21.建造中の海賊船
読んで頂きありがとうございます。
この章から読まれた方は、是非【ユキア・サガ 航海① ネフシュタンの魔片 第一巻 第1章】から読んで頂けますと、幸甚です。
オレは1回戦で強豪ビースト・グリーンを斃した。
70.000人の大観衆度肝を抜き、闘技場を一つに。
その後も難なく勝ち進んだ。
、第1回予選大会B組の優勝者として、第2回予選大会への出場切符を入手する。
終わってみれば、
第1回戦21秒、
第2回戦16秒、
第三回線18尿、
準決勝17秒、
決勝19秒と全て秒殺戟!
この日、オレはヒト族、亜人族からも応援団員を獲得。
モノマキアの人気格闘士の一人となった。
が、大会後のインテルビスタをオレは辞退する。
その栄誉を、第1回予選大会A組の優勝者、斑獅子の獣人レーヴェン・ムスターに譲った。
オレはまだま目立ってはならないから。
レイはロックへの刺客を主に警戒しているようだが、軽視している問題がある。
それはザザも同様だとオレは感じていた。
ラティウム都国、神聖ロムルス皇国に、4人編成の月の者が今現在も諜報活動をしているという現実。
そのことだ。
然も、オレは彼等がロックの情報を掴んでいないのを、寧ろ違和感がある。
ロックが海軍に入った頃は困難だったろう。
が、格闘士としてロックがモノマキアに出場するようになった。
なのにそれに気づいてないのが腑に落ちない。
ルーナの一存で、敢えて知らぬ振りをしているのではないか? とオレは思う。
ロックの新たな人生を、影ながら応援する為に。
実際ロックは、マリス家の家督相続争いに巻き込まれた犠牲者なのだ。
本来マリス家の当主はロックなのだから。
でも、一度は実兄に養子として差し出した自らの長子を押しのけ、ロックの実父デーンは当主の座を簒奪した。
オレを含め、ロックに同情する者は多い。
月の者を率いるルーナも、その一人なのは、ほぼ間違いないだろう。
母親がそうでなければ、ロクネも自分の考えをオレに言えない筈。
御三家なのだから。
でも、オレのことまで見逃してくれるとは限らない。
それに、もう一つの動きも気になる。
オレの勘だが、エステルとの逢引をチュチュが追跡していたのは、そのことに気付いていたからではないか?
従って、インテルビスタは辞退して大正解。
だが、オレはモンテ親子から祝勝会を開くという申し出。
アララトの聖樹で建造中の船を見に来て欲しいという申し出は、勿論快諾。
モンテは闘技場の周囲を巡る沿道に並んでいる、馬車、空飛絨毯、空籠。
これらの中からナーヌス山への移動手段を迷っているようだった。
結果、その大半がメッカ教の聖術士達の経営となっている、空飛絨毯、またの名をサマーペタオに決めたらしい。
一行を乗り場へと先導し、空飛絨毯3枚を確保して「ナーヌス山まで頼むでごわす」絨毯の馭者達に伝えた。
馭者の頭格の男が「毎度ご利用頂きありがとうございます。
ブカ様、ご用命承りました」恭しくお辞儀すると、他の2人もそれに倣った。
今更ながら、モンテがこの神聖ロムルス皇国でどれほど有名なのかと。
オレ、レイ、ザザ、キョウも改めて強く認識させられる。
空飛絨毯は、地上から1フィート少々浮かんでいた。
厚みのある色彩豊かで華麗な絨毯の上には三列に然も座り心地よさそうなディバーノが並んでいる。
一番前は馭者の一人掛けのディバーノで、後ろの二列は三人掛けになっている。
先頭の一枚目は、モンテ親子が最後列奥から、モンテ、ピッコロ、カリーノ順で座る。
中央列には奥からベツァルエル、オホリハブ。
二枚目には、モンテの直弟子達が三人ずつに分かれて乗り込む。
三枚目には、後列奥からオレ、キョウが腰を据え、中央列には奥からレイ、ザザが腰かけた。
キョウはレイの赤心を察し、非常事態が発生したらオレを守る為、隣に座っているのだろう。
と理解しているオレの心魂に、感謝の心持ちが湧く。
モンテが全員の着席を確認して、自分の馭者に「出発するでごわす」と命じる。
馭者達は、ほぼ同時に杖を下から上へと一振りした。
絨毯は四辺をひらひらさせながら、一気に上空500フィートまで翔け昇る。
空海は、ナーヌス山へ飛翔するオレ達を、爽快で清冽な風浪に乗せた。
極限まで鍛え上げられた尋常ではない脚力を、走力を持つ、オレ達忍者は殆どこうした乗り物に頼ることは無い。
故郷のサナーレ山を含む高い山から下界を見たことは、オレもザザもあった。
が、空を移動しながら眼下の世界を見る機会は、今まで一度も恵まれていない。
オレとザザは相好を崩して、地上を眺めている。
レイは、これまで口寄せした雪龍が本来の姿になった時、その背に乗って何度も空を飛んでいた。
けれども、オレとザザの面輪を目にして心中を察しているのだろう。
レイの瞳の奥には柔らかな微笑が見える。
三枚の絨毯は、パラーティウムの丘を回り込み、大競技場の真上を通り、一直線にナーヌス山へと翔駆した。
オレとザザの興奮冷めやらぬうちに、ナーヌス山へ到着してしまう。
三枚の絨毯はゆっくりふわりとナーヌス山の入り口前に高さ1フィートまで降下した。
モンテが、馭者の差し出した請求書に署名すると、馭者達は深々と頭を下げた。
それから、それぞれの絨毯に乗り込む。
三枚の絨毯は直ぐ様上昇し、円形闘技場の方向へと飛び去って行く。
※※※※※
ナーヌス山の仄かに光彩を放つ紅茶色の金属門が、オレの緋隻眼にまず映った。
後ろ足で立つ、ナーヌス族の守護獣グリュープス二頭の意匠が、それぞれ左右に向いて厚みのある強固な扉に施されている。
「生きているみたいだな」幻妖な朧光を放つ扉に魅入りながら訊く。「これは何の金属?」
「おいどんも正式な名称は知らんでごわす」
モンテは扉前で誇らしげに話の先を続けた。
「一族の先祖様が残してくれた鉱石で、おいどん達が製造したものです。
おそらく世界で最強の強度を誇る金属でごわす」
ピッコロが「伝承では宙から降ってきたという話でごわす」
その隣で、カリーノが門の右にある小さな扉を開く。
黒で、αとΩ、0から9までの数字が刻印されている文字盤は無色透明で、クルムの画面によく似ている。
カリーノが、6回続けて文字盤を押すと、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピィーッと音が鳴り、ガゴンッ、と金属門が開く音が響く。
門はゆっくりと内側に開いた。
天井から、高価な白蛍光岩が照らす。
高さ幅共に10フィート程度の人工洞窟が、その先に続いている。
思わず俺は「おーっ! 何かカッコいい!」
モンテとピッコロは、その言葉を聞いてにっこりした。
一行は中へ進み一番最後に入ったモンテの弟子が、入り口右側にある黒い突起物を押す。
カチンッ、と扉が閉まる音が洞窟中に響き渡る。
少し歩くと今度は青銅の扉が現れた。
翼を大きく広げた勇ましいグリュープスが、ここにも浮き彫りされている。
その下には四つの手形があり、一番左のものモンテが手を重ねて離す。
と、扉は滑らかにすーっと右横に開いた。
「おぉ……、一体どういう仕組みだ?」オレはザザと見合わせて首を捻り、興奮気味に言う。
「丸で秘密基地だ。オレも地上で城を持つならこんなのがいいなー。
城に色々仕掛けするのも面白いけど、ここみたいに山を城にするのも楽しそうだな」
レイが「ただ、敵に包囲された時どう対応できるか?」冷静且つ沈着な意見を述べる。
ザザも「その通りでござるな」と同意した。
オレはそれを否定。「その対策もしてるだろうな。
ナーヌス族はそもそもヒト族の中でも武闘派だからな。
その証拠に観ろよ。
船大工なのに武具を装備しているだろ。
カリーノだって術士と同じく長衣だ。
その時モンテはニヤッとした。
オレは広々とした空間のソッジョルノに入って周囲を見回し、天井を見上げた。
内部は地上3階、地下は2階になっているらしい。
「カリーノ、宴の用意を頼む」モンテは弟子達二人にその手伝いをするよう命じた。
「任せるごわね!」カリーノは陽気な聲で「下拵えはもう済んでいるごわね。
用意するまでそんなに時間はかかんないごわね!」
モンテは満足気に口元を緩めた。
「では、隠しバチノに向かうでごわす」モンテは地下に降りて西洋扉を開く。
そこは部屋の西、右端だった。
部屋の壁には隙間なく、ずらりと本棚が並び、中央には大きな卓子と左に2脚、右に1脚肘掛椅子がある。
卓子の上には、船の図面や製図用具が整理されていた。
本棚に収納されている様々な書籍は、船舶や航海術の関係のものばかり。
こと、船に関するものに特化したら、この部屋は世界一の蔵書を誇れるだろう。
オレは決して大袈裟ではなくそう推断した。
レイとザザもそう考えているだろうな。
どうやらこの大きな部屋は、設計・製図室を兼ねているようだから、まず船の図面を見せてくれるのかな?
図面を見たらレイとザザは驚倒するかもしれないと、オレはにんまり。
然し、モンテは北側に五つ並ぶ本棚の一番手前の棚の真ん中辺りと最下段から1冊ずつ本を抜き取って、卓子の上に重ねている。
続いて東側の奥右から二番目の本棚最上段から椅子を登って本を1冊抜き、その下の段からも1冊抜いた。
ーーボゴンッ!
というくぐもった音が不意に鼓膜を鳴らす。
モンテは本を卓子に置くと、今度は西側中央の本棚の前に立つ。
本棚の右端を軽く押すと、それはくるっと半転して、左右に隠し通路を出現させたのだ。
モンテが先頭に立って、隠し通路に足を踏み入れながら、
「こちら側からの隠し通路を知っとるのは、おいどんと子供達、直弟子達、ユキア、レイ、ザザ、キョウさんしかおらんでごわす」
ピッコロが父親の話を引きとって説明する。
「隠しバチノの入り口はギルド・アルカからしか無いということになっているでごわす」
二人はオレ達を信用してるって言いたいんだな。
オレは2人の計らいに、心魂を熱くする。
モンテは全員が隠し通路に入ったのを視認した後、入り口左側にある黒い突起物を押す。
本棚は反転して入り口は、ガゴンッ、という音と共に閉じた。
白蛍光岩が導く隠し通路を、200ヤードは歩いたのではないだろうか?
途中、幾つかの西洋扉があったが、モンテはそれらに一瞥もくれず突き進んだ。
そこは、突き当りになっている白い壁にしか見えない。
が、ナーヌス山の入り口脇にあったのと同じ文字盤の小さな扉をここにも用意している。
扉を開けてモンテは6回文字盤を押す。
すると白壁は、すーっと、下に沈んだのだ。
モンテはその先へ進む。
そこは隠しバチノのモンテ、ピッコロ、カリーノの執務室になっていた。
すぐ目の前にある大きな机を並べたものは、モンテが使用しているらしい。
右にも同じように大きな机を二つ並べたものは、ピッコロ。
それと向き合って設置されたこの一室で一番大きい机と、絵描きが用いるテーラが並んでいるのはカリーノ。
どの机にもクリスタッルムの名板に、名前が金色で刻まれているので、それとわかる。
中央にはかなり大きな卓子があり、船や大砲、その他船の各部の図面や、内・外装の意匠図が広げられていた。
他の壁には書類・書籍棚がずらりと並んでいる。
モンテは全員が入室したのを確認後、隠し通路を正面にした
その右側ーー文字盤の反対側ーーにある黒い突起物を押す。
白い壁が元の通り上がってきた。
こちら側それはが、書籍や船の模型えお収納するヴェトリーナになっている。
モンテは部屋北側の西洋扉から内鍵を解除して隠しバチノに入った。
そこは300ヤード以上ある巨大なバチノ。
まず緋隻眼に飛び込んできたのは、全長210フィート、最大幅35フィート、高さ24フィートの船体。
鮮麗な艶光が美々しい緋色の船体は、7割程度ができていた。
船縁にはヴェルス家の紋章を活かした黄金の装飾が、惜しげもなく意匠されている。
然し、その船体は形状が従来のそれとは、この時点で異なっていた。
それは、オレの発案をモンテとピッコロが模型を製作して実験を重ね、現在の姿に完成させたものだ。
まず現在のどの帆船と比較しても、船体がズネッロ。
オレが考案した船首は、これまで見たこともない流線型で、鋭く突き出し尖っていた。
だから、船尾の幅は船首より若干細い。
オレは船首部分の確認を急ぐ。
こんなにわくわくする事はそうそう無い。
「うん。意外とカッコいいね!」オレは愉悦に浸っている。「想像以上だね。実験の結果、速度はどうだった?」
モンテは「ユキアの推測通りでごわした」詠嘆の聲を響かせ「この巨体でも従来最速の帆船の倍近い速度を誇るでごわす。
風が強ければどこまで速度が出せるか計算不能でごわした」
ピッコロが「船体の均衡も良いでごわす」感心して説明したが、心なしか元気がないようだった。
そんなピッコロをモンテは真剣な眼差しで観ている。
ピッコロは続ける。「もし嵐とぶつかったとしても、従来型の帆船より揺れ幅が小さいでごわす」
オレは大満足して、ゆっくりと顎を引く。
レイとザザは、オレが考案したという船体を観て、驚嘆と歓喜の色で面を耀かせている。
「確かにこの船は早そうでござる。
波浪を船首が切り裂いてくれるでござろう」
「ザザの言う通りに相違あるまい。
観るからに速そうだ」
二人して、さすがはユキア様といった風致だ。
次にモンテは、自分達の執務室の隣にある、船の模型を使う実験用の海水を注ぎ入れた大きな水槽に案内した。
その底に、白檀似た長さ5フィート、幅2フィート、厚み1インチの程度の板が大きな石を乗せられて沈んでいる。
モンテが石を取り除き、浮かび上がった材木を「アララトの聖樹でごわす」オレに手渡した。
今まで、海水の間かにあったことが磯みたいに、全く水気を感じさせない。
視えない油膜が塗布され、海水を弾いていたのではないかと思わせる程。
「ユキア様」レイは呼び掛けて断言した。「アララトの聖樹は、如何なる場合も、水分を拒絶するかの如く、弾きまする。
故にこの材木で建造された船は、不沈艦となりまする。
然もそれだけではありませぬ」
一同は、先刻の材木をモンテが抱えて部屋を出た。
オホリハブがバチノの南側少し奥手前にある弾薬庫から、16ポンド砲の弾丸を持って来てベツァルエルに渡す。
水の実験に使っていた板を、2人の弟子が地面から1フィートの高さで両脇を持った。
ベツァルエルは、思いきり弾丸を板に投げ落とす。
ドスッ!
という重そうな鈍音がして、弾丸はゴロリと床にまろび落ちた。
だが、アララトの聖樹は弾丸が当たった場所が少し凹んだだけで、折れない。
たかが1インチの板なのに。
更に驚異だったのは、その凹みが少しずつ復元して元通りになってしまったことだった。
さすがにオレも緋隻眼を見開く。
オレはアララトの聖樹が、まさかこれ程の奇跡的な効果・能力を備えた居ることは期待してなかった。
レイがアララトの聖樹で建造すれば、不沈艦になるというのも得心できる。
ザザに至っては、口をあんぐり開けて固まっている有様だ。
「レイなりに推量してみました」レイは真剣に一言一句を慎重に選択する韻律で「ひょっとしてこれは聖遺物ではないかと。
則ち、この樹木はあのノアの箱舟の用いられた樹だと想到した由。
キラさんも、その可能性を推測されているのではないかと、レイは拝察しておりまする。
それ故、少し譲って頂きたいと話を持ち出されたのではありますまいか?」
「成程な。レイの言う通りだろう」
オレもアララトの聖樹の効果・能力を目のあたりにして、キラの要望に納得していた。
「銀の匙のキラ・ユ・ガイア宛に長さ10フィート、幅3フィート、厚み20インチのアララトの聖樹を送るよう手配を頼む。
不足するようなら遠慮しなくていいと、キラに伝えてkれ。
オレには、まだほかにもこの聖樹には秘密が隠されているような気がする。
「承知致しました」レイは早速それをモンテに伝え、銀の匙の住所を教えた。
船体の向こう側には、まだ樹皮のついたアララトの聖樹や、それが製材されたものが積み上げられている。
自分達の家ともいえる船が、最高の職人達の腕によって、最高の資材を用い建造されていること。
オレはひしひしと実感して喜びに心魂が高鳴っていた。
「では、そろそろ宴にするでごわすっ!」
モンテはレイからの依頼を受けた後、もう待ちきれないとばかりに、飛び跳ねて宣言する。
それを聞いたレイは銀虎の獣人変化。
楽しく嬉しい宴に参加する為に。
ナーヌス族達は、その幻妖な術に毎度のことだが、眼をぱちくりして驚愕している。
一行は皆笑顔で、モンテ達の執務室に戻った。
執務室に戻るとモンテは西側に並ぶ書棚の一番左前に立つ。
上から二段目と四段目の本を抜き取った。
歯車がかみ合うような音がしてヴェトリーナが下へ落ちていき、隠し通路が現れる。
一同はそこに入り、ピッコロが入り口を閉じた。
それから隠し通路を進み入り口に立ったモンテは、左側の文字盤の扉を開き例によって数字や文字を6回押す。
ボゴンッ、というくぐもった音と共に白壁をモンテが押して反転させる。
モンテは全員が隠し通路から戻って来たのを認めてから、書棚を元通り半転させた。
ピッコロが右側、モンテが左側の本棚に抜き取った本を戻す。
ガゴンッ、という音が鳴り響き、隠し通路に秘密の鍵がかかった。
※※※※※
面々がナーヌス山のソッジョルノに返ってくると、えもいわれぬ肉料理の馨しさ。
炎酒、蜂蜜酒、巴旦杏酒、葡萄酒、麦酒等が栓を開けられ、芳醇な馨で充満していた。
視れば卓子に上には、ビーム肉。
角羊肉。
黒鶏肉ーー黒い鶏の肉。歯応えがしこしこしている甘味の肉で珍味ーー。
牙豚肉ーー猪とは違う、刃状の牙が、上顎、下顎からそれぞれ二本突き出している。普通の豚肉よりも柔らかく美味ーー等の、高級肉料理が山盛りになって並んでいた。
炭火焼、照り焼き、ビステッカ、カルパッチョに調理され、盛り付けも趣向を凝らしている。
ルムウベッタ・フォカッチャとルムウベッタ・セグレのパンがすべてが、ぎゅうぎゅうに詰められた籠。
インサラータ・フルッタ、インサラータ・ミスタも色鮮やかに卓子を装飾していた。
予備の椅子を4脚増やしている。
宴の主役のオレは、モンテとピッコロに無理矢理中央に座らされてしまった。
その右にモンテ、レイ、キョウ、ベツァルエルと続き、左にピッコロ、ザザ、カリーノ、オホリハブ。
空いた席を弟子達が埋める。
モンテは「皆それぞれに好きな酒で、酒杯を満たすでごわす」上機嫌だ。
全員の酒杯に酒がなみなみと満たされたのを見届けて、モンテは席を立つ。
モンテは酒杯を片手に「モノマキアで第1回予選大会を見事に突破した、
ノブシゲ・サナダこと、ユキア・ヴェルスを祝して乾杯!」自ら音頭を取る。
「乾杯っ!」皆が唱和して一口飲むと、オレに祝福と賞詞が相次いだ。
オレは照れ隠しに、炎酒を一気に飲み干す。
すると、オレに盛大な拍手が贈られ、楽しい宴が始まる。
オレは二つの喜びで、心が躍っていた。
一つは、モノマキアの第1回予選大会を突破したこと。
この大会に出場した32名のうち、無名なのは俺だけで、他は名の知られた強豪ばかりだった。
第2回予選大会は3日後。
その日が来るのが待ち遠しい。
勝ち抜けば、6月11日にロックと会える。
無論オレは負ける気がしないが、油断大敵!
当日まで確り闘いの準備をしておこう。
もう一つの喜びは、オレ達の船が順調に建造されていること。
オレの考案した船体が見栄えも良かったのは、想像の埒外だったけど嬉しい。
推測通り、船脚が速くなっている実験結果は、とても喜ばしいことだ。
完成まで、まだまだ時間が必要だけど、思っているより早く進んでいる。
レイが言っていた通り、船が完成するまでに一人でも多くの仲間を増やしたい。
オレはそうしたことを考えていたから、珍しくまだ料理に飛び掛かってない。
レイ、キョウ、カリーノ以外は全員、豪華な高級肉料理に突撃している。
カリーノはオレの皿に何も盛られてないことの気付いたようで、自ら給仕した。
オレは食事へから遠ざかっていた意識が戻ってきて「あ、ありがとう。
それから今夜もこの夕餉は、オレの好きなものばかりでとても嬉しい。
本当にありがとう」礼を告げる。
「お礼を言わなければならないのは、アタシごわね!」カリーノはその大きく魅力的な双瞳に、うるうる涙を一杯に溜めた。
「父と弟を救ってくださったこのご恩を、アタシ一生忘れないごわね!
ありがとうございましたごわね」
ベツァルエルやオホリハブ、モンテの弟子達も、ハッと気付き口々に礼を言って頭を下げた。
「皆と出会えてよかった!」オレは心魂を熱くして心情を吐露する。
「アララトの聖樹で世界一の船大工達にオレ達の船を建造してもらえるなんて、殆ど奇蹟だとオレは思う。
ここにいる皆と神に赤心から感謝を捧げたい」
オレは十字架をきった後、低頭した。
ナーヌス族は、喜色を浮かべる。
モンテが自信満々の体で宣言した。「世界で最強・最速の不沈艦になるでごわすっ!」
その宣言に、モンテとピッコロ、カリーノを含めたナーヌス族達は「おーっ!」と聲を力強く重ねた。
オレは忘れていた食欲に刺激され、まず黒鶏の照り焼きに手を伸ばして夕餉に突撃!
皆に遅れはとらんっ!
こうして、愉快で賑やかな宴が盛り上がっていく。
※※※※※
銀の匙のリストランテ、流星亭は7階で営業している。
その隣で陽炎という名の酒場も店を開いていた。
流星亭では、予約制の個室は三つしかない。
私は予め今日5月7日と同10日に、先月25日に個室予約を入れている。
モノマキアの格闘士の部、第1回予選大会、第2回予選大会をユキアが勝ち抜くと、堅く信じてたから。
リオとトバルと祝勝会を兼ね、今後の任務遂行を目的とした議論をする為に。
実際今日ユキアは、第1回予選大会を70.000人の大歓声を驚倒させる、圧倒的な強さを魅せつけて、見事に勝ち抜いた。
個室は広かったが、それには不釣り合いの4人掛けの卓子を用意している。
が、ゆったりとした肘掛椅子は三脚しか見当たらない。
東、南、北にあり、部屋の入口は南側だった。
リオが部屋に入ると「ここでの今夜の主役はキラ、君だ」カメリエーレになりきって、東側の椅子を優雅に音もたてず、すっと引く。
リオはキラに「どうぞ」と聲を掛けた。
その位置は、Ωの第2位の席次が座るべきだとキラとトバルも思っていた。
でもリオは双眼に深みのある海の様な優しさを湛え「どうぞ。今夜の主役はキラ、君だよ」と繰り返す。
私は恐縮しながら、そこに腰かけた。
北側にリオ、南側にトバル。
私の正面の西側は、ほぼ全面がヴェートロ張りになっていた。
世界の首都レムスの夜の美観と、皓皓と冴える月と共に煌めく星々という美景を同時に眺望できる。
正しく、そこは特等席。
この店では、客数が4人ではない場合、西側には椅子を置かないのだろうと、私は推量した。
素晴らしい夜景を楽しめるように。
私はリオの心遣いが素直に嬉しかった。
でも、それをどう表現すればよいのか咄嗟には言葉が出なくて、全然違うことを話してしまう。
「リオは菜食主義者だから、私とトバルとは別のメヌーをお願いしておいた」
「それは助かる」リオは喜んで「メヌー表からた食べれそうなものを探すのも、面倒だし、大変だからね。
ここの料理は特級品揃いだから、楽しみだ。
キラ、ありがとう」
リオは呼び鈴を鳴らそうとしたが「キラ葡萄酒は何の銘柄がいいかな/]動きを止めた。
「では遠慮なく。ラクリマ・クリスティーがいいかな」
「うん。いいね。リオは呼び鈴を鳴らし「カナの結婚式でイエスが水から葡萄酒はどんな味だったんだろう。
もしそれが飲めるなら、私はなんだって努力を惜しまないのに」
西洋扉をこんこん叩く悪露がした後、カメリエーレが入室してきた。
「ご用命は何でございますか?」
「食事の方は」注文済みだが」リオが穏やかな口調で「一番長く寝かしているラクリマ・クリスティーを用意してくれたまえ」
「畏まりました」少々お待ちくださいませ。
カメリエーレは深々と入り礼した後、部屋から出て行く。
ユキアの闘いを観戦して感じた衝撃は、リオやトバルにも甚大だったらしい。
二人は若き日に戻った素直な心持ちを私に感じさせる程、ユキアを激賞した。
神技の如き完璧な防御技。
稲妻の如き凄まじい技のキレ。
目にも止まらぬ電光石火の早技。
一撃で相手の意識を断ち切る技の威力。
対戦相手に示す、敬意と感謝。
リオとトバルは、そこに私がいることを忘れてしまったのか、ユキアの話題で盛り上がっている。
二人共すっかりユキア応援団の一員だった、
扉が叩くこんこんという音に「どうぞ」と反応できたのは私しかいない。
葡萄酒と料理を抱えたカメリエーレ達が入室してきて漸く、リオとトバルも気付き会話が中断した。
私は、2人がユキアを認めてくれていることが、心から嬉しい。
カメリエーレは葡萄酒をリオに持参したが、
「こちらの麗人への贈り物だから」
と説明して、私に確認させた。
他のカメリエーレ達は、次々と夕餉の準備と料理の給仕をしている。
私は、カメリエーレ」が差し出したスーゲロを皓い龍革鞄の中に大事にしまった。
それから一口味見する……以前飲んだ20年物より、仄かに甘い芳醇な馨で、滑らかな喉越しと、円やかな味。
4000年生きてきた人生で、間違いなく絶無の美味しさ!
陶然として、私は余韻を楽しみつつ瞑目する。
そのラクリマ・クリスティーは1世紀前に醸造されていることに、私は驚愕。
値段を想像できないというか、怖いくらい。
私は感激して「リオ、人生で最高の葡萄酒よ。本当にありがとう」
リオは然も意外気に首を傾げ「ん? 礼は私にではなく、ユキアに伝えるべきではないかな?」
「確かにそれは一理あるね。
ではユキアにも感謝します。
そして、今この瞬間を祝福してくださっている神に、心から感謝を捧げます。
でもリオにもお礼は言わせてもらいたい。ありがとう」
卓子に上には、色彩豊かな盛り付けと、」様々な香気を漂わせている料理の用意も終わっていた。
ラクリマ・クリスティーを、カメリエーレがキラ、リオ、トバルの順で酒杯を満たして一礼し、他の同僚達と退室していく。
私は右手で酒杯を掲げ、「今日のユキアの勝利と、Ωの信頼できる大切な仲間達に、乾杯っ!」
喜びという気持ちを込め、朗らかに音頭をとった。
リオとトバルもピッタリ呼吸を合わせ「乾杯っ!」と終話し、最高の葡萄酒を口を含む。
二人は私同様、その味の素晴らしさに驚喜の面相になっているが、直ぐに言葉が出てこない。
「ね?」私が2人に問う。
「カナの婚礼の葡萄酒はこれよりも美酒だったのだろうか?」とりお。
「おいどんもこれより美味い葡萄酒は、他に知らないでごわす!」とトバル。
こうして渡した私達の祝宴が始まった。
私とトバルの皿は豪勢の一言。
ビーム肉のビステッカに。
ランケルーー鋏の他に、槍に如き尖鋭な二本の脚を持つ蟹。珍味で一般家庭では見られない食材ーーの炙り身。
コルヌトンノーー牙を持つ鮪。一般家庭の食卓には並ばない珍味ーーのカルパッチョ、インサラータ・フルッタ、セガレ・パン。
「これから食べるでごわすか」トバルは葡萄酒を飲み干し、コルヌトンノに手を伸ばす。
ところがリオは、目の前に並べられた料理を観て、胸を詰まらせた風情で、3分近く絶句していた。
リオの皿は、
パンツァネッラーー水と酢に浸した皓いパンに、赤茄子、玉ねぎを和えたインサラータが入っている。普通アンチョビを咥えるが、リオ仕様の為入ってないーー。
パッパ・アルポモドーローーパンを赤茄子と野菜だけでとった煮出し汁。オリーヴァ油、大蒜、胡椒で煮込んだお粥ーー・
リッボリーターーいんげん、黒甘藍のミネストローネに薄切りの玉ねぎを加えてフォルノ、で仕上げたものーー
更にテスタローリという平らで丸いパンーーオリーヴァや乳酪をかけて食べるーー。
リオは涙ぐみ「キラ、ありがとう……」
トバルは何故リオが涙目で私に礼を言ったのか、気付けない様子。
丸い目が私とリオの間を行ったり来たりしている。
Ωの席次2位の者、リオ・ダ・トスカーナこと、リオナルド・ダ・ヴィンチはその姓が示す通り、ヴィンチ村の出身。
その村は、神聖ロムルス皇国のトスカーナ州にある。
今、リオの面前に並べられている全ての料理は、トスカーナの郷土料理なのだ。
この日、この時の為に私が心魂を込めて、流星亭の料理長と何度も話し合い、リオだけのメヌーが決められている。
そのことをリオは悟ったのだろう。
「ここにあるものは全て、私の故郷の料理だ。
よく調べてくれたね。
大変だったろう……」
リオは群青のファッツォレットで目頭を押さえ「まさかこんなにも懐かしく優しい料理が、現れるなんて考えてもなかった。
その上菜食主義者の私が食べられる者ばかり……」声を震わせた。
トバルは状況を理解して、私に右手の親指を、グッと立てる。
「お礼なんていいから」私はラクリマ・クリスティーを一口味わって「喜んでもらえたなら、それは私自身の喜びになる。
さぁ、じっくり味わって食べてね。
ユキアの勝利の味、ラクリマ・クリスティーの味、料理の味を、ね」
リオはパンツァネッラから食べ始めゆっくり味わい呑み込んで「美味しいね……」しみじみと賞賛した。
それから、ラクリマ・クリスティーを飲み「キラ、君の優しい心根が、私にとって最高の調味料だよ。
本当に美味しい。
神からキラに良い報いを与えて下さることを、心魂から祈りを願い祈りを捧げます。」リオは十字架をきって、暫し黙祷する。
3人は美味しい食事を楽しみながらも、忘れてはならない話をリオが始めた。
「第2回予選大会の出場者は、今日の強豪達の上を行く猛者達だ。
勿論、ユキアが勝ち残ると私も信じたいのだが、こればかりは確たる答えを出せない」
リオは残念そうに「私は武人の力量を正確に測る眼を持っていない」と付け加え「だが、第2回予選大会を勝ち抜ける実力がなければ、我々と手を組むという選択はしない方がユキアの為だろう。
海賊、山賊、軍人の中には軍人の中には、第2回予選大会に出場しても遜色ない者が、ごろごろいるから」
然しトバルは、
「心配する必要はなかでごわす。
第2回予選大会も、ユキアが必ず勝ち上がるでごわすよ」
食べたり飲んだりする手を休めず、当然といった趣で言ってのけた。
だが、明らかに初戦から難敵だ」リオは暗然として「灰熊のグリス・グルトンはこのところ、白豹の獣人、天才として名高い元王者レントゥス・スペルピア以外に、負けは無い」
ナーヌスの男達は小柄だが、その体格は大猩々を小さくした姿に近く筋骨隆々とした肉体を誇っている。
戦場においても勇猛果敢で身長差等微塵も感じさせない戦果を、ヒト族対亜人族の悲愴な闘い、インクブス戦役でも数多と残していた。
その一族の祖、トバルは、闘いの妙を知悉している。
ゴクッ、ゴクッと、葡萄酒で喉を鳴らしたトバルはーーその時私は、このラクリマ・クリスティーはそうやって飲んじゃ駄目なのにと思っていたがーー「ビーストは無敗を誇っていたでごわすが、グリスとは同時被倒で引き分けでごわした。
そのグリスは確かにここ直近の対戦では、レントゥス以外に負けてないでごわす。
じゃっどん、闘いの内容に大した成長がなかでごわす。
だから、グリスはユキアの敵ではなか」と切り捨てた。
私はそれを聞いてユキアの勝利を更に確信した。
私には格闘士についての知識はないに等しいから、トバルの言葉は心強い。
ほっとして椅子に深く身を預け、最高の葡萄酒をじっくり味わい、リオとトバルの会話を傾聴する。
「グリスにユキアが勝利したとしよう。」リオはなおも慎重に」その次の相手はレントゥスになるのは間違いない。
レントゥスは年齢が若いこともあってか、グリスと違いロックスと闘う度に強くなっているのが、素人の私でもわかる。
ユキアにとって、最も厳しい闘いになる」
「その通りでごわす」トバルはランケルの炙り身を葡萄酒で流し込んで認めた。
「じゃっどん、レントゥスがユキアに勝てることはなか」
トバルはビーム肉のビスッテカをばくばく食べて「レントゥスが攻撃に関して成長しているのは、おいどんも認めるでごわす。
それは、神技的防御技を誇るロックスに、何とかして攻撃を炸裂させたいという一念からでごわそう」と解説して葡萄酒をゴクゴク
と飲み干す。
私は急いで自分とリオの酒杯にラクリマ・クリスティーを注いだ。
その後でトバルのそれにもそれを注ぐ。
「おいどんが思うに……」トバルは丸い目を細め、、何か答えを探している相貌で「ユキアもロックスと同じ神技的防御技を体得しているでごわす。
レントゥスが目指すべきは、攻撃力を上げることではなか。
あの防御技を使えないように闘う術を、会得することでごわす。」
リオが「では、ユキアが勝利すると?」
トバルは、大きく頭を上下させた。
私はトバルの眼力に驚倒させられる。
「実は言いそびれた居たんだけどね」私は2人に一回ずつ目線を投げ「さすがはトバル、ロックス・マレノはね、ロック・マリスというのが本名で、ユキアと同じパークスの侍忍者なの。
ユキアはロックに会う為に闘っているのよ」
リオとトバルは互い見合わせた途端、2人して喜悦を満面に塗りたぐった。
「では第2回予選大会をユキアが勝ち抜いたら、彼らと手を組む任務を勧めていこう。
ロックとユキアの闘いはどっちが勝っても、我々にとって得るものが大きい。
然し、何故ロックは格闘士になったんだろう?
キラは何か知っているのかい?」
リオが訪ねてきたので「少し長い話になるけど」私は前置きして知っていることを細大漏らさず話した。
リオもトバルも、闘牛マンゾの話は知っていたから、ロックに少なからず同情しているように見える。
ユキアがレムスにやって来たのは、ロックを仲間にすることが目的だと知り、リオとトバルも是非それが為されるのを願う、と表情に出ている。
リオが漸く落ち着いた風采で、リッボリータを食べながら、テスタローリに手を伸ばす。
「ユキアの仲間達は」トバルは少々興奮した面容で「ユキアとロック、どっちが勝つと予測してるでごわすか?」
「トバルはどっちだと思う?」私は微笑む。
トバルは腕を組み考え込んでしまう。
「いや、ここの料理人の腕は素晴らしい!」
リオは元々争いごとを好まない優しい友愛の人だから、その結果にはあまり興味はないのだろうと私は理解している。
「パンツァネッラ、パッパ・アルポモドーロ、リッボリータ、そしてテスタローリ!
どれも最高に美味しい!
私もレムスではここを常宿にしようかな」とリオはご満悦。
私は「レイもザザ君も、ユキアが勝つと思っているんじゃないかな。
私もリオと同じで、格闘士のことはよくわからないけれど、どうしてだかユキアが勝つと確信を持ってる」意気揚々とトバルに答える。
トバルは「やっぱりそうでごわすか」頷く。
私は、自分が提案したことに、リオとトバルから受諾を得たので胸を膨らませていた。
後はユキア次第。
でも、私にはユキアが勝ち上がる未来しか見えない。
だから安心。
Ωは強力な援軍を得ることになる。
私はほっとした。
ふと正面正面に広がるレムスの夜景をぼんやりと一望していた。
ーーその刹那。
皓皓と耀く星空から、右から左へと一条の光耀が走った。
「流れ星っ!」
早口で私は叫ぶ!
胸懐では祈りを捧げていた。
ユキアが第2回予選大会を怪我しませんように。
無事価値値けますように。
※※※※※
モノマキア第2回予選大会の出場権を奪取したオレ。
その日まで残されている時間は、たった2日。
幸い第1回予選大会では一発も被弾せず、無傷。
本来モノマキア予選他界は第1回予選大会が、2月5日から。
第2回予選大会は4月5日から開催される予定だった。
だが、1月下旬に近い将来人間国宝になると評判のモンテ・ブカとその息子が、クレブリナ海賊団拉致されてしまう。
両大会は神聖ロムルス皇国皇帝の一言により、延期。
「我が皇国の至宝、モンテ・ブカとその息子を一刻も早く奪還せよ!
それまで国内の娯楽行事は全て延期とする。
その命に背くものは死罪と心得よ!」
そういう背景の中でブカ親子が無事帰国した。
それにより6月11日に王者大会が開催されることに。
その為、急ぎ予選大会日程が組まれ現在に至る。
本来であれば、試合の前に激しく肉体を動かすのは、最低でも3日以上やめておかなければならない。
話が戦場なら別だ。
試合に出て闘う場合、闘いの前に疲労を蓄積するのは、愚かな行為。
疲れの所為で本来の実力が出せなくなっては、本末転倒ではないか。
でもオレは宿の屋上で朝餉の前、2日後の猛者達との戦いに備えていた。
屋上は広いく四囲は壁に囲まれている。
オレが黒豹の獣人に変化しているレイ、茶熊の獣人に変化している2人と練達に励むには十分すぎる空間だ。
チュチュは屋上の入り口でキョウに抱かれ笑顔。
キョウは、目に視えない法力を蜘蛛の巣の如く張り巡らせて、不審者の探知に抜かりはない。
発見されにくい場所だから、集中して修行に励める。
昇り行く太陽の鮮麗な緋金の光芒が天空に放たれ眩い。
緋金の陽光に貫かれた朝焼けの雲が、ゆっくり静かに流れて行く。
寒くもなく、熱くもなく、気持ちよく体を動かせそうだな。
オレはレイ、ザザと入念い柔軟運動をしている。
第1回予選大会で最も強敵だったのは、ビースト・グリーン。
クィーンズティアラで開催されているモノマキアに次ぎ、世界的に有名な闘技大会『ヴィクトリー』では、無敵だったという。
オレは自分との対戦で自分との対戦でビーストが魅せた一撃、連撃、足運びを思い起こす。
それだけの実力があったと認めている。
オレが出場してなければ、ビーストが第2回予選大会に駒を進めていただろう。
あの闘いの最初の一撃。
鉤突きに見せ見せかけた鋭利な斬撃。
ビーストがあと判インチ踏み込んでいたら?
オレの貌はズタズタに切り裂かれていたのは間違いない。
あの時、ビーストの鋭爪はオレの前が掠めていた。
その事実をオレは猛省している。
逆に、あと判インチオレの不煮込みが甘ければ、影舞はビーストに差亀裂しなかっただろう。
攻撃事態は命中してしていたと思うけどビーストの意識を断斬することは出来なかった。
1インチ以下の間合いをきっちり見極めることが、死闘を決する。
このことを改めて肝に銘じるオレ。
でも、緋色の眼帯に隠された左目は幼き頃失明している。
隻眼では高低差も含め距離感を正確に掴むことは至難の技。
1インチ以下の間合いを見切るのは不可能な筈。
それは常時闘いの中に身を置くパークスの武人にとって、致命的な瑕疵だ。
だがオレは、常人の想像を絶する修行に陰んだ。
命を賭し襲い掛かる恐怖をねじ伏せる。
強引に血路を開き、神技的な防御技を体得した。
四阿羽黒流柔剣術、神気楼と呼ばれるこの技を会得しているものは、パークスでも両手の指に満たない。
神気楼を徹底的に極める為にオレは柔軟運動を終えると、レントゥスを想定して黒豹に変化しているレイと、グリスを想定してた茶熊の獣人に変化をしているザザと特訓を開始する。
5分交代でレイとザザに、、打撃、斬撃、刺突ーー鋭利な爪による突きーーで、容赦なく攻撃させる。
それを、オレは悉くかわす。
一瞬たりとも気を抜けない緊張感の中にあって、オレは楽しんでいた。
世界平和の為、終わりの見えない闘いに身を投じていた頃。
やりきれない悲しみや、苦々しく悄然とさせる思い。
でも今は、闘うことを純粋に歓喜していた。
正々堂々と戦える嬉しさで、心魂が満たされている。
一時間みっちり神気楼の鍛錬をしてから、20分交代で二人を相手に組み手を2回ずつ行う。
打撃、寝技、関節技、絞め技、投げ技。
どの技も基本技から大技まで丁寧に確認。
こうしてオレは二日後の闘いに向けて準備完了した。
残された時間は闘いに向け、精神力を向上させる。
迸る闘気を身にまとう。
油然と漲る力を筋肉の隅々まで、じっくりと蓄積していく。
鍛錬を終えて部屋に戻る。
汗を流してオレが指定席に座ると卓子にの上に新聞があった。
一面には、オレがビーストを後ろ回し蹴りで撃ち抜いた瞬間を切り取った、オスク映像が掲載されていた。
見出しに【驚異の少年格闘士現る!】とある。
オレは顔を顰めてそれを取った。
今大会にオレは本名で出場してない
でも、ルーナ率いる月の者達や、気になっているところもあったたからオレは新聞で目立ちたくはない。
モノマキアは近隣諸国も含めてオスクで放送されるから、今更といった感もある。
無論パークスでモノマキアの放送はない。
オレは読む気がしなくなり、新聞を卓子に戻した。
レイが眉宇を顰めて言う。
「我等がパークスに6月下旬までに戻らなければ新たな刺客が放たれるでしょう。
ロックへの刺客も気になりまするが、万が一その者達と出くわしても、我等が国抜けしたことに現段階で気付くことはありますまい。
別の任務で動いているのではないかと考えるに相違ないかと」
「だろうな」オレもレイにの推断に同意。
「けど、6月11日の王者大会の後船が完成するまでは、大人しくしているのが賢明かな」
「ユキア様の言う通りでござる」変化を解いているザザは「パークスの同胞とは、できるだけ闘いたくない故」
突然チュチュが「ヴゥー、キャン」と少し呻ってから、高い聲でほえた。
「朝餉!」
オレはチュチュの訴えに即反応し、大変なことをなことを忘れていたという辞色で言った。
レイはセルモで流星亭に連絡して、朝餉のメヌーを伝え取り寄せるよう注文した。
ルムウベッタ入りのパンとトゥルケットも忘れない。
読んで頂きありがとうございます。
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長い物語ですが、様々な要素で楽しんで頂けるよう努力してます。
これからの物語も是非読んで頂けますように・・・。 m(_ _)m




