第4話『自家製ソース完成!魔法の釜で極上の一枚を』
異世界の森でトマトにそっくりな果実を見つけたレン。香草や野菜も揃い、いよいよ「異世界産ピザ」への第一歩が始まる。
だが、まだ大きな問題が――「チーズは、どうする!?」
材料探しと試行錯誤の果てに、レンはどんな一枚を焼き上げるのか?
「で、これは……?」
リリィが不思議そうな顔で鍋の中を覗き込んだ。
中では赤い果実が潰され、グツグツと音を立てている。トマト(仮)ソースの仕込み中だ。
「これがピザの魂、トマトソースだ。これがなきゃ始まらない」
「赤いスープか?」
「いや、スープじゃなくて“塗るやつ”! これがあると、ピザがピザになるんだ」
「???」
リリィは完全に理解を放棄した顔をしていたが、それでも興味津々で鍋をかき混ぜている。
「トマト果汁、香草、少しの塩。あとは炒めた玉ねぎとにんにく……よし、火を弱めて煮詰めよう」
レンは真剣な表情で火加減を調整しながら、鍋の中身に集中する。
――初めてアルバイトで仕込みをした時のことを思い出していた。
あのとき、店長に「心を込めろ」と言われて、意味がわからず泣きながら炒めていたっけ。
「……結局、今になってわかるんだよな」
「ん? 何が?」
「いや、こっちの話」
一方そのころ、リリィは村の家畜小屋で“ある交渉”をしていた。
「なあ、ミルクちょっとだけでいいんだ! チーズ作るだけだって!」
「リリィ……おまえ、この前も勝手に牛舎に入って、ヤギの角で飛ばされたろうが」
「今回はマジで大事なミルクなんだって! ピザがかかってるんだ!!」
「ピザ……?」
その言葉を聞いた途端、村の男の表情が変わる。
「……昨日のあれか? 焼いたやつ。あれ、うまかったな。あれもう一度食えるなら、ミルクくらい出すぞ」
「ホント!? ありがとう村の優しさ!!」
こうして、ヤギのミルクを入手したリリィは意気揚々とレンの元へ。
「よっしゃ、持ってきたぞー! これでチーズできるんか?」
「……やるしかないな」
レンはヤギのミルクを鍋に入れ、火にかけていく。
酸を加えて分離を促す。布に濾して水気を切る。時間との勝負だった。
「うおおお……早く固まってくれ!!」
「なにしてんの?」
「チーズを“産ませてる”んだよッ!!」
「おおお!? 産むの!? 生まれるの!?」
リリィが妙なテンションになっている中、鍋の中に白くやわらかい塊が現れた。
「よっしゃあああああ!!! チーズ降臨!!!」
「うぉぉおおお!!!」
二人はハイタッチしてその場でぐるぐる回る。
なんだかんだ、レンもリリィも“この瞬間”がたまらなく好きだった。
日も暮れかけたころ、レンは準備を終えていた。
「生地は昨日こねて発酵させたやつ。ソースはできた。チーズはさっきのやつ。あとは……」
――焼くだけ。
レンは、懐かしいルーティンをなぞるようにピザ生地を広げ、トマトソースを塗り、手作りチーズをまんべんなく載せる。
バジルのような香草を散らして、窯へ――
ゴウッ、と音を立てて、釜が火を吹く。
「……頼んだぞ。相棒」
魔法のように熱が伝わり、窯の中でチーズがとろけていく。
ほんの数分後。
黄金色に焼き上がったピザが、香ばしい香りをまとって姿を現した。
「できた……!」
「うわ、見た目最高じゃね? なんかすっげー“勝利のにおい”がする!!」
リリィが目を輝かせる。
「じゃあ……いこうか。初・異世界現地素材オンリーピザ、実食!!」
二人はアツアツのピザにかぶりついた。
「うんめええええええええ!!!!」
「これ、やばいな!? ソースもチーズも全然違うのに……なのに、最高!!」
「この釜と、素材と……こっちの世界の空気かもな」
レンは、確かに感じていた。
この世界だからこそ焼けた、ピザの味。
今回は「現地素材でのピザ作り」に挑戦した回でした。トマトソース、チーズ、香草――すべてこの世界の自然から。
異世界でのスローライフは、ただののんびりじゃない。ひとつひとつを丁寧に積み上げる、そんな日々の味です。
次回はついに「正式オープン」? 村人たちがピザに群がる……!