第88話『オアシスの街サルマ』
盗賊の襲撃を退け、レンたちは砂漠の中心にあるオアシス都市“サルマ”へとたどり着く。
そこには、灼熱の旅を癒やす水と――思わぬ再会が待っていた。
翌日、午前中いっぱい砂丘を進んだ頃、
遠くに緑と水面のきらめきが見えてきた。
それはまるで砂漠の中に浮かぶ宝石のようだった。
「わぁ……! 本当に水がある!」
リリィが目を輝かせて駆け出す。
「おい、先走るな。まだ町の入口だぞ」
ガルドが呼び止めるが、彼女は聞いていなかった。
オアシスの街サルマは、高い白壁と青い装飾が印象的な美しい町だった。
ヤシの木が広場を囲み、中心には澄んだ泉が湧き出している。
水汲み場では人々が列を作り、商人たちが水壺を馬車に積み込んでいた。
レンたちは宿を探す前に、まず泉のほとりで顔を洗った。
乾ききった喉を潤す冷たい水は、それだけで生き返るようだった。
「ふぅ……生き返った……」
リリィは両手ですくった水を頭からかぶり、
「冷たっ!」と跳ねながら笑った。
「さて、宿を探して――」
レンが言いかけたとき、広場の向こうから声が飛んできた。
「おーい! レンじゃねぇか!」
振り向くと、砂色のローブをまとった屈強な男が立っていた。
日に焼けた顔に満面の笑み。
「……ジャビル!? なんでこんなところに!」
「お前こそ! 噂で聞いたぞ、ピザ売って大陸回ってるって!」
ジャビルは以前、港町フェルナンドで知り合ったキャラバン商人だった。
彼はレンたちを抱き寄せるようにして再会を喜び、
「ちょうどいい、今夜は宿で話そう」と誘った。
夕方、ジャビルの案内で街外れの大きな隊商宿へ向かう。
そこでは旅人たちが焚き火を囲み、香辛料の香りが漂っていた。
食堂に入ると、壁には交易路の地図が掛けられ、
行き交う商人たちの話し声が賑やかに響いていた。
「そういや、お前ら……緋砂の迷宮に行くつもりなんだってな」
ジャビルはスパイスたっぷりの煮込みを皿に盛りながら言った。
「知ってたのか」
「そりゃ噂くらい聞くさ。あそこは金になるが命も落とす。
最近は“赤い獅子団”って盗賊が入り口を抑えてるらしい」
ヴァレッタが眉をひそめる。
「赤い獅子団……聞いたことがある。無法者の中でも凶悪な連中だ」
ジャビルは肩をすくめた。
「だからよ、もし行くなら俺の知り合いの案内人を雇え。命の保険だ」
話を聞きながら、レンは一つ決意を固めた。
「……ありがとう、ジャビル。明日その案内人を紹介してくれ」
ジャビルは笑い、杯を掲げた。
「いいとも! 久々の再会に乾杯だ!」
杯がぶつかる音が、オアシスの夜空に響いた。
砂漠の真ん中での再会は、偶然か、それとも運命か。
しかし、緋砂の迷宮の前に立ちはだかる“赤い獅子団”の存在が、
新たな緊張を呼び込む。




