第40話『砂漠の国から来たVIP!?ピザでおもてなし』
ラ・ステラに舞い込んだ予約は、なんと砂漠の王国からの重要人物。
異国の食文化とピザを融合させた一枚を作るため、レンたちは知恵を絞る。
香辛料の香りとともに、国境を越える味の交流が始まる――。
昼下がり、リリィが予約帳を見て首を傾げた。
「ねぇレン、これ“カリーフ・バルサム閣下御一行様”って書いてあるんだけど……誰?」
「……カリーフって確か、砂漠の王国の高官の称号だよな」
ガルドが腕を組む。
その日の夕方、豪奢な衣装を纏った人物が現れた。
金糸の刺繍が入ったターバン、深紅のローブ。
肌は浅黒く、瞳は深い琥珀色。
護衛らしき屈強な男たちを従えている。
「おお、ここが噂の“ラ・ステラ”か!」
朗らかな声で笑い、手を広げる。
「我はカリーフ・バルサム。国王陛下より聞き及んだ。
この店のピザは、心をも満たすと」
「は、はぁ……光栄です」
レンは少し緊張気味に頭を下げた。
「ただ……我ら砂漠の民には、独特の味覚がある。
香辛料と甘味を好み、熱い砂の下で育つ果実を愛す」
そう言いながら、彼は持参した袋を差し出す。
中には、鮮やかな色のスパイスや乾燥果実――
シナモン、クミン、デーツ、アーモンドなどがぎっしり詰まっていた。
「これらを使い、そなたのピザに新しい命を吹き込んでほしい」
レンは袋の中を覗き込み、しばらく考え込む。
「……面白そうだ。任せてくれ」
まずは甘みの強いデーツを細かく刻み、生地に混ぜ込む。
トマトソースにはクミンとシナモンをほんの少し加え、
上からフェタチーズとローストしたアーモンドを散らす。
焼き上がった瞬間、香りが店中に広がった。
異国の風が吹き込んだかのような、スパイシーで甘い香りだ。
一口食べたカリーフは、目を見開いた。
「……これは……砂漠の夜風と、オアシスの水のような味だ!」
護衛たちも笑顔で頷きながら、豪快に頬張る。
「我が国に持ち帰ってもよいか?」
「もちろん。ただ、焼きたてじゃないと本当の旨さは出ないからな」
「ならば、そなたも一緒に来い!」
「いやいやいや、それは無理!」
食事が終わる頃、カリーフは深くお辞儀をした。
「今日の味、決して忘れぬ。そなたらは友だ」
その言葉に、レンたちは笑顔で手を振った。
国境を越えた味の交流は、ラ・ステラにまた新しい可能性をもたらした。
次回は、その余韻が冷めぬうちに港町からの珍しい依頼が舞い込む。