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極大魔法しか使えない残念な冒険者  作者: 白山月


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29/62

お酒は20歳になってから(改正)

◇ 希望の光:完治した二人

治療を受けた二人の患者は、まさに「完全」と呼べる状態まで回復していた。 見えなかった瞳に光が宿り、深い傷跡は跡形もなく消え去り、失われた腕は指先まで精巧に復元された。体内の病魔も、魔力探知では一切検出されない。


二人は久しぶりに見る空の青さに、言葉を失い、ただ涙を流して喜んでいた。


「ありがとう、オークリン」 近衛騎士団長のオリヴィエが、静かに、だが心のこもった声をかけた。 「彼らは多くのものを諦め、残された家族の将来を思い、絶望の中にいた。だが、君のおかげで不安は希望に変わった。心から感謝する」


「……っ、私の方こそ、ありがとうございます!」 不意の言葉に、私は胸が熱くなった。 「今まで、人を助けたいと思っても、私の魔法は周りを壊したり魔物を呼んだりするばかりで……。子供の頃からの夢だった『魔法で人を助ける』という道筋が、ようやく見えました。本当に、ありがとうございます」


しんみりとした空気を切り裂くように、サムソンさんとアカリさんがテキパキとテントを片付け始めた。 「私も手伝います!」 感情を切り替え、私もテントの撤去作業に加わった。診療所はあっという間に片付き、砂漠には再び何もない更地が広がった。


◇ 極大魔法の洗礼:ヘルファイア!

全員が予定通りの結界ポジションにスタンバイし、点呼を終える。 二度目のサイレンが鳴り響いた。 これは、魔力に惹きつけられた魔物を掃討する実戦訓練であると同時に、近衛騎士団の小隊に「極大魔法の渦中」を体験してもらうための通過儀礼でもあった。


「我が主神、サドミスト! あなたの従順なる下僕、ちびっ子オークリンが、自らの人生を切り拓くための試みを行っております。どうか力をお貸しください――『ヘルファイア(極大焔界)』!」


広大な砂漠を飲み込むように、巨大な爆炎の渦が巻き起こった。 ノヴァの展開する結界の中で、オリヴィエが私の肩を叩いた。 「相変わらず非常識な爆炎だな」 「……ほんと、私も慣れるまでは怖かったです。初めての皆さんは、大丈夫でしょうか?」


私がトロア司令と小隊の方へ目を向けると、そこには**「この世の終わり」**を見たかのような顔で引きつる隊員たちがいた。 せっかく視力が回復したばかりの患者二人に至っては、目の前で荒れ狂う地獄の劫火に、腰を抜かして震え上がっている。


「ノヴァさーん! 結界、大丈夫ですか!?」 私が叫ぶと、結界を維持するノヴァさんが余裕の(?)表情で答えた。 「大丈夫、大丈夫! ……たぶん!」


「たぶんって……っ!」 小隊の人たちがさらに青ざめたのは言うまでもない。


◇ 砂漠の祝杯:甘いビール?

やがて魔法の余波が収まり、魔物一匹いない静寂が戻った。 小隊の人たちは「あんな炎の中を行軍するのか?」「結界の担当者が『たぶん』って言ってたぞ……」と口々に不安を漏らしていたが、無事に撤去したテントの再設営も終わった。


全員が診療所テントに集合し、ジェーコフ司令が壇上に立った。 「皆さん、本日は治療院『ガンダーラ』の開院に参加いただき感謝する。この診療所は極大魔法の新たな運用形態を模索するために――」


(あ、これ長くなるやつだ……) 誰もがそう思った瞬間、オリヴィエ団長が割って入った。 「ジェーコフ、堅苦しい挨拶は抜きだ! ロイヤルヴァルトの協力で、我が精鋭たちが救われた。……野郎ども、一滴残らず飲み干すぞ! 『祝宴(作戦)』開始!」


「「「「おぉぉぉーー!!」」」」


冷えたビール樽から、次々とグラスに黄金の液体が注がれていく。 「みんな、ありがとー! カンパーイ!」 私の音頭で、一同がジョッキを煽った。


私もビールを一口! ……と思った瞬間、隣でサムソンさんが何やら素早く詠唱を始めた。 「我が主神サドミスト! 子供にお酒はいけません。アルコールと二酸化炭素を糖質へと変え給え――『メイクシュガー(清涼変換)』!」


シュンッ、と私のグラスが白く輝いた。 「ぷはぁっ! ……あ、甘い! ビールってこんなに甘いものだったのね!」


ビール(だったもの)を美味しそうに飲む私を見て、サンドラ副官がサムソンさんに向かってニヤリと親指を立てた。サムソンさんも満足げにマッスルポーズで応えている。


砂漠の夜は、笑い声とともに更けていった。

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