第49話『旅立ちのピザ』
ラ・ステラの常連であり、笑顔を絶やさなかった若者ルーカが街を離れることになった。
彼の新しい門出を祝うため、レンは心からの一枚を焼き上げる。
それは別れとエールを込めたピザだった――。
その知らせを聞いたのは、市場での買い物の帰りだった。
「ルーカ、隣町の職人ギルドに入るらしいぜ」
八百屋の親父が教えてくれた。
ルーカはいつも明るく、何かと手伝ってくれた若者だ。
その夜、ラ・ステラに現れたルーカは、少し照れたように笑っていた。
「急でごめん。……でも、行かないと成長できない気がしてさ」
レンはしばし黙っていたが、やがて笑った。
「だったら、門出のピザを焼かせてくれ」
レンは厨房で静かに生地をこね始めた。
ソースはトマトとバジルをベースに、明るい色合いを出すためパプリカを加える。
具材はルーカが好んだハムとマッシュルーム。
焼き上げる直前、チーズで小さな星型を散らした。
石窯から出てきたピザは、まるで夜空に浮かぶ星座のようだった。
テーブルに置くと、ルーカは目を丸くした。
「これ……俺のために?」
「そうだ。これが街で食べる最後の一枚になるかもしれないからな」
一口食べたルーカは、少し黙って噛みしめ、笑った。
「やっぱり……この味、忘れられないだろうな」
「忘れるなよ。帰ってきたら、また焼いてやるから」
「……約束だ」
翌朝、乗り合い馬車のホーム。
レンとリリィ、ガルドは見送りに立っていた。
馬車が動き出す直前、ルーカは窓から手を振った。
「ありがとな! 行ってくる!」
その声は、春風に乗って遠くへ消えていった。
ルーカの旅立ちは、ラ・ステラに少しだけ静けさを残した。
次回は
この街、この店、この仲間たちの物語がひとつの形になる日。