第64話『封印の箱と禁断の食材』
王宮地下の食材庫で見つけた、古代文字の刻まれた箱。
そこには「封印を解くべからず」とだけ記されていた。
レンは恐る恐る、その蓋に手をかける――。
石室の静寂の中、レンはそっと箱に触れた。
箱は木製だが、ところどころに黒曜石の装飾が施され、
蓋の合わせ目は古びた銀の鎖で固く縛られていた。
「……いやな予感しかしない」
ガルドは腕を組み、少し後ずさる。
「触らない方がいいんじゃ……」
リリィも眉をひそめた。
しかし、王の近衛兵が一歩前へ出る。
「その箱は、伝説のピザを完成させる最後の鍵だと伝わっている」
「じゃあ、開けるしかないな」
レンは深く息を吸い、鎖を外した。
蓋を開けると、冷たい空気が流れ出した。
中には、黒い布に包まれた小さな瓶が一つ。
布をほどくと――瓶の中には、不思議な輝きを放つ液体が揺れていた。
色は深紅。それでいて、表面に金の粒子が浮かんでいる。
「……これ、何だ?」
レンが尋ねると、近衛兵は厳しい顔で答えた。
「“星降りの蜜”と呼ばれるものだ。
千年に一度、空から降る光の花の雫を集めたという。
強力な生命力を宿し、わずか一滴で料理の味を変える……だが、
使い方を誤れば毒にもなると伝えられている」
レンは瓶を手のひらに乗せ、静かに考え込んだ。
この深紅の蜜をどう料理に活かすか――
それこそが、伝説の一枚を完成させる鍵なのだ。
その夜、宿の一室。
レンは机に材料を並べ、ノートにレシピの試案を書き連ねていた。
港町の海の幸、草原の香草、砂漠のスパイス、雪国の熟成チーズ、
そして“星降りの蜜”。
だが、瓶の中の蜜を前に、レンの手は止まる。
「一滴で料理を変える……本当に、入れていいのか……?」
ガルドが肩を叩く。
「お前、これまで何だって挑戦してきただろ。
だったら今回も、自分を信じろ」
リリィも笑う。
「もし失敗しても、私たちが全部食べるから!」
レンはふっと笑い、心を決めた。
「――よし、やるか」
翌朝、王宮の厨房が開放された。
長い作業台に材料が並び、見物人や料理人たちが息をのむ。
レンは生地を捏ねながら、そっと“星降りの蜜”の瓶を横に置いた。
「これが……伝説の一枚になる」
そして、蜜の蓋がゆっくりと開かれた。
ついに明らかになった“星降りの蜜”。
その一滴が、王宮の宴と大陸の味覚を揺るがす――。




