第46話『雪の日のラ・ステラ』
森の魔女からの不思議な贈り物を受け取った数日後、街は珍しく大雪に見舞われた。
客足は遠のき、店は静まり返る――しかし、レンたちは諦めなかった。
雪の中でも人を呼び寄せる“温もりのピザ”を焼き上げる。
その日、朝から雪がしんしんと降っていた。
窓の外は白一色。通りを行く人影もまばらだ。
ラ・ステラの薪窯も火を落としたまま、店内はひんやりしている。
「……今日は開けても意味ないかもな」
ガルドが肩をすくめる。
「でも、こんな日にこそ食べたいピザってあるんだよ」
レンは笑って薪をくべ始めた。
外を歩く人々の頬は赤く、息は白く染まっている。
レンは看板に「本日限定・雪の日のホワイトピザ」と書き出した。
生地に塗るのはホワイトソース。
具材にはジャガイモ、ベーコン、玉ねぎを炒めたものをたっぷり乗せ、
仕上げに幻のモッツァレラを雪のように散らす。
さらに上からローズマリーをひと振り――冬の香りだ。
石窯の中でピザが焼けると、
チーズがとろけ、ベーコンの香ばしい匂いが漂い出す。
ドアを開けた瞬間、外の冷たい空気と温かい匂いが混ざり合った。
「……いい匂いがする!」
通りかかった親子が足を止め、雪を払いながら入ってきた。
それを皮切りに、ぽつぽつと客が集まり始める。
「冷えた身体が溶けていくみたいだ……」
「雪景色見ながら食べるピザって、贅沢だね」
笑顔がテーブルに広がっていく。
夜になる頃、雪はやんだが、店内の温かさはそのままだった。
レンは窓際に立ち、外の雪明かりを眺めながら呟く。
「……やっぱり、ピザって人を呼ぶんだな」
リリィがにやっと笑う。
「呼んでるのはピザじゃなくて、あんたの心意気だよ」
雪の日のピザは、街の人々に冬の思い出を刻んだ。
次回は、その余韻が冷めぬうちに訪れる不思議な旅芸人たちとの出会い。




