第70話『黄金を狙う影』
幻の島で“海の黄金”を見つけたレンたち。
しかし、その浜辺に黒い帆を掲げた海賊船が姿を現す。
目的はただ一つ――海の黄金。
浜辺の陽光を遮るように、黒い影が迫ってくる。
海上には鋭く切り立った船首、黒地に白い髑髏の旗。
波を切るたび、船腹が軋む不気味な音が響く。
「……あれは間違いない、海賊船だ」
マルコが険しい表情で呟く。
浜辺にいたレンたちは思わず顔を見合わせた。
海賊船はゆっくりと島へ接近し、やがて碇を下ろす。
十数人の海賊たちが小舟に乗り換え、波間を越えてくる。
甲板の中央には、金髪を三つ編みにした女船長が立っていた。
片目には黒い眼帯、腰には二本の曲刀。
「“金喰いのヴァレッタ”……」
マルコが低く唸る。
「賞金首の女海賊だ。このあたりじゃ最悪の噂を持ってる」
小舟が浜に着き、ヴァレッタが砂浜に降り立つ。
彼女は足元の黄金色の砂をすくい、冷たい笑みを浮かべた。
「噂通りだな……金の浜。
そして、あれが“海の黄金”か」
彼女の視線は、レンたちの後ろに積まれた海藻の束に注がれていた。
「悪いが、それは全部いただくよ」
ヴァレッタが曲刀を引き抜くと、部下たちが一斉に武器を構える。
ガルドが前に出た。
「盗人が。帰れ」
「ふふ、盗人とは失礼な……海の恵みを分けてもらうだけさ」
その時、レンが一歩前に進んだ。
「……戦うつもりはない。けど、これは俺たちの手で作る料理のために必要なんだ」
「料理?」
ヴァレッタが眉をひそめる。
「そう。海の黄金は、ただ食うだけじゃもったいない。
俺はこれで、最高のピザを作るつもりだ」
その言葉に、海賊たちはざわついた。
ヴァレッタは一瞬考え込み、そしてにやりと笑う。
「じゃあこうしよう。
あんたのピザが本当に私を唸らせるなら、黄金は見逃す。
でも……不味かったら、全部いただく」
「……望むところだ」
レンは海の黄金と霧の王の燻製肉を使い、
砂浜に即席の石窯を組み立てた。
漂う香りに、海賊たちの目が次第に真剣になる。
焼き上がったピザを一口食べたヴァレッタは、
一瞬だけ目を見開き、そして――
「……くそ、うまいじゃないか」と吐き捨てるように言った。
彼女は笑いながら剣を納めた。
「約束だ、黄金は持っていけ。ただし……次は私の船で腕を振るってもらう」
そう言い残し、ヴァレッタは部下を率いて船に戻っていった。
命を懸けた料理勝負の末、黄金は守られた。
だが、女海賊ヴァレッタとの因縁は、まだ終わっていない――。




