第71話『海賊の晩餐』
幻の島で“海の黄金”を守り抜いたレンたち。
しかし女海賊ヴァレッタは、約束通り黄金を奪わなかった代わりに――
「次は私の船で腕を振るえ」と誘いを残していった。
ヴァレッタの海賊船“黒牙号”は、霧の海を抜けると驚くほどの速度で進んだ。
甲板の上は常にざわめき、樽や木箱が運ばれ、酒樽が開けられる音が響く。
レンたちは客人として迎えられ、船員たちの視線を浴びながら甲板中央へ案内された。
「ようこそ、私の晩餐へ」
ヴァレッタは大きなテーブルに腰を下ろし、豪快にワインを注ぐ。
テーブルの上には、干し肉、塩漬け魚、硬い黒パン。
だが、どれも海の黄金や霧の王の肉に比べれば質素だ。
「今日はあんたが、この宴を本物にする」
ヴァレッタは挑発的な笑みを浮かべた。
「海賊の胃袋を満たす料理……できるか?」
「任せとけ」
レンは腕まくりをし、ガルドとリリィにも準備を指示する。
まずは海の黄金を薄く切り、塩とオリーブオイルで軽く和える。
その上に霧の王の燻製を細かく裂き、海藻と絡める。
そして生地を広げ、具をたっぷりとのせ、船上の小さな石窯に滑り込ませた。
香ばしい匂いが甲板全体に広がると、海賊たちの視線が釘付けになる。
「ほらよ、熱いうちに食え」
レンが切り分けたピザを差し出すと、ヴァレッタが真っ先に手を伸ばした。
一口かじった瞬間、彼女の瞳がわずかに揺れる。
「……これは……」
彼女は噛みしめ、そして豪快に笑った。
「いい! これこそ海の味だ!」
船員たちも次々と頬張り、口々に歓声を上げる。
「こんな贅沢なピザ、初めてだ!」
「もう黒パンには戻れねぇ!」
酒も進み、甲板は歌と笑い声に包まれた。
宴もたけなわになった頃、ヴァレッタがレンに顔を寄せてきた。
「……あんた、港町じゃなくてもっと先を見てるんだろ?」
「まあな」
「だったら……一緒に来ないか。海の向こうに、まだ誰も食ったことのない味がある」
その誘いは、ただの冗談ではなかった。
ヴァレッタの目は本気だ。
「……考えておく」
レンは短く答えた。
だが胸の奥で、確かに何かがざわめいていた。
女海賊ヴァレッタとの豪快な宴は、海上の新たな出会いの始まりでもあった。
次なる航路は――未知の海原。




