第69話『幻の島、海の黄金』
霧の海を越え、“霧の王”を打ち倒したレンたち。
ついにその先に、地図にも載らぬ幻の島が姿を現す。
そこには“海の黄金”と呼ばれる伝説の食材が眠っているという――。
濃霧が少しずつ晴れ、水平線の先に影が浮かび上がる。
それは深い緑に覆われた島だった。
黄金色に輝く砂浜が、朝日を浴びてきらめいている。
「……着いたな」
マルコが舵を握り、ゆっくりと船を浜辺に近づける。
潮風はどこか甘く、花のような香りが混じっていた。
上陸した瞬間、リリィが息を呑む。
「ねえ、砂浜……金色に光ってない?」
足元を見ると、砂粒の中に細かな金色の結晶が混じっている。
マルコが笑う。
「これが“海の黄金”の正体……いや、本物はこの先だ」
島の奥へ進むと、透明な小川が流れ、奇妙な色合いの貝や海藻が見える。
森の中からは鳥のさえずりと、かすかな波音が重なって聞こえてくる。
やがて、森を抜けた先に――それはあった。
波打ち際に、黄金色に輝く巨大な海藻の群生。
水面で揺れるたび、まるで太陽の光を集めて放っているようだ。
「これが……海の黄金……」
レンは思わず手を伸ばす。
指先で触れると、ほんのり温かく、潮の香りと甘い芳香が混ざり合って漂ってきた。
「生で食べられるの?」
リリィが尋ねると、マルコが頷く。
「薄く切って海水で洗えば、極上の甘みが味わえる」
試しに一口。
噛んだ瞬間、ほのかな塩気と甘みが広がり、
後味はまるで果物のように爽やかだった。
「……これ、絶対ピザに合う」
レンは確信していた。
その場で小さな焚き火を起こし、簡易の石窯を組む。
生地を広げ、海の黄金をたっぷりと敷き詰め、
上から霧の王の燻製肉と香草を乗せる。
焼き上がりは黄金色と銀黒のコントラストが美しく、
漂う香りはこれまで作ったどのピザよりも上品だった。
ひと口食べたガルドが、思わず天を仰ぐ。
「……こんなもん、反則だろ……」
リリィは無言で頷き、二切れ目に手を伸ばす。
マルコは満足げに笑いながら、ワインを合わせた。
しかし、その時。
遠くの海上に、黒い帆を掲げた船影が現れた。
マルコの顔色が変わる。
「……あいつら、海賊だ」
幻の島に眠る“海の黄金”を手に入れたレンたち。
だが、静かな楽園は長くは続かない――。
海賊の影が、迫っている。




