第96話『緋砂の祭壇』
闇守を倒したレンたちは、迷宮の最奥・第三層へと進む。
そこには、この地に眠る“証”と、最後の試練が待ち構えていた。
石階段を下りるにつれ、空気はさらに冷たく、そして重くなった。
壁の赤土は徐々に黒ずみ、やがて滑らかな石に変わる。
降り切った先――そこは広大な円形の空間だった。
中央には、赤砂を敷き詰めた祭壇。
四方を囲む巨大な石柱には、古代の文字と獣の彫刻が刻まれている。
天井の裂け目から一筋の光が差し込み、祭壇をまっすぐ照らしていた。
「……ここが、緋砂の祭壇」
ザハルが低く呟く。
レンは足を踏み出すが、不意に背筋を冷たいものが走った。
砂が――脈打っている。
次の瞬間、祭壇の中央から、真紅の光を帯びた砂嵐が巻き起こった。
それは渦を巻きながら天井近くまで伸び、やがて人の形を象る。
砂でできた巨人だ。目は燃えるような赤。
「来訪者よ、我が証を求めるか」
巨人の声は、地鳴りのように広間を震わせた。
リリィが息を飲む。
「しゃ……しゃべった……」
「その代償は――命。
生きて試練を超えた者にのみ、証を授けよう」
そう言うと、巨人は腕を振り下ろす。
床の砂が波のようにうねり、刃のような砂柱がレンたちへ迫った。
ガルドが斧で砂柱を叩き割り、ヴァレッタが身を翻して回避する。
ザハルは短剣で巨人の足を斬りつけるが、砂が弾けるだけで手応えはない。
「くそっ、どうやって倒す!?」
レンが叫ぶ。
「砂の核を砕け! 胸の奥に光が見える!」
ザハルが指差す先――巨人の胸の奥で、小さな赤い光が脈動している。
「よし……やるしかないな!」
レンは肩に背負った窯を外し、炎を最大出力にする。
炎が砂を焼き固め、巨人の動きが一瞬止まった。
その隙にヴァレッタが跳び上がり、剣を突き立てる。
しかし巨人は咆哮を上げ、振り払おうとする。
リリィが素早く布袋を取り出し、香草を窯の炎に投げ込んだ。
香りの煙が砂を重くし、動きをさらに鈍らせる。
「今だ、レン!」
ヴァレッタの声に応え、レンは灼熱の鉄板を核めがけて叩きつけた。
ジュッという音とともに、赤い光が砕け散る。
巨人は一声、地を揺るがす唸りを上げ――
砂となって崩れ落ちた。
静寂。
祭壇の中央に、拳ほどの大きさの赤い宝珠が残されていた。
ザハルが慎重に拾い上げ、レンへと差し出す。
「……これが“証”だ。お前のものだ」
レンは深く息をつき、その宝珠を握り締めた。
この瞬間、迷宮の試練は終わったのだ。
緋砂の祭壇での戦いを制し、“証”を手に入れたレンたち。
だが、この宝珠が呼び寄せる運命は、まだ誰も知らない。




