第56話『港町フェルナンドへ』
大陸横断の旅の第一歩――目指すは港町フェルナンド。
潮風と魚の香りが漂うその町で、レンたちを待っていたのは、
魚介料理の宝庫と、港ならではの騒がしい日常だった。
朝靄の中、馬車は海沿いの街道を進んでいた。
遠くの水平線から、昇る朝日がゆっくりと港町を照らしていく。
潮の香りが強まり、カモメの鳴き声が近くなるにつれて、
レンの胸は高鳴っていった。
「おー……! これがフェルナンドか」
港町の姿が見えた瞬間、ガルドが感嘆の声を上げる。
白い漆喰の家々が段々と丘を下りながら並び、
その先には大小さまざまな船が碇泊していた。
市場からは威勢のいい掛け声と、魚の匂いが漂ってくる。
「着いたらまず市場だな」
エルマーが手綱を引きながら言った。
「ここの市場は大陸でも屈指の活気がある。魚も貝も、珍しい海藻も手に入る」
「魚介ピザ……いいね」
レンの目はすでに料理人の輝きで満ちていた。
馬車を港近くの宿に預け、一行は市場へ向かった。
通りを抜けると、そこは人と魚と声が入り乱れる喧騒の渦だった。
「いらっしゃい! 朝獲れだよ!」
「銀鱗マス、今が旬だよ!」
「海藻はいらんかね!」
その声を背に、レンは魚の並ぶ台の前で足を止めた。
大きなエビ、赤い殻のカニ、銀色に光るイワシ。
どれも鮮度抜群だ。
「お兄さん、観光客かい?」
威勢のいい声で話しかけてきたのは、赤いバンダナを巻いた若い女性だった。
腕まくりした手には、まだ跳ねる魚が握られている。
「ちょっと違う。料理人だ。ピザ屋をやっててね」
「ピザ!? 魚でピザなんて作れるのかい?」
女性は興味津々で目を輝かせる。
「作れるし、旨いよ」
そう言った瞬間、後ろから大きな声が飛んできた。
「おいミーナ! また観光客引っ掛けてるのか!」
声の主は恰幅のいい中年男性で、どうやらこの女性の父親らしい。
「違うって! この人、ピザ屋だって!」
「……ふん、魚を台無しにしないならいいがな」
父親の渋い態度を横目に、ミーナは笑顔でレンに言った。
「もしよかったら、うちの漁船で海に出ない? 自分の目で獲れた魚を見たら、もっといいピザが作れるかもよ」
ガルドが「おいおい、また面倒なことにならないか」と小声で呟いたが、
レンはにやりと笑った。
「面白そうだな。乗った」
こうしてレンたちは、翌朝、ミーナの家の漁船で海へ出る約束をした。
海原と魚介の宝庫が、彼らを待っている――。
港町フェルナンドの市場は、魚介ピザのヒントであふれていた。
次回は、いよいよ漁船での漁体験。
潮風とともに、新しいレシピの種が芽吹く。




