第58話『港町フェルナンドの魚介ピザ』
港町で手に入れた新鮮な魚と巨大タコ。
レンはこれらを使い、港町ならではの魚介ピザを作ることを決意する。
潮風と港のざわめきが香りを運び、漁師たちの舌を唸らせる一枚が生まれる――。
港町の朝市は、昨日の漁の成果で活気づいていた。
銀鱗マスは艶やかに輝き、巨大タコは桶の中でまだ足を動かしている。
レンは市場の一角を借り、石窯を据えた。
潮風を浴びながら、旅の出張ピザ屋の準備が始まる。
「本当に市場で焼くのか?」
ガルドは半信半疑で、石窯の火を見ている。
「もちろんだ。この空気の中で焼くから意味がある」
レンは笑い、用意した生地を手際よく伸ばす。
魚介は、銀鱗マスの切り身とタコの薄切りを中心に。
そこへ港町特産の海藻を刻み、香りづけに地元産のオリーブオイルを垂らす。
さらに白ワインと香草を混ぜた特製ソースを作り、ベースに塗り広げた。
「おー、なんか海の匂いがする」
リリィが鼻をくんくんさせながら覗き込む。
「この香りが焼きあがると、もっと強くなるぞ」
レンはそう言いながら、具材をたっぷりと乗せた。
石窯に入れてしばらく――
生地がふっくらと膨らみ、表面のチーズがとろりと溶け、
魚介と香草の香りが市場に広がる。
通りがかった人々が立ち止まり、香りに惹かれて集まり始めた。
「さぁ、できたぞ!」
レンは焼きあがったピザを切り分け、集まった人々に配る。
ミーナが一口食べて、驚いたように目を丸くした。
「……魚なのに、全然生臭くない! しかもタコの旨みがすごい!」
ガルドも大きな口でかぶりつき、満足げに頷く。
「くぅーっ、これはビール欲しくなるな!」
やがて市場の漁師や商人たちが次々にやってきて、
あっという間にピザは完売した。
ミーナの父親も腕を組みながら一切れ食べ、
静かに「……悪くない」とだけ言った。
「港町の味、これで決まりだな」
レンは笑いながら、海を眺めた。
潮風が吹き抜け、どこか次の旅を誘うように感じられた。
港町フェルナンドで誕生した魚介ピザは、
町の人々の新しい名物として受け入れられた。
次は草原の遊牧地帯――乳製品と香草の国を目指す。




