第32話『ベジタリアンの試練!?肉なしピザで心を掴め!』
常連の紹介でやってきた新しいお客様は、徹底したベジタリアン。
肉も魚も卵も一切NG、乳製品すら避けるストイックさ。
肉好きガルドは早くも顔をしかめるが、レンは腕をまくる――。
昼営業が落ち着いた頃、ラ・ステラの扉が静かに開いた。
入ってきたのは、すらりと背の高い女性。
深緑のローブに、首には木製のペンダント。
「……こちらが、レン様のピザ屋でしょうか」
「はい、そうですが――」
「私はルシア。菜食の信条を守る者です。
友人から、あなたの料理なら私の心を動かせるかもしれないと聞きました」
横で聞いていたガルドが、思いきり眉をひそめる。
「……つまり肉ダメってことか?」
「肉どころか、乳製品も卵もダメだって」
「(じゃあピザって何で作るんだ……?)」
「では、私の条件をお伝えします。
肉類、魚介、卵、乳製品、一切使用不可。
香辛料も過剰な刺激のあるものは避けてください」
「……ハードル高っ」
リリィが思わず呟く。
ガルドは腕を組み、完全にやる気ゼロの声で言った。
「そんなの、葉っぱ載せただけのピザじゃねぇか」
「ガルド、黙ってて」
レンは考え込む。
肉や乳製品が使えないとなれば、チーズの代替が必要だ。
そして旨味は野菜とハーブで引き出すしかない。
「リリィ、豆腐とカシューナッツのストックある?」
「あるけど、何に使うの?」
「“ヴィーガンチーズ”を作る。豆腐とナッツをペーストにして、レモンと塩でコクを出すんだ」
さらに、甘みのあるローストかぼちゃ、香り高いバジル、色鮮やかなパプリカを用意。
トマトソースは玉ねぎとニンニクをじっくり炒め、自然な甘みを引き出す。
30分後。
窯から香ばしい香りが漂う。
「おお……見た目はちゃんとピザじゃねぇか」
ガルドが珍しく感心した声を出す。
焼きあがったそれは、黄金色の“チーズもどき”と、彩り豊かな野菜が華やかに散りばめられた一枚。
レンは丁寧に切り分け、ルシアの前へ差し出した。
ルシアは静かに口に運び、目を閉じる。
「……驚きました。
チーズを使っていないのに、しっかりとしたコクがあります。
野菜の甘みと香りが、心地よく広がります」
そして小さく微笑む。
「これは……私の信条を守りながら、心を満たす料理です。ありがとうございます」
その言葉を聞いて、ガルドがぽつりと呟く。
「……まぁ、肉は最強だと思ってるが……
こういうのも、悪くねぇな」
「でしょ?」
その日以来、ラ・ステラのメニューに**「森の恵みヴィーガンピザ」**が加わることに。
菜食主義の客層から予想外の人気を集め、店の評判はさらに広がっていった。
肉の暴力ピザに続き、菜食の優しいピザも誕生。
次回はその両極端のメニューを持って、とある山間の村へ出張販売に――。