別荘の宴
別荘に戻ると、ジェイコフとサンドラは気象予想魔道士を連れて、王と王妃に自由研究の内容を説明した。 「つまり、私の娘の研究は、気象兵器にもなる可能性があるということか」 国王は苦悩の表情を浮かべた。 「……よし。自由研究には、念のため『ジェット気流の経路変更』『南洋高気圧の変形』『台風の進路変更』については記載しないようにしよう」 サンドラは思った。 (その重要な部分を削ったら、あの自由研究に一体何が残るというの? レポートになりようがないわよ……。お姫様も大変なのね) 突然、王様がサンドラの顔を見た。 「というわけで、これは大人の事情での変更だから、サンドラくん。残りの自由研究のサポートをよろしく頼む」 え!? 自由研究のメイン部分、全部なくなったのに!?
◇◇◇
特大のまな板の上に、これまた巨大なマグロが鎮座している。 その前には、緊張した面持ちのサムソンが立っていた。 いよいよ、マグロ解体ショーの始まりだ。
「皆さま、本日はご来場ありがとうございます! これより始まりますのは、迫力満点の**『マグロ解体ショー』**です!」 司会の声と共に、観客から拍手と歓声が上がる。 「待ってましたー!」 ひときわ大きな声を上げたのはオークリンだ。ノリノリである。 「このマグロはヤエイズル近海で獲れた、重さは約300キロ! 見事な一本です」 「おお〜!」と観客がどよめく中、オークリンの目はずっとマグロに釘付けになっている。 サムソンが包丁を構え、力強い一太刀でまず頭を落とす! 包丁が入る瞬間、観客が息を呑んだ。 「サムソン! キレてるよーーーー!」 何のコールかわからないが、オークリンは最高潮に盛り上がっている。 サムソンは背骨に沿って包丁を滑らせ、見事な技で背身と腹身を分けていく。 「すごい!」「きれい!」と歓声が上がる中、 「鮮度がすごーーーーい!」 と、オークリンが叫ぶ。大丈夫かこいつ。
「こちらが大トロ、脂がのって最高の部分です。こちらは中トロ、赤身とのバランスが絶妙。そしてこちらが赤身、さっぱりとした旨味が特徴です」 解説と共に、サムソンは部位ごとに切り分け、身を観客に披露した。 「ほしー! おいしそー! たべたーーーーい!」 もはやオークリンは正気を保てていないようだ。
刺身、寿司といった数多くのマグロ料理が並び、皆、次々と舌鼓を打っていく。 プレストンも満喫しているが、ふと思った。 (うまい! しかし、せっかくなら最高の食べ方を!) 彼はおもむろに懐からワサビとおろし金を取り出し、擦り始めた。 それを見たノヴァは目を見張った。 (あれは! 清涼な湧き水と、寒暖差の厳しい北方でしか採れないという幻の『北ワサビ』!) 「そんな希少な物があるなら、私もとっておきを出さないとね」 ノヴァは、どこからともなく黒い液体の入った小瓶を取り出した。 「これはね、私の実家で作ってるお醤油。特別に日当たりがいい肥沃な畑で育った香り高い大豆を、うちの酵母、そして海水から作った塩で醸造した醤油なの」 プレストンとノヴァが固い握手を交わしている。食通同士、通じ合うものがあったらしい。
そんな感動的な(?)状況に関係なく、オークリンは暴食のフェンリルの如く食べまくっている。 「このわさび醤油も最高ー!!」 おいちょっと、遠慮しろよ。




