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極大魔法しか使えない残念な冒険者  作者: 白山月


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30/63

いつもと違う(改正)

◇ ガンダーラ診療所:第6回開院

ガンダーラ診療所の稼働も、今日で5回を数えた。 これまでに受け入れた18名の患者さんは、例外なく全員が完治。自分の魔法が誰かの役に立っているという確かな手応えに、私は心からの満足感に浸っていた。


そして今日、私は第6回目の治療対象者が到着するのを待っていた。


◇ モーゼの奇跡と筋肉の胎動

診療所の端からは、今日もサムソンさんの熱血指導が響き渡っている。 「バックダブルバイセップスから、ゆっくりアブドミナル・アンド・サイへ! その動作を維持しつつモスト・マスキュラーだ! ゆっくり片足を踏み込み、体内に蓄積された全エネルギーを吐き出しながら両手を振り下ろしていく――変形モスト・マスキュラー! まだ吐け! もっと吐け! 行けるぞ、フィニッシュだ!!」


(……あの人たち、一体何を目指しているんだろう?) 呆気にとられている私の前で、次はノヴァさんとアカリさんが剣を構えた。


まずノヴァさんが砂漠に向かって、上段から剣を振り下ろす。 ――シュバッ!! 空気を鋭く切り裂く音とともに、前方の砂丘が1キロ先まで真っ二つに割れた。


ノヴァさんが感激した面持ちでサムソンさんを振り返る。 「……これが、伝説の剣士モーゼのスキルか。見事習得したな、ノヴァ」 「ありがとうございます、師匠!」


……ノヴァさんまで、すっかり「普通の人」ではなくなってしまったみたいだ。まあ、ここにはロイヤルヴァルトのメンバーしかいないのだから、感覚が麻痺するのも仕方ないのかもしれない。


◇ 特別な患者

そうこうしているうちに、一台の豪華な馬車が到着した。 扉が開き、オリヴィエ騎士団長とトロア司令が周囲を警戒しながら降りてくる。続いて侍女が降り、身分の高そうな少女の手を取って降ろした。その様子を見て、ジェーコフ司令も慌てて駆け寄っていく。


(あれ……? いつもは4人くらい来るのに、今回は一人だけ?) それに、いつもなら事前に渡される症状の説明書きが、今日はなかった。どうして?


オリヴィエさんと短く言葉を交わした司令が、小走りでこちらへやってきた。 「プレストン、ノヴァ。今日は極大魔法中の行動訓練は中止だ。治療が終わったら、速やかにテント内に集合するように。……それからオークリン、今日は詠唱の言葉遣いに気をつけるんだぞ。できるだけ綺麗な言葉でな」 「えぇー……。詠唱はサドミスト様から自然に降りてくる言葉ですよ。私に調整なんてできません」 「分かっている。心の中で『丁寧にしよう』と思っているだけでいいんだ」


不穏な空気を感じた私は、司令に問いかけた。 「それより、あの患者さんは誰なんですか? 司令や騎士団長がこれほど揃うなんて、初回以来ですよ」


司令は言い淀んでいたが、声を潜めて説明してくれた。 「症状は……ここ半年の間に、今まで使えていた初等・中等魔法が徐々に使えなくなり、『極大魔法』しか行使できなくなってしまったのだそうだ」


「えっ!? それって病気なんですか? 私たちと同じ状態では……」 「いろいろな組織間のパワーバランスがあってね。教会側は『病気』と診断して、責任をこちらに丸投げしてきたんだ。結果的に、治療の結果を彼女の両親に報告するのは我々の役目になってしまった……」


(もぉ、司令が押しに弱いから、嫌な役割を押し付けられるのね) 「病気じゃないなら、私の魔法で治るとも思えませんけど。……もしかして、ご両親に『娘さんをロイヤルヴァルトにください』って言うんですか?」 「それはないが……もし治療が失敗しても、同じ境遇の者として仲良くしてやってくれ」


◇ 孤独な少女の問い

私は、診療所のテントで待つ患者さんに会いに行った。 そこにいたのは、小柄で可憐な女の子だった。私より年下、10歳くらいだろうか。 その少女は、怯えたように肩を震わせ、消え入りそうな声で言った。


「……私、ロイヤルヴァルトに入れられてしまうのかしら」 「えっ?」 どこでどんな噂を聞いたのか、彼女の瞳には深い絶望が宿っていた。 「……おぬしも、ロイヤルヴァルトの住人じゃろ? 生きていて、幸せなのかえ?」


10歳そこそこの子供とは思えない、捨て鉢な問いかけ。 それを見たとき、私もかつて自分の配属が決まったとき、同じようにすさんだ気持ちだったことをふと思い出した。

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