表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/54

第48話『春風のバジルピザ』

冬が終わり、街には春の風が吹き始めた。

ラ・ステラにも、新しい季節を祝う特別なピザを求める声が届く。

レンは春の香りを閉じ込めた一枚を焼き上げる――。

 雪解けの水が石畳を濡らし、通りには早咲きの花が彩りを添える。

 市場に行くと、青々としたバジルの束が山積みにされ、

 農家の女性が笑顔で声をかけてきた。


「今年のバジルは香りがいいよ。春風を閉じ込めたみたいさ」

 レンは迷わず数束を買い、店へ戻った。


「春ピザ、いよいよ始動か?」

 ガルドがニヤリと笑う。

「そう。軽くて爽やかで、一口で春を感じられるやつ」

 レンはさっそく試作を始めた。


 生地は軽く薄く伸ばし、トマトソースは使わない。

 代わりにオリーブオイルと刻みニンニクを薄く塗り、

 バジルペーストをたっぷり乗せる。

 そこにモッツァレラとミニトマトを散らし、焼き上がりに生バジルをのせて仕上げる。


 石窯から出た瞬間、

 鮮やかな緑と赤のコントラスト、立ち上るバジルの香りが店内を包んだ。

「……これは、もう春そのものだな」

 リリィが思わず深呼吸をする。


 開店と同時に、常連客が駆け込んできた。

「春の新作、あるって聞いたよ!」

「もちろん。できたてをどうぞ」

 一口食べた客の表情がふわっと緩む。

「ん~……口の中まで春風が吹き抜けるみたいだ」


 その日、店の前は花見帰りの客や旅人で賑わった。

 外のベンチでピザを頬張る人々の笑い声が、春の空に溶けていく。


 閉店後、レンは余ったバジルでジェノベーゼソースを仕込みながら呟く。

「次の季節も、この街の人たちに喜んでもらえるピザを作ろう」

 春風が窓を揺らし、厨房に香りを運んできた。

春風のバジルピザは、ラ・ステラの春の定番となった。

次回は、そんな穏やかな日々の中で訪れる一つの旅立ち。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ