早く終わった自由研究(改正)
カタリーナは真剣な表情で詠唱を始めた。 「我が主神、サドミストよ。サワーシップに災いを為す台風を、誰もいない遥か彼方、東の海上に導き給え!『ジェットストリーム!』」
目標は遥か南の海上。極大魔法でも到底届かない距離にある台風だ。 それでもカタリーナは魔法を発動した。
気象予報士の調査によれば、発動前はこの島への直撃コースだった台風が、発動後、明確に進路を東に変え始めたという。 彼が図解してくれた天気図には、遥か彼方の洋上に台風があり、その東隣に大きな南洋高気圧がある。台風はその高気圧の周囲を回るように北上してきているのだ。 そして関連情報として、上空のジェット気流が大きく蛇行し、東の方へ南下していることが挙げられていた。
――カタリーナの構想はこうだ。 南下したジェット気流の方に向けて魔法を発動すれば、**台風を誘導する「道」**ができるかもしれない。
魔法発動からしばらくして得られた観測結果は、驚くべきものだった。 ジェット気流の蛇行がさらに大きく顕著になり、気圧の谷が台風に近づいたのだ。高気圧の外周もわずかに変形している。 台風は明らかに、その気流の力に引かれるように進路を東へ変え始めていた。 この島、サワーシップへの直撃は回避されたのだ。
カタリーナの極大魔法が、どの程度この結果に寄与したかは、今後の厳密な調査を待たねばならない。 だが、**「実験の結果」**として、この事実はメモに残された。
サンドラは驚愕に目を見開いた。 「これはすごいことだ。台風の進路変更だけでも神レベルと思っていたが、大気の流れ、上空の気流の構造そのものまでコントロールできた……。まさか、気象兵器か?」 そう思わずにはいられなかった。
実験は二日間の予定だったが、初日のお昼過ぎに終了してしまった。 迎えの船は明日まで来ない。 「さて、何をして遊ぶかな?」 小難しいことは忘れ、一行はバカンスモードに突入した。 「とにかく、釣りだ! 狩猟本能を満たそう!」 カタリーナは意気揚々と釣竿を片手に、海へと向かった。
◇◇◇
バカンスを楽しみ、自由研究を終えてヤエイズルの港まで帰ってくると、魚屋の店先で真剣に思案しているオークリンの姿があった。 それを見つけたカタリーナは、護衛である近衛騎士団の制止をひらりとかいくぐり、オークリンに駆け寄った。 「何を悩んでおるのじゃ、オークリン!」 「カ、カタリーナ様! どうしてこのような場所に!?」
カタリーナの後ろには、護衛以外にもプレストン、ジェイコフ、サンドラ、ノヴァといったロイヤルヴァルトの面々が控えている。 あろうことか、自分の護衛であるサムソンまでついてきているし……。
(しまった……) これ、休暇じゃない……。 オークリンの休暇のウキウキした気分が、一気に盛り下がった。彼は気を取り直して説明した。 「今夜の晩御飯用のマグロを選んでいたんですが、さっきからずっと悩んで、ようやくこの二匹に絞り込んだのです。こっちの方が目が澄んでいて新鮮だけど、こっちは全身がムチムチしていて……どちらを選ぶか迷っていまして」
カタリーナは二匹の魚を見比べた。さっぱりわからん、どっちもただの魚だ。 「店主! このマグロ、二本とも買うぞ! 別荘まで届けてくれ!」
サーーーーーッ! オークリンの血の気が引いた。 せっかく時間をかけて、ここまで絞り込んだのに! トンビに油揚げをさらわれるとはこういうことか……。
がっくりと項垂れ、地面に四つん這いになっているオークリンに、カタリーナは声をかけた。 「今日の宴で、サムソンによる『マグロダブル解体ショー』を執り行う。家族揃って別荘に遊びに来るが良い」 カタリーナはそう言い放つと、返事も聞かず嵐のように去って行った。
「え? どういうこと……?」 隣には、突然マグロの解体ショーを命じられたサムソンもまた、呆然と立ち尽くしていた。




