第81話『再び海へ!新たな航路と未知の島』
星の麦ピザは港町の人々を笑顔にし、レンたちは再び海へ出る決意を固めた。
次なる航路は、地図にすら載っていない未知の島――。
早朝の港。
黒牙号の甲板では、ガルドが最後の樽を積み込み、リリィが食材の在庫を確認していた。
ヴァレッタは船首で海を眺め、微かに笑みを浮かべている。
「出航準備、完了!」
ガルドの声に、レンは頷いた。
「よし……行こう」
港の人々が手を振る。
カミラもその中にいて、大きく腕を振っていた。
「今度は負けないわよ!」
レンは笑って返した。
黒牙号が港を離れると、潮風が一層強く吹き込み、帆が膨らむ。
空は青く澄み、遠くの水平線が白く輝いていた。
「次の目的地、本当に地図にないの?」
リリィが首をかしげる。
「ああ、港の古老が言ってた。『霧の彼方に、時を止める島がある』って」
レンは帆の上を見上げながら答える。
昼過ぎ、海の表情が変わった。
突然、視界を覆うほどの白い霧が立ちこめ、風も凪いだ。
「……これが、霧の海域か」
ヴァレッタが低く呟く。
船の舵を取るガルドの顔も険しい。
「潮の流れが読めねぇ……普通なら座礁コースだ」
「でも進むしかない」
レンはそう言い、霧の奥を見据えた。
やがて、霧の向こうに影が浮かび上がった。
それは小さな島――しかし、海面に映るその姿は、どこか歪んで揺れている。
「……島が揺れてる?」
リリィが不思議そうに呟いた。
近づくにつれ、潮騒とは別の音が耳に届く。
――鐘の音。しかも、ゆっくりとした不気味な響き。
黒牙号が島の入り江に入ると、そこには古びた港と、誰もいない街並みがあった。
木造の家々は崩れかけ、草が石畳を覆っている。
にもかかわらず、鐘の音だけが規則正しく響いていた。
「……気味が悪いな」
ガルドが呟く。
レンは港に降り立ち、空気を吸い込んだ。
――微かに香ばしい匂いが混じっている。
「この島……誰もいないわけじゃない」
レンの目が鋭くなった。
「きっと、誰かが俺たちを見てる」
その瞬間、街の奥の路地から、小さな影が素早く動いた。
リリィが反射的に追いかける。
「待って!」
路地の先で捕まえたのは、煤だらけの少年だった。
少年は震えながらも、はっきりとした声で言った。
「この島から……逃げろ。鐘が鳴ってるうちは、まだ間に合う」
鐘の音は、なおも遠くで響き続けていた――。
霧に包まれた島、廃墟の街、そして謎の少年。
鐘の音の正体は、果たして何を告げているのか――。




