第38話『王妃様の願い!秘密のピザレシピを求めて』
王様へのピザで名を広めたラ・ステラに、今度は王妃様からの依頼が届く。
内容は、病床の友人を元気づけるための特別なピザ。
しかし、そのためには“とある秘密の食材”を入手しなければならなかった。
王宮の使者ラドミールが、再びラ・ステラを訪れた。
前回と違い、今日はやや穏やかな表情だ。
「レン殿、王妃様からの依頼をお伝えに参った」
「……王妃様から?」
ラドミールは声を落とし、依頼の詳細を話す。
「王妃様の幼き頃からの友人、ルシア夫人が長く病床にある。
その方がどうしても“若き日に二人で食べた、あるピザ”をもう一度食べたいと願っておられる」
「……つまり、再現してほしいってことか」
リリィが首を傾げる。
「そうだ。ただし、そのピザには“ルミナ草”という非常に珍しい香草が使われていた。
今ではごく限られた山奥でしか採れぬ」
「ルミナ草……聞いたことあるな。夜に花が光るっていう」
ガルドが思い出すように呟く。
レンは考え込む。
ルミナ草は確かに香りが独特で、爽やかな甘みを持つ。
それを焼くことで、香りが一層引き立ち、食欲を刺激する。
だが、採取は困難だ。
「……よし。行こう」
レンは迷いなく言った。
「うわ、本気モードだ」
リリィはニヤリと笑い、準備を始める。
翌朝、ラ・ステラの面々は荷車を置き、徒歩で山へ。
地元の猟師オルソが案内役を務める。
「ルミナ草は夜に咲く。昼間は葉だけだ。
だから、山小屋で一泊して夜を待つぞ」
夜、月明かりの中で山道を進むと、斜面の一角がほのかに光っている。
近づくと、淡い青白い光を放つ小さな花々――ルミナ草だ。
「……綺麗だな」
レンは息をのむ。
慎重に花を摘み、香りを嗅ぐ。
確かに、どこか懐かしい甘い香りがする。
「これを持ち帰って、王妃様のための一枚を作ろう」
翌日、ラ・ステラの厨房では試作が始まった。
ルミナ草をオイルに漬け、香りを移し、淡い甘みのチーズと合わせる。
完成したのは、黄金色の生地に薄紫の花びらが散る、美しい一枚――。
晩餐の場ではなく、王妃様の私室でそのピザは出された。
王妃様は小さく笑い、ルシア夫人の手を握る。
「覚えている? 若い頃、港町で食べたあの味よ」
夫人は涙を浮かべ、頷いた。
「……本当に、ありがとう」
その言葉に、レンは深く頭を下げた。
王妃様の願いを叶えたピザは、誰かの心を照らす灯りになった。
次回は、その依頼の噂を聞きつけた奇妙な発明家が、ラ・ステラを訪れる。