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異世界ピッツァ戦記〜魔王も並ぶ伝説の窯〜  作者: たむ


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53/108

第53話『魔王とピザ対決』

魔王城の玉座の間。

漆黒の玉座に座る魔王は、ゆっくりとレンを見下ろしていた。

その瞳には、戦意ではなく――何かを渇望する光が宿っている。

最後の一枚が、世界の運命を決める。

 巨大な扉が閉じる音が響く。

 天井は高く、赤黒い絨毯が玉座までまっすぐ伸びている。

 玉座に座るのは、漆黒の鎧を纏い、二本の角を持つ男。

 その存在感だけで、空気が重くなる。


「……貴様が異世界から来たというピザ職人か」

 低く響く声が広間を満たす。

「そうだ。魔王……アンタが俺を呼んだんだろ」

「そうだ。余は、この世界を制した。しかし……何を食しても心が満たされぬ」

 魔王の声には、奇妙な虚しさが滲んでいた。


「だから呼んだ。貴様の噂は耳にしている。

 もし、余の舌と心を満たす一枚を作れれば……この世界を滅ぼすのはやめよう」

 その言葉にガルドが小声でつぶやく。

「……本当にピザで世界救えるのかよ」

「できる。俺たちなら」

 レンは迷いなく答えた。


 レンは深呼吸し、旅で手に入れた食材を並べた。

 魔王領でしか採れない漆黒の小麦粉、甘みのある紅いトマト、

 森で摘んだ香草、そして光を反射する銀色のチーズ。


「今日は、この世界すべての恵みを一枚に詰め込む」

 レンは生地をこね、伸ばし、ソースを塗る。

 香草とチーズの香りが広がり、魔族の兵たちが思わず唾を飲み込む。


 石窯の中で生地が膨らみ、焦げ目がつき始めた。

 焼き上がった瞬間、強烈な香りが広間を包み込む。

「……ふむ」

 魔王の瞳がわずかに揺れた。


「さぁ、どうぞ」

 レンは熱々のピザを切り分け、銀の皿に載せて差し出す。

 魔王は一片を手に取り、ゆっくりと口へ運んだ。


 一口――静寂。

 二口――玉座の魔王が動きを止める。

 三口――瞳が大きく見開かれる。


「……これは……温かい……」

 魔王は小さく呟き、視線を落とす。

「余は……ずっと、孤独であった。

 だが、この味は……皆と囲む炎のようだ……」


 次の瞬間、魔王の口元に初めて微笑が浮かんだ。

「余は……滅びをやめよう。この世界を守る」


 兵士たちがどよめき、ガルドは唖然とした顔をする。

「……本当に……ピザで世界救っちまったな」

 リリィは安堵の息を吐いた。

「やっぱり、この人はバカだけど……すごいわね」


 こうして、魔王との対決は終わった。

 レンは最後に一言だけ残した。

「また食べたくなったら、ラ・ステラに来いよ。ちゃんと作ってやるから」

 魔王は深く頷いた。

世界を滅ぼしかけた魔王を、一枚のピザが救った。

次回は――平和を取り戻したラ・ステラで、再び始まる日常。

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