第76話『未知の大陸、始まりの港』
嵐の門を突破したレンたちは、ついに古地図に記された未知の大陸へ上陸する。
そこは見たこともない植物と香り、そして活気あふれる港町が広がっていた。
夜明けと同時に、黒牙号は静かな湾に入った。
霧が晴れると、そこには赤茶けた断崖と、階段状に広がる街並みが姿を現した。
潮風に混じり、焼きたてのパンや香辛料の匂いが漂ってくる。
「ここが……星の麦の大陸か」
レンは息をのんだ。
港には色鮮やかな帆布を張った船が並び、荷揚げする人々の掛け声が響く。
桟橋に降り立った瞬間、リリィが目を輝かせた。
「見てレン! あれ!」
指差した先には、金色の穂をつけた背の高い麦が束ねられていた。
それは確かに、淡く光を放っている。
「……星の麦だ」
レンは無意識にその場へ歩み寄った。
だが、近くにいた逞しい男が立ちふさがる。
「観光客が触っていいもんじゃねぇ」
男は麦束を抱え、鋭い目でレンを見た。
「星の麦は、この港を治めるギルドの管理下にある。勝手に扱えば……命で払うことになる」
ヴァレッタが低く笑う。
「ここも裏社会が牛耳ってるわけだ。気をつけな、レン」
市場を歩くと、見たことのない食材が所狭しと並んでいた。
巨大な果実、香り立つ草、乾燥させた深紅の花びら……。
港の人々は活気にあふれているが、同時に外の者への視線は警戒心を帯びていた。
「ここで星の麦を手に入れるのは、簡単じゃなさそうだな」
ガルドが腕を組む。
「なら、方法はひとつだ」
レンは笑った。
「うまいピザで、ここの胃袋を掴む」
港の中央広場には、大きな石窯が据え付けられていた。
広場を仕切るギルドの男たちが目を光らせている。
レンは許可を取るため、港のギルド長のもとへ向かった。
ギルド長は丸太のような腕を組んだ大男で、髭の間から低い声を響かせた。
「星の麦を使いたい? ……なら条件がある」
「条件?」
「この港一番の料理人と、料理勝負をしろ。勝てば少しだけ分けてやる」
「面白ぇ……!」
レンは即答した。
ギルド長はにやりと笑い、広場の方を顎でしゃくった。
「あいつがお前の相手だ」
振り返ると、そこには背の高い女性料理人が立っていた。
鋭い目と炎のような赤髪――腰には銀色の包丁が下がっている。
「名はカミラ。港で一番の料理人さ」
ギルド長の声に、彼女は静かに頷く。
「……面白い勝負になるといいわね、異国のピザ職人さん」
星の麦を求め、未知の大陸の港町で料理勝負が始まる。
勝てば夢の食材が手に入るが、負ければ港から追い出される――。




