第62話『大都市グランベル、旅の終着点』
北方の雪原を抜け、レンたちはついに大陸中央の大都市――グランベルへ到着。
港町、草原、砂漠、雪国……各地で出会った食材を携え、
最後の大きな宴を開くことを決意する。
グランベルは、石造りの城壁と高い塔を持つ大都市だった。
城門をくぐると、広い大通りの両側には商館や市場が立ち並び、
各地から集まった商人や旅人で賑わっている。
香辛料の香り、焼き肉の煙、果物の甘い匂い……
まるで大陸全体の空気がここに凝縮されているようだった。
「ついに来たな……」
レンは人波を見渡しながら呟く。
「ここなら、今まで出会った食材を全部使える」
ガルドも頷く。
「総決算ってやつか」
宿を取ると、レンは早速、各地で仕入れた材料を広げた。
港町フェルナンドの銀鱗マスとタコ
草原エイラの香草ブルサ草と羊乳チーズ
砂漠ザファルの特製スパイスミックス
雪国ノルデンの熟成グラフチーズ
これらを一枚のピザにまとめる――それが今回の挑戦だ。
「よし、作るぞ!」
レンは生地を捏ね、香草を練り込み、
港町のオリーブオイルで滑らかに仕上げる。
ソースはトマトベースに砂漠のスパイスを加え、
香りと辛味を共存させた。
そこへ銀鱗マスの切り身、タコの薄切りを乗せ、
草原の羊乳チーズをたっぷりと振りかける。
さらに雪国のグラフチーズをスライスし、
焼き上げの最後に表面を覆うように配置する。
石窯の中で、チーズがとろけ、香草とスパイスの香りが混ざり合う。
やがて黄金色に輝く一枚が姿を現した。
「完成だ」
レンが切り分けると、チーズが糸を引き、湯気が立ち上る。
会場に集まった客たち――市場の商人、旅人、子供たちが一斉に手を伸ばした。
「……うまっ!」
「香りが複雑なのに、全部が調和してる!」
「これはただの料理じゃない、旅の物語だ!」
ガルドは黙々と食べながら、ぽつりと呟く。
「……これ、俺らの旅そのものだな」
リリィも笑う。
「食べると、全部の景色が蘇るんだよね」
その夜、広場は宴となった。
音楽が鳴り、酒が注がれ、人々は踊り、笑った。
星空の下、レンは焚き火のそばで一息つき、
旅路を静かに振り返っていた。
大都市グランベルでの宴は、旅の集大成。
しかし――この物語は、まだ終わらない。
次は思わぬ依頼が、レンたちを新たな道へ導く。




