第54話『ラ・ステラ、再び日常へ』
魔王との対決を終え、世界は再び平和を取り戻した。
ラ・ステラのカウンターには、またあの懐かしい笑顔が戻ってくる。
だが――少しだけ、日常は変わっていた。
朝のラ・ステラ。
窓から差し込む陽光が、磨き上げられたテーブルを照らしている。
レンは薪をくべ、石窯に火を灯した。
それは、魔王城に向かう前と何一つ変わらない光景だった。
「ふぁぁ……よく寝たぁ」
ガルドがあくびをしながら入ってくる。
「お前な、戦い終わったばっかりなのに、緊張感ゼロだな」
「もう戦いは終わったんだろ? だったら寝るしかねぇ」
リリィは呆れつつ、カウンターの上に注文票を並べる。
「ほらほら、もうすぐ開店。常連さんたちが待ってるわよ」
昼になると、店は賑わいを取り戻した。
近所の商人、旅の吟遊詩人、通りすがりの旅人……
みんなが笑いながらピザを頬張っている。
その中に――見覚えのある背の高い影。
セラフィナだ。魔王城での門番を務めていたあのピザ好き女戦士。
「久しぶりだな、異世界のピザ職人!」
「……いや、そんな大声出さないで」
「今日は休暇だ。陛下への土産にピザを持ち帰る。ついでに私も食う」
ガルドは半眼でぼそっと呟く。
「……結局魔王も部下も、完全に客じゃねぇか」
セラフィナは満足そうにピザを平らげ、魔王への土産を抱えて去っていった。
その背中を見送りながら、レンは小さく笑った。
(……これからも、こんなふうに誰かのために焼ければいい)
夜。
店の片付けが終わり、静かになったカウンターで、
レンは一人、窯の火を見つめた。
魔王との一件で得たものは、大きかった。
ピザで人の心を動かせる――それは、もう偶然じゃない。
これからはもっと多くの人に、この温かさを届けたい。
「……さて、明日は何焼くかな」
呟く声は、薪のはぜる音に溶けていった。
ラ・ステラの夜は、穏やかに更けていく。
こうして、魔王編は幕を閉じた。
だが、ラ・ステラの物語は終わらない。
新しい客、新しいレシピ、新しい出会いが、また明日を彩るだろう。




