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第6話『旅人とピザとふしぎな地図』

ピザ屋「レン」、無事(?)に開店! 村人たちの笑顔と満腹を勝ち取ったレンとリリィ。

だが、その評判は村の外にも届いていた。

今日、見知らぬ風貌の男が店を訪れる――手には、古びた“地図”を携えて……。

 朝の森は静かだった。

 焼きたてのパンの香りと、露を含んだ空気が混ざり合って、どこかノスタルジックな気分を誘う。


「ふああぁ……昨日の客ラッシュ、さすがに疲れたな……」


 リリィが欠伸をかみ殺しながら、大きな鍋でトマトソースを煮ている。

 レンはと言えば、開店準備を進めつつも、釜の前で腕を組んでいた。


「んー……ピザの種類、増やしたいな。そろそろマンネリ気味だし」


「マンネリって言えるほど種類ないけどな」


「そうなんだけどさ、バイト時代は常連さんが“今週の限定ピザ”とか楽しみにしてくれてたんだよなー……。ここでもそういうの、やりたいな」


「じゃあ、具材どうすんの?」


「そこが問題だよなあ……」


 悩んでいると、扉の向こうでコツコツと足音がした。


 振り向くと、そこに立っていたのは――


「こんにちは。……ここが、噂の“ピザ屋”ですか?」


 フードを深くかぶった中年の男だった。背中には旅装束、腰には奇妙な道具が何本も差し込まれている。風来坊か、それとも……?


「よ、ようこそ……ピザ屋“レン”へ! どうぞお好きな席へ!」


 リリィが慌てて案内すると、男はゆっくりと腰を下ろした。


「ピザというものを食べるのは、初めてなんです。よろしければ、おすすめをいただけますか?」


「もちろんです。スタンダードな“トマト&チーズ”と、“森のキノコとベーコン”の二種類ありますけど……」


「その両方を、ぜひ」


 レンは早速、生地を伸ばし始めた。

 釜の炎が再び燃え上がると、男は火を見つめながら口を開いた。


「火……。この揺らぎには、人を惹きつける力がありますね。あなたのピザにも、似たような熱を感じます」


「……はは。ありがとうございます。バイト時代から火の管理にはうるさかったんですよ、店長が」


「店長さんの教えですか?」


「うーん、うるさいってだけで、教えた覚えはないって言い張ってましたけどね」


 そんな会話の合間にも、香ばしい香りが店内を満たしていく。

 やがて焼きあがったピザを出すと、男は黙ってそれを手に取り――


「……うむ。これは、火の料理だ。実に、良い」


 噛み締めるように、ひと切れひと切れを口に運んでいく。

 無表情なのに、どこか喜びが伝わってくるのが不思議だった。


「これを、受け取ってください」


 食事を終えた男が、懐から何かを取り出した。それは古びた羊皮紙だった。

 くしゃくしゃで、端が焦げ、ところどころ読めない――だが、間違いなく“地図”だった。


「これは……?」


「ある古代の遺跡の位置を示したものです。私が数年かけて調べ上げたものですが……どうにも、この先へ進むには勇気が足りなかった」


「な、なんでそれを俺に?」


「あなたの“ピザ”は、火と創意の料理。そして、それを焼くあなたの目は、未来を見る目をしていた。……ならば、この地図はあなたのほうが持つにふさわしい」


「って言っても、俺、ピザ屋なんですけど!?」


「ふふ……だからこそ、ですよ。ピザ屋だからこそ、世界を変えるかもしれない」


 男はそう言い残して、去っていった。


「……な、なんだったんだ、あの人」


「さあ。でも、これ……本当に地図だよ。遺跡って……」


 リリィは興味津々に羊皮紙を眺めていた。地図には「東の森を越えた先、青き石の門に眠る」とだけ記されている。


「遺跡……宝物……ピザの材料……」


「最後のだけ急にピザ屋に戻ったな」


「だって、遺跡とかって食材の宝庫だったりするんだよ。ゲームだと!」


「そんなメシ優先の冒険あるか……」


 だが、レンは笑っていた。

 異世界で開いたピザ屋が、まさか地図を呼ぶとは思っていなかった。けれど、なんとなく――これも“あり”な気がしていた。


「行ってみるか。ピザのために」


「よっしゃ! ピザ冒険隊、出発準備だ!」


 かくして、ピザ屋「レン」は、次の一歩を踏み出すのだった。

第6話、いかがでしたか? 今回はちょっとミステリアスな旅人との出会いと、“地図”という新たなフックが登場しました。

スローライフにちょっぴりスパイスが加わったような一話。

果たして、レンとリリィはこの地図を追って、どんな場所へ向かうのか――?

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