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極大魔法しか使えない残念な冒険者  作者: 白山月


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19/62

撃破(改正)

◇ 地下:マッスル・チャームの恐怖

サキュバスがオークリンとサムソンを射貫くような目で見据え、言い放った。 「お前ら二人、まとめてぶち殺してやる!」


サキュバスは膨大な魔力を弾丸に変え、一斉に掃射してきた。サムソンが即座に盾を構え、オークリンを保護する。 (どうしよう、私の魔法を使ったら王都全域どころか外部まで吹き飛ばして、取り返しのつかないことになる……!)


焦るオークリンを背に、サムソンが落ち着いた声で言った。 「オークリンさん、魔法は使ってはいけませんぞ。案外、話せば分かる相手かもしれません。ここは吾輩にお任せを!」


サムソンは猛烈な勢いで突進しながら、朗々と詠唱を開始した。 「我が主神サドミスト! あなたより賜りしこの筋肉、この魅力、そして我が歓喜を、目の前の者に分け与えたまえ――『魅了チャーム』!」


次の瞬間、サキュバスの脳内に「大量のマッチョ」が流れ込んだ。 「サキュバスに魅了を使うなんて、とんだ間抜けね。……って、何これ、キモい……!」


「マッスル・アンド・モスト・マスキュラー!」 脳内のマッチョたちが一斉にポージングを決める。 「ちょっと待って! どこが魅了なのよ! これ、ただの精神攻撃じゃないの!?」


サキュバスの意識の中で、マッチョたちは次々とポーズを繰り出した。 ダブル・バイセップス! サイド・チェスト! アブドミナル・アンド・サイ!


「うわあああ! なんだこれ、やめてくれええ!」 魅了とは程遠い、だが確実にサキュバスの精神を粉砕する猛烈なダメージが彼女を襲う。


◇ 地上:異変

一方、地上の神託祭会場。 教皇が突然、両手で頭を抱え、奇妙な悲鳴を上げて苦しみ始めた。


「オリヴィエ、これは大丈夫なのか?」 「赤い線の影響でしょう。寄生主サキュバスの精神状態が、教皇にそのままフィードバックされているようです」 「……もう少し待てば、何が取り憑いているか判明するのだな」 二人は混乱する会場の中で、静かに事態の推移を見守っていた。


◇ 決着:天才児の走馬灯

地下では、魅了(物理)を発動し続けるサムソンの後ろで、もう一人、頭を抱えて蹲っている者がいた。 オークリンだ。


類まれな認識能力を持つ彼女には、術者と対象にしか見えないはずの「マッチョたちのポージング」が、鮮明に見えてしまっていたのだ。 「嫌だ……気持ち悪い! もうやめて……!」 精神的な限界を迎えたオークリンが、錯乱状態で詠唱を始める。 「我が主神サドミスト様……どうか、どうか、この地獄から私をお救いください……!」


その絶望的な声に応えるように、プレストンの副官・アカリの声が鋭く響いた。 「ヴォルテージ・ピアス!」


電撃の槍がサキュバスを貫いた瞬間、彼女の脳内を埋め尽くしていたマッチョたちが霧散した。 「あ……私、死ぬんだ。……でも、やっとあの苦痛から解放される……」


消えゆく意識の中、サキュバスは走馬灯を見ていた。 彼女はサキュバスの中でも飛び抜けて魔力が強く、優秀な子供だった。それゆえに、あの神官の女のオークリンと同じように飛び級を繰り返し、上のクラスへと進んでいった。


周囲のお姉さんたちはみんな優しく、彼女を守ってくれた。淫らなことからも遠ざけてくれた。 だが、その「純粋な保護」こそが、大人になってからの実習で彼女を苦しめることになったのだ。 (淫夢なんて、何も知らなかった。あの頃は本当に辛かったな……。どうして普通に、年相応の友達と一緒に進ませてくれなかったんだろう……)


彼女の思考を断ち切るように、アカリの冷徹な追撃が放たれる。 「我が主神サドミスト。この哀れな悪魔に、苦しみのない最期を与えたまえ。――『サンダー・カレント』!」


サキュバスは激しい雷光に包まれ、教皇へと繋がる赤い線もろとも、跡形もなく消滅した。 アカリは、意識を失ったオークリンを抱きかかえるサムソンを容赦なく蹴り飛ばすと、彼女を優しく受け止めた。


「よく頑張ったね。怖かったでしょう。……極大魔法を使わなかったのは、とても偉かったよ」

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