第26話『リリィ、ピザを飛ばす!空飛ぶ宅配始めました!?』
行列が増えすぎて、店内対応だけでは追いつかなくなったラ・ステラ。
そんな中、街の配達ギルドから“空の宅配便”の提案が舞い込む。
だが、その操縦士に選ばれたのは――まさかのリリィ!?
「え、空飛ぶ配達って……マジで?」
「うん。ギルドの人が“魔導グライダー”を使えば街全域に配達できるってさ」
「レン……あたし、飛行経験ゼロなんですけど!?」
「大丈夫大丈夫、落ちてもグライダーは魔法で浮くから」
「落ちても……って前提がおかしいよね!?」
魔導グライダーとは、巨大なコウモリの翼のような形をした飛行器具。
魔石エンジンと風魔法を併用して、時速40キロ程度で空を滑空できる。
配達ギルドでは、主に高地や孤島への物資運搬に使われているらしい。
「訓練は必要だけど、慣れれば簡単だって」
「……それ、ギルドの人も同じこと言ってた?」
「うん。“だいたいの人は3回くらい落ちて覚える”って」
「落ちる前提やめろぉ!!」
翌日、早速訓練開始。
「じゃあリリィさん、この“風読み計”を首にかけて、上昇気流を探してください」
教官役のギルド員が手渡す。
「……これって、風が強くなったら色が変わるやつ?」
「そうです。赤になったら危険、青なら安定、緑は最適です」
「で、赤が出たらどうするの?」
「祈ります」
「即死じゃねーか!!」
最初の滑空は、思った以上にうまくいった。
「わーっ! すごい! 街がちっちゃく見えるー!!」
空から見下ろす中央広場、王城の白い尖塔、遠くの青い湖――。
「リリィー! ちゃんと進行方向見てー!」
地上からレンの声。
「わかってるってー! あっ……あれ、なんか傾いてきた――」
バランスを崩し、ぐるりと回転。
そのまま屋根の上にフワッと着地(というか墜落)。
「……痛くないけど、心が折れそう……」
数日後。
なんとか形になった“空飛ぶ宅配”が、いよいよ本番を迎える。
「本日の配達先は、高台の修道院と、港の灯台です!」
エルザが依頼書を読み上げる。
「修道院は階段多いし、灯台は丘の上……これは確かに飛んだほうが早いね」
「行ってきまーす!」
グライダーを背負い、滑走路代わりの高台から飛び出すリリィ。
風を切り、青空を進む。背中の保温魔法がピザを熱々のまま守っている。
修道院の庭に着地。
「あらまあ、本当に空から来たのねぇ」
シスターたちが目を丸くする。
「“空飛ぶピザ屋”って、もう物語の主人公じゃない?」
笑顔でピザを受け取るシスターの手は、ほんの少し震えていた。
――まるで空から降ってきた小さな奇跡を、手のひらで受け止めたように。
その日の夕方、港の灯台へ。
「うおぉ!? 空から来た!? すげええ!!」
見張りの青年が思わず叫ぶ。
「ピザ、お届けでーす! 潮風に負けず、焼きたてだよ!」
青年はその場で箱を開き、熱々のチーズをほおばった。
「……これ、港の食堂にも入れてくれません?」
「それはレンと相談してから!」
夕暮れ。
港を背に帰路につくグライダー。
空の向こうに、灯り始めた街の光が瞬いている。
「空飛ぶ配達……ちょっと、クセになるかも」
風とピザの香りに包まれて、リリィは笑った。
こうしてラ・ステラは、異世界初(?)の空飛ぶ宅配を導入。
次は、さらに遠くの村や孤島にも……?
だが次回はちょっと変わった依頼が舞い込みます。