そこを通せ!(改正)
◇ ロイヤルヴァルト流・陽動作戦
「極大魔法などという不要なもののために、陛下や教皇様の時間を割くわけにはいきません。そもそもここは、ロイヤルヴァルトのような汚らわしい輩が入れる場所ではないのです。お引き取りなさい!」
神官の傲慢な発言を聞き、ジェーコフ司令の口元がわずかに緩んだ。 「……神官様が『入れない』と仰るのであれば致し方ありません。陛下へのご報告は、**”ここ”**でさせていただくとしましょう」
「はあ? ロイヤルヴァルト風情が何を……。こんなところで叫んで陛下に届くはずがなかろう。しかも、こんな公の場で機密情報を漏らそうとは、救いようのない間抜け共だ」
「聞いた人間が、それを他人に話すことができれば……の話ですけどね」 司令はニヤリと笑うと、腹の底から響く大声で宣言した。
「国王陛下に奏上いたします! 極大魔法の威力に耐えうる防御結界を生成する剣を確認いたしました! 今より、これより、実演を開始いたします!」
「何を言っている。馬鹿なのか、貴公らは」 なおも神官は鼻で笑っているが、司令は容赦なく命じる。 「クリスタルソード、準備!」
ノヴァが長い包みからクリスタルソードを取り出した。 「教会で武器だと!? なんてことを! 衛兵! 衛兵!」 慌てて衛兵たちが駆け寄ってくる。
「ロイヤルヴァルト総員、対閃光防御!」 司令の合図で、ロイヤルヴァルトの全員が漆黒のサングラスを装着した。間髪入れず、プレストンが朗々と詠唱を始める。
「我が主神サドミストよ。目の前にいる、名も名乗らぬ礼儀知らずの神官が、神の奇跡を疑っております。この不敬なる者に、死の直前、本物の奇跡を見せたまえ……」
詠唱の途中だというのに、周囲の魔力濃度が異常なまでに上昇し始めた。 教会の魔法警報がけたたましく鳴り響き、神官の顔から一気に血の気が引いていく。 アカリ副官は、その神官をそっと結界の外側へと押し出し、満面の笑みで告げた。
「ここは『汚らわしいロイヤルヴァルト』の結界ですので、聖職者様は外に出てくださいね。……ご武運を」
「あ、あなたたち、こんなことをしてタダで済むと……っ!」 教会内に特別警報が響き渡り、近衛騎士団と関係者がパニックを起こして逃げ出してくる。 (実は、逃げてきた近衛騎士団には事前に「ロイヤルヴァルトが極大魔法をぶっ放すぞ!」というデマを流しながら逃げるよう指示してあったのだ)
阿鼻叫喚の群衆を見て、神官は腰を抜かしてオロオロするばかり。そこへプレストンの冷徹な声が追い打ちをかける。 「逃げても意味はない。国が、街が、地図の上から消える……いわゆる**『ワイプアウト(全消去)』**をその目に焼き付けるがいい」
「やめてください! ごめんなさい! もうやめてくれぇぇ!!」 神官はついにその場に崩れ落ち、涙ながらに命乞いを始めた。
「――いでよ、プチファイア!」 アカリの声とともに、**「パーン!」**という可愛らしい破裂音が響いた。
神官はそのまま、静かに白目を剥いて気を失った。 発動したのは極大魔法などではなく、アカリがこっそり並列詠唱していた小さな火遊び魔法だ。だが、その効果は絶大だった。教会の警備体制は、今や完全に崩壊している。
「うまくやれよ、オークリン」 司令は小さく呟くと、「さて、陛下のもとへ伺いましょうか」と、涼しい顔で教会内へと入っていった。
◇ 地下深く、赤い糸の終着点
扉を守っていた衛兵が持ち場を離れた隙に、私たち――オークリン、サムソン、そして隠密担当の騎士たちは地下へと滑り込んだ。
私にしか見えない「赤い線」を頼りに、右へ左へと入り組んだ回廊を進み、さらに深い階層へと階段を下りていく。 教会の最深部。そこには厳重な封印結界が施された、重厚な扉が立ちはだかっていた。
近衛騎士団のスペシャリストに解呪と解錠を任せ、私たちは静かに、しかし迅速に中へと踏み込む。
暗がりの奥。 一体の、女性の姿をした悪魔がこちらをじっと見つめていた。
その悪魔の小指には……教皇へと繋がる**「赤い線」**が、しっかりと結びつけられていた。
(こいつだ……ビンゴ!)




