第77話『料理対決!港町の女帝シェフ』
未知の大陸で星の麦を得るため、レンは港町最強の料理人カミラとの勝負を受けた。
広場に設けられた石窯の前で、二人の料理人が向き合う――。
港の中央広場は、すでに人だかりで埋まっていた。
魚の匂い、香辛料の香り、そして人々の熱気が渦を巻く。
ギルド長が立ち上がり、声を張った。
「これより! 港町代表カミラと、異国の料理人レンの料理勝負を行う!」
歓声とともに、太鼓が鳴り響く。
カミラは腰の包丁を静かに抜き、光を反射させた。
「星の麦は、ここじゃ命より重い。負けたら即刻出ていってもらうわ」
レンは頷き、笑みを浮かべる。
「勝ったら……遠慮なく使わせてもらう」
制限時間は一時間。
テーマは「港町の恵み」。
カミラは迷わず魚市場へ向かい、巨大な赤鱗魚を抱えて戻ってきた。
その場で手際よく三枚におろし、鮮やかな柑橘の皮と香草でマリネを始める。
一方、レンは星の麦を使わず、地元の小麦粉と海の黄金を取り出した。
「まずは、この土地の粉を知ることからだ」
生地を捏ねながら、彼は香辛料市場で仕入れた赤い花びらを細かく刻み、練り込んでいく。
観客たちはカミラの豪快な包丁さばきに歓声をあげ、
レンの緻密な手捌きには興味深そうな視線を向けていた。
ガルドが小声で呟く。
「レン、あの女……相当の腕だぞ」
「知ってる。だから面白いんじゃないか」
カミラは赤鱗魚を石窯で焼き、焼き上がりと同時に港特産の貝のソースをたっぷりかけた。
魚の旨みと海の香りが広場を包み、人々は思わず唾を飲み込む。
レンは生地を薄く延ばし、海の黄金、燻製肉、そして香り高い野菜を彩りよく並べた。
石窯に入れると、焦げ目とともに甘く芳ばしい香りが立ち昇る。
制限時間終了。
審査員たちの前に、二人の料理が並んだ。
カミラの皿は華やかで力強く、港の象徴ともいえる味わい。
レンのピザは、香りだけで人を惹きつける柔らかさと深みがあった。
審査員たちは一口ずつ食べ比べ、顔を見合わせた。
やがてギルド長が立ち上がる。
「勝者――レン!」
広場に歓声が轟き、リリィとガルドが駆け寄ってきた。
カミラは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに口元を引き締めた。
「……あんた、本物だね」
彼女は星の麦の小袋を差し出した。
「約束だ。これであんたの料理を見せてみな」
レンは袋を受け取り、深く頭を下げた。
「必ず最高のピザにする」
その袋の中で、金色の麦がかすかに輝いていた。
港町の女帝シェフを破り、ついに星の麦を手に入れたレン。
しかし、麦を使うためには、この大陸の“ある秘密”を解き明かさねばならなかった――。




