!
が、不発に終わる。
ここまでは、大観衆も理解していた。
問題はその後だった。
グリスの左腕の刺突をオレは神気楼で見切りギリギリ右肩越しにかわす。
同時に自らの首を利用して、グリスの伸び切った左腕の肘に、
「はっ!」
気魄を乗せて叩き込む右の鉤突き!
グリスの左腕は、オレの首と右拳にはさまれた形になり、く゚の字に折れ曲がってしまう。
グリスはそれでも勝負を棄てず、雄たけびを上げ満身の力で薙ぐ右爪の斬撃!
これをオレにかわされたグリスはそれを読んでいた。
下げた頭あを上げるオレへと右拳を握りこみ、思い切り撃つ岩石宛らの裏拳!
が、オレはその右手首をつかみ取り、自分の右肩へ強かに叩きつけ関節を極めて折った!
そのまま柔術の一本背負いに似た投げ技を放つ!
グリスは右腕を折られて、一旦高く宙に投げられ頭から落下していく。
と思いきや、その頭部が地面に激突する直前、
「はっ!」
練りこんだ気を乗せ、グリスの顔面にオレが狙い撃つ、右下段蹴り!
グリスの巨体が一瞬ほんの少し浮き上がって、終に戦闘領域の地面へ、
ズシンッ!
という重い音と砂塵をあげて沈む。
大観衆はレントの映像を食い入るように凝視していた。
オレの神速を誇る熾烈な技に、驚嘆と賞賛の聲波が起こる。
※※※※※
ピッコロが透かさず「レイあの凄まじい技は」何という技でごわすか?」
「あれは、私もザザも初めて見た技」私は驚異の技を知らなかった。「然れど、あの技の原型となる技は、我等も知っている。
肘関節を極めて折り、投げ技へと繋げ頭を地面に叩きつける連撃技で、四阿羽黒流柔剣術『影落とし』という技。
然りながら、この技を使ていれば、グリスの命はなかっただろう」
ザザが驚倒した面持ちだ。
「もし、ユキア様が最後の蹴りを放ってなかったら。
グリスはあの勢いのまま頭が地面に激突して命を落としてたでござる。
この技は差し詰め「影落とし・改」といったところでござろう。
ユキア様はグリスが反則の先制攻撃をされたでござる。
なれど、その命は奪わず見事な技! さすがユキア様でござった」
「最後の下段蹴り……」私は感銘して「通常、下段蹴りは威力も技の見栄えも、中段、上段蹴りに劣る。
然れど斯様に使えば、中断、上段蹴りに匹敵する華麗さと威力を持つ技になる。
今更ながら、ユキア様の柔拳術の知覚感はと潜在能力は測りきれぬ」
私は俯き「もし、ユキア様の緋隻眼が視力を喪ってなければ……」聲を詰まらせた。
ザザが話を引き取り「現時点でもそうでござるが、最強無双の格闘士になったでござろう。
然れど、左眼の視力を失ったが故に慰安のユキア様があるのも事実。
然ればこそ、命を奪う影落としという技が、影落とし・改になったとオイラは思うでござる」にっこりした。
優しくしっとりとキョウが「レイもザザも己の主に誇りをもち、2人で切磋琢磨するこちです。
この時代のヴェルス十勇士となる為に」二人に諭す。
ナーヌス族三人の会話に感激しているのか、目を潤ませて耳を欹てている。
※※※※※
オレは今迄通りグリスが担架で退場して行くのを、静かに見送り、一礼した。
闘技場の大観衆は、ヒト族、亜人族が一つになって、オレに万雷の拍手を惜しまない。
オレは、ヒト族、亜人族にも手を振って西の入場口から控室に戻った。
暫くの間拍手は鳴りやまない。
礼を重んじ、敬意を持つ心魂は誰の心にも美しく響き渡るのだ。
※※※※※
いつも笑顔で、温厚なトバルが激怒している。
「グリスの最初の奇襲は明らかに反則でごわす。
厳罰が与えられるべきでごわすっ!」
が、直ぐ様憤怒の面貌をころりと変え、欣喜雀躍して「ユキアは素晴らしいでごわした。
グリスの反則に抗議する素振りも見せず、正々堂々と受けて立ち見事な技で勝利したでごわす。
もし、ユキアがあの最後の下段蹴りを撃ってなければ、グリスは頭から落ちて命は無かったでごわす。
ユキアは反則のこと等全く意にも介さず、グリスを難易度の高い技で救ってたでごわす。
まことにあっぱれな武人。あ、海賊でごわすっ!」
兎に角嬉しくて仕方がないという口ぶりだ。
普段口数の少ないトバルが冗舌なのは、非常に珍しい。
と私は思いながら聞いている。
それだけユキアの勝利がトバルに至上の喜びを与えているのだろう。
「然し、今日も秒殺劇が観れるとは……」リオも珍しく興奮している。「彼は、私達の想像を常に超えて行く」
リオは、退場するグリスに一礼するユキアに目を注ぎ、しみじみと続けた。
「旧約聖書、ソロモンの箴言、第24章17節から18節に書かれている。
ーー敵が斃れても喜んではならない。
彼がつまずいても心躍らせるな。
主がそういうあなたを見て不快とされるなら、
彼への怒りを翻されるであろうーー
私は確信している。
ユキアはスペアカーが言った通り、神に祝福されているのだ。
彼の心魂は清澄で美しい」
私が「ユキアは毎日欠かさず聖書を読んでいる。
きっとその聖句も頭に入っていると思う。
だから、たとえ反則行為をした相手であっても激昂せず、その命を奪うこともしなかった。
グリスに礼を尽くし、敬意を示すことができる」
ヒト族と亜人族の両方から、盛大な歓声と拍手を贈られるユキア。
天真爛漫に面輪を輝かせ手を振るユキアと出会えたことを、私は心魂の底から感謝し、黙祷を捧げた。
いつの間にか雲一つ見えなくなった、果てなき蒼空から稲妻のない恰も豪快な笑い越えと思しき雷鳴が轟く。
不思議な『天雷』は、正に神のユキアへの祝福の証しだと、私は感じた。
闘技場の70.000人の観衆も、この幻妖な現象は神のユキアへの祝福だと感じている。
拍手と大歓声が、闘技場を揺らし覆っていく。
※※※※※
第2回予選大会、第1試合、則ち準決勝に勝ち上がったのは、ノブシゲ・サナダ。
もう一人は、モノマキア元王者、レントゥス。スペルピア。
レントゥスは、ロックスに敗れて以降、他の格闘士には無敗。
毎回王者大会に出陣している。
その都度進化して強さに磨きをかけていた。
立っての打撃、斬撃、刺突。
寝てからの絞め技、関節技も良し。
殆ど完璧な格闘士だと現在も評価は高い。
ロックスに敗れるまで、10年はレントゥスの時代が続くと激賞されていた。
2年前のロックとの闘いはまだ観衆達の記憶には新しい。
無敵の王者レントゥスに無傷で勝ち上がってきた無名の新人。
ヒト族のロックスはは圧倒的な力量を誇示して、勝利の杯を奪い取った。
レントゥスから、一発も被弾しないまま。
逆に、ロックスの強烈で鋭利な下突きが!
それが掠っただけで、レントゥスの右頬から左の額に一筋の傷痕えを残す凄まじさ!
正しく紅い鮮麗な血で、レントゥスの純白の毛並みが染まった。
あまりにも、妖美な血化粧に、大観衆が息を呑まれた一戦。
この第2回予選大会も、前回に引き続きレントゥスが王者への挑戦権を掴む。
それが大方の予想だった。
まさかノブシゲ・サナダと名乗る生国不詳の少年格闘士という伏兵が、今大会に出陣し進撃してくるとは誰も想像していない。
ーーいや、非常に小数だがノブシゲが勝ち上がると堅信している者達がいた。
レイ。
ザザ。
キョウ。
チュチュ。
キラ、
それに加えて他に2人いた。
そのうちの一人の男が、モノマキア第2回予選大会の生中継をオスクで観戦していた。
暗闇の中、殺風景な石造りの一室。
温もりなどといった要素は全くない。古色蒼然とした木製の寝台。
卓子と椅子が二脚。
簡素な台所。
その他に男が両足をあげて観戦しているオスクは、場違いな趣があった。
男の両眼は黒蒼色で、闘気と怒気をさせた目力がある。
どこからか、猛獣らしき唸り声が耳に障る。
重そうな鎖を引き摺る不気味な音が響く。
「レントゥスはそれなりの猛者だ」暗がりの中で男は呟く。「一瞬の油断が、直接生死に拘る……」
オスクにレントゥスの横顔と、見目麗しい女性が映し出された。
女性は神聖ロムルス皇国出身の国民的女優のアン・ウェイ。
その人気は近海諸国のみならず、クィーンズティアラにまで及んでいる。
「俺は気を抜かない」レントゥスは落ち着いた静かな聲で「相手がたとえ少年であっても。
何故なら俺はロックスを斃す為だけに、今を生きているからだ……」
アンは、切れ長の優しい双瞳。
鼻筋がすっととっている。
降格が上がっている。
誰が見ても美貌の持ち主。
20代後半の豊麗な佳人だ。
その話し方は、スペアカーに劣らず、堂に入っている。
やはり女優。
どんな役どころでも難なく演じることができるのだろう。
「さすがですね」アンは滑舌良く少し弾む語り口で「あなたを応援する人達は、今回こそロックスを斃して、再び王座に返り咲くことを信じています」
場所はレントゥスの控室。
東側の一面が鏡になっている石造りの広い部屋。
2人は、卓子とそれを挟むディヴァーノに座って向き合っている。
「それは俺にとって光栄なことだ」
「私は格闘技に関して素人ですが、あなたとロックスの闘いの映像をすべて拝見し為した。
その闘いの時間が一戦毎に長くなっています。
あなたの多彩な技と戦術が進化しているからだと思います」
ありがとうと言ってあげたいところだが」レントゥスは眉間に、深く縦皺を見せ、その眼差しには凶悪な光を宿し「いずれも敗れた闘いだ。オレが進化していても、喜べることではない。
アンはレントゥスの迸る闘気を感じ取っている。
美貌を引き締めて問う。
「次の対戦相手は、ノブシゲ・サナダはのグリス・グルトンの反則行為以外に被倒を奪われていません。
これまで全て秒殺で勝ち上がってkています。
その攻撃力と防御力は何れも今大会屈指の格闘士です。
大観衆の中には彼を応援する人達が急増しています。
これは珍しいことですが、ヒト族だけではなく亜人族にも観られます」
「俺にとって」レントゥスは一呼吸置き「ヒト族と亜人族の歴史は全く意味がない。
我々は、姿形が変わっても同じ人間だからだ」
この言葉にはレントゥスの真摯な心持ちと人柄が滲み出ていた。
アンは艶然と微笑む。
「だが、ロックスと闘るのはオレだ。
何故なら俺には、全獣人族の希望を打ち砕くことは赦されまいからだ」
画面が切り替わり、東側入場口に現れたレントゥスを映し出す。
男はそれを見て「ほぅ……今までで一番最高の体をつくってきたな」
レントゥスが戦闘領域に足を踏み入れる。
亜人族達の大声援が湧きおこり、レントゥスの名を連呼して絶叫!
オスクには、ノブシゲ・サナダとアンの会談が流れ始めた。年下
場所はノブシゲの控室で、レントゥスの部屋とほぼ同じ。
違うのは鏡が西側にあることだけ。
2人はやはりディヴァーノに向かい合って座っている。
「巷では」アンが話をk利出す。「この闘いが、事実上の決勝戦だという人も少なくありません。
でも、王者ロックスと闘うためには、強敵のレントゥスを斃し、もう一戦闘わなければならないから、体力にも気を配る必要がありそうね」
「んーと」オレはさして深く考えることもなく「この闘いはオレも天王山だと思っているから、次戦のことは今考える必要はない。
だから、体力温存は考えていないなぁー。
先刻レントゥスを見たけど、もぉーすんごい体してたし、オレ殺されちゃうかも?」
口から出た危険な言葉が、全く似合わない喜色満面のオレ。
強敵と闘うことにオレの血潮は熱く滾り、早く勝負したくてうずうずしている。
「そっかぁ、あなた自身も事実上の勝負どころ、決勝戦と考えてるのね。
でもやっぱりこの闘いに勝てば、レーヴェン対ハンニバルの勝者が待っているから、体力の配分というか、使い方には気を配る必要があるんじゃないかしら?」
アンは相手がまだ年下だからか、気さくにインテルビスタしている。
「んーでもね」オレの心魂はこの闘いにもし負けた時の言い訳を闘る前に作るなって行ってるんだ」
真意が掴めずにいるアンにオレは「言ってることの意味は、もしレントゥスにオレが負けた時、敗因が体力温存を考えていたからと、言い訳したくないってことだよ」
アンの瞳がイラキラ耀く。
「オレは、レントゥスという凄い格闘士と闘えること自体、誇りに思っている。
だから、オレは全力で戦うよ!」
アンンも「私も応援する!」といった後で語を繕う。
「二人共ね」と。
映像を黙って観ていた男は「それでいい。油断するな」とつぶやいてニャリ。
西側の入場口に現れたノブシゲと、その名を狂喜して叫び続けるヒト族の映像に替わる。
然し男の耳に、狂人が咆哮して喚き散らし、重い鎖を引きちぎろうとする、ガチャーン! という激しい連続音が突き刺さった。
男はオスクの遠隔装置の録画を選択し、舌打ちして部屋を出て行く。
「ったくうるせぇ野郎だ」男は聲と音の方向に足を向け「これからって時に邪魔しやがって。手加減せずに黙らせてやる……」
灯りのない無いくらい通路を、男は迷う気配もなく突き進むことにうんざりしていたが、「まぁ、ユキアが負けることは有り得ねぇ。
だが、モノマキアに参戦してきた真意はなんだ?「
黒蒼眼の底がギラリと光った。
※※※※※
「今大会の注目の一戦が遂に始まる!
決勝にコマを進めることは出来るのか?
秒殺劇の主役、ノブシガェェェェ、サナーダァァァァっ! 入場っ!!」
スペアカーの興奮を伝える聲が闘技場に熱を加える。
オレは風に迎えられ戦闘領域に入った。
闘技場は緊張感と共に静まり返っていく。
「ベッラーレ!」
スペアカーが試合開始を叫ぶ!
闘いは静止画を見ているかの如く、張り詰めた圧力の応酬から始まった。
レントゥスは基本に忠実な正統派の構え。
顎の下に脇を締めて右拳。
同様に脇を締め、肩の高さに左拳。
両脚はやや広めに開き、重心を低く置いている。
獣人は足腰が強く弾機があるから、低く構えても動きは速い。
弾機のある膝の柔軟さは、円滑な体重移動を可能とする。
当然その打撃は一発一発の衝撃が重い。
加えて、相手の打撃の衝撃を逆に吸収してくれる。
レントゥスの格闘士としての完璧な肉体は、闘いが必要とする強靭で柔軟な筋肉をまとい、不必要なものは全て削り落としていた。
オレは、肩の力を抜き両腕はだらりと垂らし、右足を前に肩幅より少し広く足を開いている。
緋隻眼は茫漠としていて、レントゥスの背後まで見透かし、白豹の獣人を覆う。
摺り足でじりじりと間合いを測りながら。
それは、既にいつでも攻撃に移行できる闘気を羽織っている。
レントゥスも大観衆も、それが直感させられる激烈さであったであろう。
互いの拳が届く間合いになるのを待っていたとばかり、レントゥスはその闘気を切り裂く、予備動作なしで狙撃する右の上段蹴り!
以前オレが、クレブリナ海賊団の一人に見舞った技と同じ技だ。
この間合いからは、相手の上段蹴りは視えない。
レントゥスは完璧な一瞬間を見極めていた。だから、本人も大観衆もその大技がオレに命中したと確信したことだろう。
が、レントゥスの右足はオレの頭部を擦り抜けていまったのだ。
オレの茫々とした目線は、秘儀・神気楼の基本で対戦相手の全身を自らの眸の映しだすことに目的がある。
相手のどこが動いたのかを視認し、瞬時に対応をとる為に。
オレはレントゥスの左股関節が弾かれた瞬間に、右上段蹴りだと看破している。
その神技の如き秘儀・神気楼を、レントゥスはロックスのそれと同じものだと気付いたらしい。
貌色を変え一旦後退して距離を取り、構えを締める。
オレは、そんなレントゥスの冷静さに、やはりその力量が並ではないことを悟った。
並の格闘士なら、上段蹴りの様な大技の後に、体躯の均衡を崩し隙を生んでしまう。
だが、レントゥスは鍛え上げられた強靭な足腰で、それが微塵もなかったからこそ、素早く後退することができた。
更に、オレが反撃に転じたら、即座に逆撃で応戦できる体制をとっている。
然も、レントゥスは間を置かず攻撃に出た!
左足でオレの軸足に放つ、下段蹴り!
レントゥスは透かさず反転して、右裏拳!
続き様にオレの脇腹を狙い追撃する為に突き放つ、三ケ月蹴り!
今度こそ決まったかに観えた、計算し尽くした三連撃だったが……。
オレは神気楼で全て見切っていた。
レントゥスの激甚な攻撃は続く。
左の短突き!
からの右の直付き!
オレの右足の破壊を狙う下段蹴り!
追い打ちに鋭く打ち込む右拳の鉤突き!
レントゥスの見事な四連撃!
一つ一つの技のキレ、速さ共に恐るべきレントゥスの攻撃には、鬼気迫るものあった。
それは、格闘士というよりも、戦場で闘う武人がまとう闘気と同種の匂いだと悟るオレ。
レントゥスは、武人ロックスとの闘いを重ね、それを身につけたに違いない。
オレはそう考え、そこにロックの力強い生命の息吹と逞しさを感じ嬉しくなった。
激しく続く攻撃の最中にあっても、自然と笑みがこぼれる。
レントゥスもつられたのか、ニヤリと笑う。
が、オレはそれを目にとめず素早く反転して、レントゥスの左足を払う、左下段前足蹴り!
攻撃の速度を袂殺さず、砂塵を巻き上げながら今度はレントゥスの右足に右下段回し蹴り!
大したダメージはないものの、正に足下を掬われ転倒するレントゥス!
闘技場の大観衆が騒めく中、オレはレントゥスに立つように促す。
大観衆は、正々堂々たる闘いぶりを讃え、ノブシゲに万雷の拍手を贈った。
ここから、レントゥスの厳しく激しい斬撃と刺突を組み込んだ攻撃と、オレの打撃の激烈な撃闘がh字まる。
互いに一歩も引かない。
オレは神気楼でかわしまくり、レントゥスは攻撃を喰らっても前に出てくる。
獣人レントゥスは、耐久力が尋常ではなかった。
レントゥスの右から薙ぐ凶悪な斬撃が、オレの前髪を掠める。
オレは構わず反撃の左上段蹴り!
レントゥスの顎を捉えた有効打だったが、浅い。
「チィッ!」と吐き捨てるオレ。
激闘の中、レントゥスが勝負を仕掛ける。
左腕を下げ、右拳を握りオレの攻撃をかわし逆撃の機会を狙う。
一撃で決める!
という気魄を、オレはレントゥスの鋭い眼光の中に見て取った。
瞬きを赦さない攻防に、大観衆は痺れ手に汗握り、闘いに酔う。
オレはレントゥスが逆撃を狙っていることに気付いている。
でも、ここでオレが距離を取れば、睨み合いが続くだろう。
だけど、それはレントゥスの隙が生まれないのと同義だということ。
ここが勝負どころだ。
オレも腹を括る。
攻撃を全く緩めず、オレは連撃の中で、敢えて打ち込む左の直突き!
シュッ!
拳が空気を切り裂く。
その出端を狙い渾身の気合を込め、レントゥスの鏃と化した右の鋭爪を、相手の心臓めがけて走らせる伝家の宝刀『死刺穿』!
それは左で放つ刺突と違い、敵の肉体を捩りこんで深く貫き、戦闘不能に、或いは死へと陥落させる恐るべき猛撃!
絶対絶命必殺の機会を逃さず襲い掛かって来た、キレのある鋭い殺人技!
辛くも神気楼でかわすオレ。
だが、レントゥスのこの攻撃をオレは待っていた。
不意にレントゥスは、死刺穿を狙った右腕を伸ばしたまま、ストンッ、とその場に膝を折りながら終に撃沈してしまう。
「勝者っ! ノブシゲェェェェェーッ、サナァァァァァダァァァァァッ!!」
スペアカーが絶叫した。
70.000人の大観衆が騒然とする中、オスクでこの48秒の闘いが流れたが、毎回の如くオレがどうやって相手を斃したのかは不明。
続いてレント映像が流された。
オレの左の直突きに、レントゥスがその機会を完璧に捉えて放つ、死刺穿!
髪の毛一本分の間合いでそれをかわすオレ。
白豹の獣人の右腕が伸びていく中、左の防御が下がった無防備なその瞬間ーー。
「はっ!」
オレは丹田から気を発す。
がら空きとなったレントゥスの顎に、オレは右拳の下好きを炸裂させた!
倍の倍返しだ!!
その威力は想像を絶する。
然し、歴戦の武人レントゥスは、大技の後に生じる隙を狙って、反撃が来る可能性を排除せず、万が一に備え想定していた。
獣人の顎が強堅なことも手伝い、オレの右拳の逆撃に対して、歯を食い縛り、足腰も踏ん張って、何とか意識を保ち、レントゥスは、倒れない。
元王者の矜持がそこにあった。
だが、オレはレントゥスは超えていく。
右拳の下突きを放ったその右腕を畳む。
全体重が乗り切った足を踏み込む。
その膝を伸ばしつつレントゥスの顎に再び襲い掛かる必倒の右肘!!
レントゥスは聲にならない呻き声を洩らし、血泡を吹き出す。
到頭白豹の獣人レントゥスは円形闘技場に膝から頽れてしまった。
戦場を担架で去っていく、初めて秒殺されたレントゥスをオレは静かに見送る。
その姿に心魂を撃ち抜かれ、大観衆もレントゥスを黙して見送った。
レントゥスに一礼するオレ。
大観衆は、一歩も引かない打撃、斬撃、刺突や蹴り技を魅せて、その勇気を分け与えてくれたレントゥスに、盛大な拍手を贈った。
オレは、レントゥスの姿が見えなくなると力が抜けて膝をつく。
一つ大きく深呼吸して、力の限り両の拳を蒼天に突き上げた。
一瞬の静寂の後、70.000人の熱気、興奮、感動が最高潮に達して大爆発!
モノマキアに、ロックス、レントゥス、と肩を並べる超人気格闘士が誕生した瞬間だった。
★★★
今回もピッコロが例によって「レイ、ユキアのあの凄い技は何という技でごわすか?」
レイは解説する「あれは、四阿羽黒流柔剣術、影絶という。
観た通り逆撃の下突きの影から肘へと継なげるこの連撃を喰らった者は、例外なく意識を断ち切られてしまう故、この技は影絶と呼ばれている。
然し、簡単な技ではない」
ピッコロとナーヌス族は見たことのない凄まじい技に、畏怖と尊敬の念を抱いたと思わせる、聲にならない聲をあげた。
オレがレントゥスを秒殺してしまったからだろう。
現王者でさえ、レントゥスを斃した最短時間は2分18秒だったのだから。
※※※※※
ユキアとレントゥス戦のレント映像を観て暫くあんぐりと口を開いているりオとトバル。
実際のところ私も内心では喜びつつ、ユキアの神がかった強さに驚倒していた。
あと一つ勝てば、ユキア達と手を組む話を、大賢者ボアネルゲス様に提案することができる。
レントゥスに圧勝したユキアが、次も必ず勝つに決まってると私は疑わない。
ところが思いもよらなかった展開が待っていた。
カルターゴーの超人ハンニバルと、斑獅子の獣人レーヴェンの闘いは相打ちに終わる。
両者ともに拳や腕、脇腹等を骨折している為、次戦は戦うことは不可能だという。
結果、第2回予選大会の優勝者は、ノブシゲ・サナダに決定したのだ。
見事にユキアは、モノマキア王者大会への出場権を獲得。
王者ロックスと拳を交えることができる。
「これで決まりね」私は上機嫌で二人の仲間に「大賢者ボアネルゲス様に事情を説明してユキア達と手を組むことを、認めて頂かなくちゃ!」
リオとトバルに異論などあろう筈もない。
二人は大きく力強く首肯した。
「圧倒的だった。しかもまた秒殺だとは……」リオは熱を込めて「ロックスとレントゥスの初対決の時でも2分18秒だった。
それを大幅に更新する闘いをしたことは、ロックスでさえもユキアに斃されるという可能性があると言っても過言ではない」
そう断言してリオは更に熱っぽく語る。「クレブリナ海賊団が退却を余儀なくされたのも当然だろう。
嬉しいことに彼等は格闘術だけでなく、忍術も駆使することができる。
この大会でユキアが術を使えたら、我々の想像の埒外の闘いになっていたことだろう。
不謹慎だと思う。
然し私は彼等の全力の闘いを、この目で視たいという欲求を隠せない」
トバルは「ユキアの格闘術の水準は、海賊・山賊の猛者と十分渡り合えることができるでごわそう。
その上術も操れるとなれば、おいどん達にとって願ってもない強力な援軍になるのは、間違いないでごわす。
きっと大賢者ボアネルゲス様もお喜び頂けるでごわそう!」有頂天で今にも踊り出しそうだ。
「善は急げ! ね」私は目の端を緩め「銀の匙に戻って、大賢者ボアネルゲス様に報告しなくちゃ!
話がまとまったら祝宴ね!」
「今夜はおいどんが美味しい葡萄酒をキラに贈るでごわす! 何がいいでごわすか?」
「本当にっ? じゃあお言葉に甘えてラクリマ・クリスティーがいいな」
「了解でごわす!」トバルはニコニコ。
「時間が惜しい。リオは珍しく早口だ。「銀の匙へは空籠を使おう」
空籠は鳥人族が経営している空輸手段だが高額。
馬車の料金の4倍。
因みに空飛絨毯は馬車の2倍だった。
★★★利用客は貴族や富裕層が大半を占める。
乗客は屋根付きの人が乗れる大きな籠に乗り、目的地へと向かう。
籠は東西南北に開閉できる窓があった。
天鵞絨のテンダもついている。
座り心地の良い2人掛けの椅子を前後に対面する形で並んでいる。
足元にはふかふかの絨毯が敷かれていた。
空籠の屋根の四隅には、一本ずつ極太の縄が結ばれていて、その先に鳥人族が腰に巻く帯がある。
鳥人族達はこの帯を腰に巻いて空籠を運んでいく。
私達3人は闘技場を出ると空籠乗り場に直行して乗り込み、空路銀の匙へと向かう。
※※※※※
第2回予選大会終了後の優勝インテルビスタをオレは辞退した。
代わりに大会広報を通じ、コメントを発表。
ーー沢山の声援が、闘う心魂を熱くしてくれる糧になったことに感謝します。
オレと闘ってくれた全ての格闘士にも、感謝の気持ちで一杯です。
レント映像を観て頂ければわかりますが、ビーストと、今日闘ったレントゥスがもしあと半インチ踏み込んでいたら、オレが倒された場面もあり、強敵でした。
2人のお陰でオレはもっと強くなれます。
来月の王者大会で必ずロックスを斃すから、期待しててください。
是非闘技場へ応援に来て頂けると嬉しいです。
ありがとうございましたーー
この言葉が発表された後、今大会でノビシゲ・サナダ選手に、反則となる試合開始前の奇襲攻撃をした、グリス・グルトン選手には罰が発表された。
今後招待選手にはしないこと。
今大会の出場報酬も5割減額されることになった。
グリスは両腕を折られている為、治療と回復訓練に1年以上かかるらしい。
モノマキアに復帰できたとしても2年はかかるだろうと広報担当が話している。
レントゥス・スペルピア選手も、顎の骨が粉砕骨折していて、復帰には1年はかかるだろうとの見通しだった。
第2回予選大会終了後、オレ達は再びナーヌス山に招かれ、祝勝会をしてもらう。
美味しい大量の高級肉料理に舌鼓をうつ。
モノマキアでの戦いを振り返って、大いに盛り上がる。
オレの勝利を全員が誇り、喜んでいた。
それから船の建造の話に花が咲き、楽しく幸せなひと時を過ごす。
オレは、ナーヌス族と交流を持てたことに感謝している。
人が良く、愉快で頼もしい人達だから。
祝宴が終わると、まだ少し眠るには時間が早いので、カリーノが手土産を持たせてくれた。
フォカッチャ、セッボリーネ、これらには全てルムウベッタが練りこまれていることは言うまでもない。
他にも自家製の生ハムやサルスィチョも沢山頂いた。
乳酪、牛酪、マーメリアータも数種。
オレ達は今日は特別にということで、少し贅沢をしようと決める。
モンテに頼んで空籠を呼んでもらったのだ。
オレ、レイ、ザザ、キョウは、ナーヌス族に赤心から御礼を伝える。
それから空籠に乗り込む。
前席にレイとザザ。
後席にオレとキョウ。
チュチュはオレの腰の剛具入れから、いつも通り顔をと前足をちょこんと出して機嫌が良さそうだ。
空籠は、あっという間に上空1.000フィートまで翔け上がっていく。
そこから眺める冴え冴えとした蒼皓い月は、煌めく星々と共に、レムス市街を明るく照らしている。
★★★眼下の夜景も華やかな景色を魅せてくれた。
故郷パークスのサナーレ山の頂から観る夜景を静的な美しさと表現するなら、今夜観ている光景は動的な美しさと名状できるだろう。
オレが感慨に耽っていると空籠は早くも降下を始め、銀の匙へと到着。
レイは、オレから預かっている大会出場報酬2.000万ドエルンと、優勝賞金3.000万ドエルンーー第1回予選大会は出場報酬1.000万ドエルン、優勝賞金2.000万ドエルンーーの中から、空籠の料金は支払わず、オレ、レイ、ザザの活動費用を管理する財布袋から1ドエルンを支払う。
空籠を運ぶ4人の鳥人族の頭、大鷹の超人が「またのご利用をお待ちしております。ノブシゲ・サナダ様」丁寧にお辞儀する。
それからにっこりして「ロックス戦、応援してます」とオレに会えたことが嬉しそうだ。
その言葉は、既にオレがレムス・モノマキアを代表する超人気格闘士だという証し。
「ありがとう! 頑張るよ!」オレが喜ぶと鳥人達は皆笑顔で会釈して、空へと翔け昇った。
銀の匙に到着した一行は、そのまま自分達の客室へと向かう。
三階右手突き当り奥、自分達の部屋の西洋扉をオレが鍵で開けようと手を伸ばす。
が、オレは直ぐ様、左手を肩の高さの挙げて肘を直角に曲げた。
これは、
ーー止まれ! 待て!
という合図。
後方のレイ、ザザに緊張感が走る。
チュチュはオレの道具入れの中。
キョウは最後尾で状況を窺っている気配だ。
ところが、オレ達の警戒を見透かして、自信ありげな言葉つきで、
「遅いじゃねぇか。待ちくたびれてもう帰ろうかと思ってたところだ。
いい加減腹が減っちまったからな」
低くて少し嗄れた聲が届く。
その聲を耳にして鍵を開けオレ達は部屋へ入った。
短く刈った銀髪と潮焼けした赤銅色の肌の精悍な相貌。
形容し難い、霊異な魅力を讃えた黒蒼眼。
軽そうな鎖帷子の上に紺碧の龍革の武具で身を覆っている。
左腰に長剣、右腰に短銃を装備した武人が、用心深く窓側のソッジョルノの壁に立っていた。
身長はオレよりも少し高い。
無駄を省いて鍛え抜かれた筋肉が、常に闘いの中に身を置いていることを物語っている。
「だが、待っていて正解だった」
男は窓側から見て右側の3人掛けディヴァーノに長剣を立てかけ、その手前側に座った。
そこはオレの定位置の右側に位置する。
そのディヴァーノの中央は、普段はキラの席。
※※※※※
この謎の訪問者。
ユキアがレントゥスに勝利すると確信して、石造りの暗く殺風景な部屋で、オスクを観ていた、あの黒蒼眼の男だった。
読んで頂きありがとうございます。
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長い物語ですが、様々な要素で楽しんで頂けるよう努力してます。
これからの物語も是非読んで頂けますように・・・。 m(_ _)m




