第3話『ピザにはトマト!でも異世界にトマトあるの!?』
獣人の少女リリィとの出会いを経て、異世界でピザ屋を始めることになった青年・レン。
だが、目の前には「材料がない!」という大きな壁が……。
リリィの案内で森へと入ったレンは、果たしてこの世界のトマトを見つけることができるのか――?
早朝。レンはすでにオーブン前で腕組みをしていた。
「よし。窯の調子はいい……って、いつも通り動いてるのがすげーんだけどな」
電源の存在しない異世界。なのに、この窯は昨日も今日も、何事もなかったように稼働している。
きっとこの窯ごと異世界に連れてこられたことにも、何か意味があるんだろう……そんなことを、まだぼんやりと思っていた。
そこに背後から元気な声。
「レン! 村のばあちゃんが『昨日のあれ、うまかった』って言ってたぞー!」
「そりゃよかった。でも、もうマルゲリータのストックは残ってない。さすがにそろそろ材料が尽きた」
「ん? なんか探せばええやん! この森、食えるもんいっぱいあるし!」
「……おおざっぱだなあ、君は」
だが、確かにそれが現実だった。
もともと冷凍庫にあった具材や生地も、もう限界。現地調達するしかない。
「てことで、リリィ。トマト、探しに行こうぜ」
「トマト? なにそれ? 食えるの?」
「……うん、たぶん。あっちの世界じゃピザに絶対必要だった」
二人は村の外れに広がる森へと足を踏み入れる。
朝露に濡れた草木が、日の光を浴びてきらきらと光っていた。
「こういうの、久々だな……ハイキングみたいで楽しい」
「ハイキン? ああ、ピクニックか! オッケー! 弁当はないけどな!」
「……いや、意味ちょっと違うけどまあいいか」
森の中は予想以上に豊かだった。
ぶどうに似た実、パプリカのような野菜、そして――
「おいレン、これ! 赤くて丸いぞ!」
「おおっ!? マジで!? ……どれどれ……」
リリィが差し出したのは、確かにトマトに似た赤い果実だった。
レンは一口かじってみる。
「……!! うまい! 酸味もちょうどいい、皮も柔らかい!」
「えっ、食えんの? あたしも!」
リリィも一口かじるなり、満面の笑みを浮かべた。
「うっわ、これすっげー好きな味!!」
「よし、決定。これをこの世界のトマトに認定する!!」
「よくわからんけど、やったなー!!」
レンは感動しながら、果実をいくつか収穫した。
この実でソースを作れるなら、マルゲリータだけじゃなく、アレンジもできる!
「他にもチーズの材料とか、バジルに似た香草も探したいな……」
「よし、それならこの森の『香りの小道』ってところに行ってみるか?」
「なにそれファンタジーっぽい!」
「ファンタジーだぞ? ここ!」
午後にはリリィの案内で「香りの小道」と呼ばれるエリアにたどり着いた。
そこは花や草が咲き乱れ、風が吹くたびにさまざまな香りが混じって鼻をくすぐる場所だった。
「うわあ……すごい。なんか……幸せって感じがするな」
「ここ、村の人間でもあんまり来ないけど……嫌なヤツが来ると鼻が曲がるんだってさ」
「え、なにそれこわい」
「だからレン、試されてるかもな。バカ正直でピザのにおいがする人間、通れるかって!」
と冗談を飛ばしながらも、レンはその中でバジルに似た香りを見つけ、慎重に摘み取っていった。
「これ……使えるな。あとはチーズの代わりにミルクが必要だな……ヤギとか飼ってる?」
「いるいる! うちの村に、白いヤギが山ほどいるぞ!」
「山ほどかあ。ちょっと借りてチーズ作れたら完璧だな」
夕方、村へ戻る頃にはかごいっぱいの「素材」が揃っていた。
レンの顔には疲労と達成感が同時に浮かんでいる。
「ふふっ、なんか冒険だったな今日」
「そうだな。でも、これで明日から本格的にピザ作れるぞ」
「やったー!! じゃ、あたしが一番乗りな!」
「うーん、村長に先に出すべきじゃない?」
「やだー!! あたしが最初ーー!!」
森の夕焼けに二人の笑い声が響いた。
いかがでしたか?
今回は、スローライフならではの“食材探し”回でした。
異世界の森で見つけたトマト(?)と香草。チーズはまだだけど、ピザの道が少しずつ形になってきましたね。
次回はいよいよ、「自家製トマトソースで焼きたてピザ」に挑戦!