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極大魔法しか使えない残念な冒険者  作者: 白山月


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マルチキャストのボサ

◇ ボサの回想:精霊と人形と、幼き日の記憶

精霊に魅入られているボサを見て、両親は深い困惑の中にいた。 この国において、サドミスト様の魔法は絶対である。そして通説では、精霊魔法に傾倒する者は、サドミスト様の神聖な魔法を会得できないとされていた。


「サドミスト様の魔法の方が圧倒的に強力で、何より正しい。娘には、何としても主神の加護を会得してほしい」 それが親心というものだった。サドミスト教を国是とするこの国で、威力の劣る精霊魔法をわざわざ選ぶなど、不自然極まりないことなのだ。


もしこのまま精霊魔法の使い手になれば、将来どれほど手柄を立てても「不信心者」だの「良からぬ力に手を染めている」だのと、あらぬ噂を立てられるに違いない。噂とは、事実よりも残酷に人の未来を縛るものだ。


ボサの両親は、彼女がどれほど精霊に依存しているかを確認するため、ボサが人形を使ってどんな遊びをしているか、物陰から観察することにした。


ボサは一体の人形を椅子に座らせ、神妙な顔で語りかけていた。 「チビボサ。そこに座りなさい」 人形の名前は、自分と同じ「チビボサ」らしい。


「まだ座ってる?……まあ、ああ言えばこう言う。どうしてそんなに口答えばかりするのでしょう?」 それは、母親が父親を責める時の「お決まりのやり取り」そのものだった。 (何もわかっていないと思っていたけれど、あの子、しっかり聞いているのね……) (それにしても、昨日の私たちの会話を見事に再現しているわ……) 両親は冷や汗を流しながら、ボサのごっこ遊びを見守り続けた。


やがて、遊びの様相が変わった。 「おのれ、カエル魔人! チビボサを放せ!」 どうやら、カエル魔人という悪党に妹(人形)が捕まったというストーリーらしい。 「チビボサ! お姉ちゃんが必ず助けてやるから安心しろ!」 ボサは、悪に立ち向かう正義の味方になりきっていた。


その時だった。 ボサが人形に背を向けた隙を突き、一匹の野犬が人形チビボサを獲物だと思って咥えようとした。 その瞬間、ボサの周囲でふわりと砂埃が舞い上がった。


野犬は何かに驚いたように鳴き声を上げ、脱兎のごとく逃げ出していった。 わずかな砂の揺らぎ。だが、両親は見逃さなかった。


「……魔法だ」


かすかな砂埃。それは間違いなく、ボサの意思とは無関係に発動した精霊魔法だった。 この子は、本当に精霊とつながっている。 二人の心は、娘を想うがゆえの不安に包まれた。


◇ 司教の言葉

精霊を祓ってもらうため、家族は町で一番大きな教会を訪れた。 「司教様。この子に取り憑いている精霊を、どうか祓っていただけないでしょうか」


両親が事の次第を説明すると、老司教はじっくりとボサと人形を覗き込んだ。司教の目には、人形に寄り添うようにはっきりと精霊の姿が見えていた。


「うーむ……。親御さんは、あの子がサドミスト様の魔法を使えなくなることを案じておられるのですな」 司教は穏やかに微笑んだ。 「ならば心配いりません。この子は精霊と実に良い関係を築いています。日々の暮らしの中でサドミスト様への信仰もしっかり育まれている。これはご両親の良い習慣が身についている証拠ですな」


司教はボサの頭を優しく撫でた。 「いちばん大切なのは、サドミスト様への信仰です。精霊とて、サドミスト様が作られた世界の住人の一つ。無理に引き剥がして心にわだかまりを生むよりは、今の関係を維持する道を探されてはいかがでしょう?」


両親はなおも不安を感じ、あの砂埃が何だったのかを問うてみた。 司教の見解では、それはボサの視界の外で起きた「精霊の自己防衛」であり、ボサ自身の魔法行使とは別個のものだという。


◇ 二つの信仰

両親は、ボサをありのままに見守りながら育てることに決めた。 数年後。毎週の礼拝を欠かさない信心深い娘に育ったが、精霊は離れることなく、常にボサの傍らにいた。 そして司教の言葉通り、ボサは何の問題もなくサドミスト様の魔法をも会得することができた。


ただ一つ、ボサが他の子供たちと決定的に違ったのは、精霊の献身だった。 普通、精霊魔法使いは精霊を「使役」する。 だが、ボサの場合は違った。


ボサはサドミスト様を信仰しんこうしているが、精霊はボサを信仰していたのだ。


この世にも珍しい「双方向の信仰」が育んだのは、傍目には信仰魔法と精霊魔法を同時に操る、前代未聞のマルチキャストを使いこなす魔法使いの誕生だった。

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