第44話『旧友と過ごすピザの夜』
突然ラ・ステラを訪れたのは、レンが元の世界でバイト仲間だった旧友・タケル。
異世界に迷い込んだという彼を迎え、レンは一夜限りの“思い出のピザ”を焼く――。
夕暮れ時、店の扉が開いた。
入ってきたのは見慣れた顔――信じられないほど懐かしい顔だった。
「……タケル?」
「おう、レン。……久しぶり、って言うべきか」
数年前、一緒に宅配ピザのバイトをしていた仲間。
まさか異世界で会うとは思わなかった。
「なんでここに……?」
「気づいたらこの世界にいた。最初は夢だと思ったけど……飯食ったら現実だと悟った」
タケルは少し照れくさそうに笑った。
その夜、店を早じまいし、二人は厨房に立った。
レンは懐かしいバイト時代のレシピを思い出しながら、生地をこね始める。
トマトソースはあえて昔ながらの缶詰風味、チーズはたっぷり、具材はシンプルにペパロニ。
「お前、やっぱり手際いいな」
「そっちだって覚えてるじゃん。ほら、ペパロニは円形に並べる」
「おう。……あ、間違えて重ねちゃった」
「変わってねぇな」
二人は笑いながら作業を進める。
焼き上がったピザを切り分け、カウンターに並べる。
香ばしい匂いが店いっぱいに広がった。
「……うまっ!」
タケルは一口で頬張り、声を上げた。
「懐かしい……昔、休憩時間に勝手に作って食った味だ」
「店長に怒られたっけな」
二人は声を上げて笑った。
夜が更ける頃、タケルは真顔になった。
「レン、この世界で店をやってるお前、なんか……かっこいいわ」
「そうか? 俺はただ、うまいピザを作ってるだけだよ」
「それがかっこいいんだよ」
別れ際、タケルは一枚の古びた宅配用帽子を差し出した。
「お前に預けとく。俺、また会いに来るから」
レンはそれを受け取り、胸にしまった。
旧友との再会は、レンにとって初心を思い出させる出来事だった。
次回は、そんな余韻が残る中、森の魔女からの依頼が届く。




