第9話『野生のモッツァレラは追いかけてくる!?』
遺跡で見つけた古代ピザレシピ。次の鍵は“白き伸びる宝”、つまり――チーズ!
向かうは「モッツァレラビースト」が棲むという霧深き山岳地帯。
しかし、そのチーズ……逃げるらしい!?
朝霧の中、レンたちは険しい山道を登っていた。
目指すは“ウノッコ山脈”。この地方で最も湿気とチーズ密度が高いと噂される場所だ。
「それにしても……“モッツァレラビースト”って、実在するんだね」
リリィは小さな地図を広げながら言った。
「うん。伝承によると“白くて丸くて、もっちもちの獣”だってさ」
「もはやチーズが動いてるだけでは」
「まぁ、見た目は完全にモッツァレラだしな。しかも乳がすでにモッツァレラっていう奇跡」
「そんなの搾ったらアウトでしょ」
「いや、セーフでしょ。完全にピザの神様の贈り物だよ!」
しばらく歩くと、山腹にある湖のほとりに出た。霧の間から白く光る何かが見える。
「……あれ……もしかして……」
「いたっ!! あれだ! モッツァレラビースト!!」
霧の中から現れたのは――白くて、丸くて、もちもちした動物だった。
大きさは子牛ほど。つぶらな瞳とぷにぷにの体。
なぜか少しチーズのにおいがする。
「かわいすぎるッ!!! でもなんか、腹が減る……!」
レンがじりじりと近づく。
「おいで~、おいでモッツァくん~……」
……そのときだった。
「――ピギャアァアァアッ!!」
「逃げたっ!!?」
モッツァレラビーストは驚くほど俊敏に逃げ出した。
その走り方はピョンピョンと跳ね、弾力で岩を跳び越えていく。まるで生きた餅。
「なにあの弾力!? なんであんなに跳ねるの!?」
「たぶんコラーゲン比率の問題だと思う!!(興奮)」
「理屈じゃねえ!!!」
追いかけること数分――ついにモッツァレラビーストは草むらに隠れて、震えていた。
「待って……レン、あれ、すごく……怯えてる」
リリィが慎重に近づくと、小さなモッツァレラビーストがすり寄ってきた。
「……群れとはぐれたのかな……?」
レンはしばらく考えた後、持ってきたピザのかけらを差し出した。
「ほら、これ……トマトソースのやつ。うまいぞ」
恐る恐る一口食べたビーストは、目を輝かせ――
「ピギャァァァ!!(うまい!)」と叫びながら、レンに飛びついた。
「なついた!?!?!?!?!?」
数時間後、レンたちはチーズ製造所として有名な「バスカ村」にモッツァレラビーストを連れて戻った。
村人たちは大喜びだった。
「まさか本物が! 本当にいたとは……!」
「こやつの乳、ほんまにモッツァレラじゃ……!」
なんかすごい空間になってきた。
夜、焚き火のそばでレンは新しいピザを焼いていた。
生地にトマトソース、採れたてのフレッシュモッツァレラをのせて、バジルを散らす。
そして、石窯でさっと焼き上げる――。
「うわっ……これ、やばい……」
リリィは一口食べて言葉を失った。
濃厚なのに後味が軽く、噛むたびにモッツァレラが口の中で溶けていく。
レンは満足そうに笑った。
「ピザに使う食材って、どこまでも奥深いな……この世界には、まだまだ知らないうまさがある」
動くチーズ、モッツァレラビーストとの出会い。
笑って追いかけて、少しだけ優しくて、ちゃんとおいしい。
それが、異世界スローライフの冒険なのです