第89話『砂漠案内人ザハル』
オアシスの街サルマで旧友ジャビルと再会したレンたち。
翌日、彼の紹介で砂漠案内人と会うことになるが――その人物はかなりの曲者だった。
翌朝、まだ日が昇りきらないうちに、ジャビルが宿の前で待っていた。
「お、やっと来たな。さぁ、案内人を紹介するぜ」
レンたちは水袋を背負い、ジャビルの後ろについていく。
向かった先は街外れの駱駝小屋。
そこには、砂漠の風に晒されたような茶色のテントと、十数頭の駱駝が並んでいた。
奥から現れたのは、背の高い痩せた男。褐色の肌に深い皺、鋭い鷹のような眼。
「こいつがザハルだ。腕は確かだが、性格は……まぁ、見ての通りだ」
ジャビルが半ば苦笑いで紹介すると、ザハルは腕を組んだままレンを上から下まで値踏みした。
「……あんたら、迷宮まで行く気か?」
「そうだ」
「ふん。商売人の匂いがするな。危険を知らない顔だ」
その言葉に、リリィがむっとして前に出た。
「危険なら昨日盗賊退治してきたよ!」
ザハルは眉を上げ、わずかに口元を緩めた。
「……そうか。なら少しは見込みがある」
契約の話になると、ザハルはさらに渋い顔になった。
「この砂漠は容赦しない。俺の案内料は前金の金貨十枚、成功報酬でさらに五枚だ」
「高っ!」
リリィの叫びに、ジャビルが小声で耳打ちする。
「これでも安い方だ。ザハルは迷宮まで生きて辿り着かせる確率が一番高い」
レンは少し考えた末、頷いた。
「分かった。頼む」
契約が済むと、ザハルは短く指示を出した。
「日が沈む前に出る。昼間の砂漠は死ぬ。準備はいいな」
午後、荷駱駝に食料と水を積み、出発の時が来た。
ザハルは手際よく動きながら、隊列の並びまで細かく指定する。
「レン、あんたは俺のすぐ後ろ。女たちは真ん中。最後尾はあの大男だ」
「おい、最後尾は危ないんじゃ……」
「だからだ。後ろから来る奴をぶっ飛ばす役だ」
夕焼けの中、隊は静かにオアシスを離れ、赤い砂丘の向こうへ進む。
夜の砂漠は昼の灼熱が嘘のように冷え込み、満天の星が頭上を覆った。
その中で、ザハルはぽつりと話し始めた。
「……赤い獅子団は最近、迷宮の奥に興味を持ち始めた。
奴らの狙いはおそらく“証”だ。お前らが探すものと同じだ」
レンは息を呑む。
「じゃあ、先を越されたら……?」
「証は二度と戻らんだろうな」
星明かりの下、冷たい砂を踏みしめながら進む一行。
しかし、砂丘の陰で、複数の赤い影がじっとその様子を見つめていた――。
砂漠案内人ザハルの協力を得て、迷宮への旅が始まる。
だが、“赤い獅子団”の影はすでに彼らのすぐ近くまで迫っていた。




