第78話『星の麦の秘密』
港町での料理勝負を制し、ついに星の麦を手に入れたレン。
しかし、この麦にはまだ謎が隠されていた――。
港町の宿の一室。
レンは袋から星の麦を一粒取り出し、窓辺の光にかざした。
金色の殻は細やかに輝き、夜にかすかに淡い光を放つ。
「……本当に光ってる」
リリィが目を丸くした。
「どうやってパンやピザにするの?」
レンは少し眉をひそめた。
「それが、まだ分からない」
そこへ、カミラが静かに部屋へ入ってきた。
「約束通り、星の麦を渡した。でも一つ忠告しておく」
レンは顔を上げる。
「忠告?」
「星の麦は、そのままではただの硬い殻付きの麦だ。
真価を発揮するには、“月の泉”で浸す必要がある」
「月の泉?」
ヴァレッタが腕を組む。
「聞いたことがある。港から北の山にある泉だろ。夜になると水面に月の模様が浮かぶ」
「そう。だがそこへ行くには、山を守る番人の許しがいる。
許しを得られない者は、泉の近くにすらたどり着けない」
カミラはレンをまっすぐ見た。
「港町で勝ったあんたなら、行けるかもしれない。でも……覚悟しておけ」
その夜、レンは星の麦を枕元に置き、眠りについた。
夢の中で、どこか懐かしい匂いの風が吹き、
月明かりに照らされた泉が静かに揺れていた。
「おいで……」
どこからか声が響く。
目を開けた時、レンはうっすらと汗をかいていた。
翌朝、黒牙号の仲間たちは港を発った。
目指すは北の山、月の泉。
山道は細く、木々の間から差し込む光が星の麦の粒のようにきらめいていた。
途中、ガルドがふと立ち止まった。
「……誰か、ついてきてる」
振り返ると、木陰から小柄な影が顔を出した。
「やっぱり追いついた!」
それは、港町でレンのピザを食べた少年だった。
背中に小さな袋を背負い、息を切らしながら叫ぶ。
「俺も一緒に行く! 月の泉には、俺の家族の秘密があるんだ!」
ヴァレッタが片眉を上げた。
「厄介ごとが増えたな」
レンは苦笑し、頷いた。
「でも……こういう時、仲間は多い方がいい」
山道の先、遠くの岩の上に白い霧がかかっていた。
それが――月の泉のある場所だと、誰もが直感した。
星の麦を本当の意味で使うために、レンたちは月の泉を目指す。
だが、その道中には番人と未知の試練が待ち受けていた――。




