第51話『魔王城への招待』
魔王からの招待――いや、ほとんど脅迫。
それでもレンは行くと決めた。
仲間たちは戸惑いながらも、その旅に同行する覚悟を固める。
魔王城へ向かう道のりが、今、始まる――。
夜のラ・ステラ。
テーブルの上には、旅のための装備と食材が広げられていた。
小麦粉、トマト缶、モッツァレラチーズ……
それに旅路で使える小型の折り畳み石窯まで。
「……本当に行くんだな」
ガルドが腕を組んだまま、深く息を吐く。
「もちろん。魔王にピザを食わせるチャンスなんて、一生に一度だ」
レンは軽口を叩いたが、目は真剣だった。
リリィは腰にポーチを巻きながら言う。
「じゃあ、私も行くわ。あんたの無茶を止められるの、私くらいだし」
「俺もだ。護衛なしじゃ危険すぎる」
ガルドも渋々頷いた。
こうして、半ば強引に、三人で魔王城へ向かうことになった。
出発の日。
店の前には常連客や街の人々が集まっていた。
「気をつけて行くんだよ!」
「帰ってきたら、またあのピザを食わせてくれ!」
レンは笑顔で頷き、一人ひとりと握手を交わす。
馬車に荷物を積み込み、街を出る。
石畳の道を抜けると、やがて広がるのは深い森。
そこを抜ければ、魔王領との境界線だ。
「そういやレン、魔王に出すピザってもう決めてんのか?」
ガルドが手綱を握りながら尋ねる。
「いや……まだ。でも、旅の中で決める。きっとヒントが見つかるはずだ」
レンの言葉に、リリィは小さく笑った。
「相変わらず行き当たりばったりね」
日が暮れ、森の中で野営を始める。
レンは携帯用の石窯を組み立て、持ってきた食材で簡単なピザを焼いた。
焚き火の明かりに照らされたその香りは、暗い森に温かさを与える。
「こうして食うと……戦いに行くって感じしねぇな」
ガルドがピザを頬張りながら呟く。
「それがいいんだよ。戦いなんて、できれば避けたい」
レンは空を見上げた。
そこには、魔王の住むであろう漆黒の城を照らす満月が浮かんでいた。
こうして、ラ・ステラの仲間たちは魔王城を目指す旅を始めた。
次回は、魔王領に足を踏み入れた彼らが、思いがけない人物と出会う。




