第7話『森の先の青き門――冒険とピザの予感』
古びた地図に導かれ、レンとリリィは“東の森”へと向かうことを決意する。
異世界ピザ屋、いよいよ出張営業(?)スタート!
待ち受けるのは――深き森と、迷子と、食材の宝庫!?
「……地図によれば、この辺りなんだけどな」
東の森に差しかかって、すでに半日。レンとリリィは、野道を抜け、木々の生い茂る獣道を進んでいた。
「ていうかさ、思ったより本格的な森じゃない? 野ウサギとか出そうなんだけど」
「むしろ、野ウサギくらいなら歓迎だよ……材料になるし」
「ピザ屋の発想じゃないからそれ」
レンは笑いながら、肩にかけた布袋の中を確認する。生地、チーズ、トマトソース、それと最低限の調理器具……どこででも焼けるよう、簡易石窯の設計も済ませてある。
「冒険用ポータブルピザセット」――我ながらバカみたいだけど、夢が詰まっている。
「それにしても静かだな。鳥の声もあんまりしない」
「そう? むしろリスとか木の上にたくさん見えるよ。あ、ほら、あの子なんてピザ生地狙ってる目してる!」
「やめて! その生地しかないんだから!」
森の中でもいつも通りのテンポで会話をするふたり。
だが、森の奥から――カサリ、と音がした。
「……今の、聞こえた?」
「うん。誰か、いる?」
警戒しながら茂みのほうへ歩いていくと、そこにいたのは――
「……うぅぅ……おなか……すいた……」
「って、子ども!?」
ひょろりとした金髪の少年が、木の根元でうずくまっていた。衣服は薄汚れ、足元には穴の開いた靴。
「大丈夫!? ケガしてる?」
「ううん……ちょっと、道に迷って……昨日から何も食べてなくて……」
レンとリリィは顔を見合わせると、すぐに行動した。
「よーし、こんな時のために持ってきた! 『非常用ポータブル石窯』、設置!」
「え、なにそのトランスフォームみたいな展開」
「地面に置いて火打ち石で着火、上から釜部分をかぶせて……リリィ、生地頼む!」
「りょーかいっ!」
慣れた手つきで生地を伸ばし、トマトソースを塗り、チーズをふんだんにのせる。
手持ちのキノコやベーコンも加えて、窯に投入。
そして数分後――
「うわ……いい匂い……!」
「ほら、アツアツのキノコベーコンピザ、召し上がれ!」
少年は遠慮がちに一口――そして、目を見開いた。
「……おいしい……! すっごく、おいしい……!」
涙をにじませながら、少年は夢中でピザを頬張る。
その姿を見て、レンは肩の力を抜いた。
「いやー……やっぱりピザって、どこでも最強だな……」
「どこでもピザれる精神、ほんと尊敬する」
「名前は?」
「アッシュっていいます。旅の一座で荷物持ちをしてたんだけど、途中ではぐれちゃって……」
「そっか。じゃあ、青い門の遺跡、知ってる?」
「うん! 聞いたことあるよ。こっちの谷を抜けて、青い湖の近くにあるって……!」
「それだ! 地図の場所、きっとそこだ!」
アッシュはレンたちの目的を聞くと、迷わず案内役を買って出てくれた。
そして夕暮れ時、ようやく森を抜けると――そこには、青く光る湖と、風化しかけた巨大な“石の門”がそびえていた。
「……ここだ。地図の場所」
門には古代文字が刻まれている。レンはそれをじっと見つめる。
「“創造の炎を捧ぐ者、扉はひらかれん”……だって」
「え、炎……ってことは……」
「ピザ焼けってことじゃない?」
「いやどう考えても違うでしょ!?」
しかし、レンはすでに石窯を設置していた。
「こういう時はまずやってみるんだよ。創造の炎――俺たちのピザが、鍵かもしれない!」
釜に火を入れ、渾身のマルゲリータを焼き上げる。
石門の前にそれを供えると――
ゴゴゴゴゴゴ……
「え、うそ、動いた!?」
門がゆっくりと開き始める。中には、石造りの階段が続いていた。
「……ピザで、開いたんだ」
「異世界ってすごいね……ピザ万能説、濃厚になってきた」
アッシュは目を輝かせていた。
「すごい……すごいよ、お兄さんたち! ピザって、魔法なんだね!」
「まあ……魔法っていうか、愛だよ。ピザへの愛!」
「熱量だけはほんとに尊敬する」
こうして、“青き門”は開かれた。
その先に何があるのか――まだ誰も知らない。
だが、レンの心は一つだけ確信していた。
(この先にも、きっと……ピザが待っている)
第7話、いかがでしたか? 今回は森を超えて、新たな仲間(?)とともに未知の扉を開きました。
まさかピザで遺跡が開くとは……ですが、異世界スローライフではそれも“日常”かもしれません