第25話『開店!金星のピッツァ、幻の一枚に行列の予感!?』
ついに完成した“幻のチーズ”を使った新メニュー。
ラ・ステラの開店前には、見たこともない長蛇の列が――?
しかしその中に、レンたちの胃を試す“あの男”の姿があった。
朝――。
「な、なんだこの列……!」
リリィが目を丸くする。
開店準備中のラ・ステラの外には、開店1時間前にもかかわらず、20人以上の客が並んでいた。
「“幻の金色ピザ”って名前、街中で噂になってるみたいですよ」
と、エルザが軽く息を弾ませながら言う。
「昨日の試食、隣の酒場の人に分けたら、すぐに広まっちゃって……」
「うち、宣伝費ゼロなんだけどな」
「口コミ、恐るべしですね……」
店の扉が開く。
入ってきたのは最初の客――ではなく、なぜか鎧姿の中年男性だった。
「ふむ……ここが“異世界一のピザ”と噂の店か」
「えっ……誰?」
「……レン君、あれは……」
オルコットが小声で囁く。
「あの人……**《食通騎士》**の異名を持つ、ミシュ=グラン=ダリオ卿です……!」
「名前からしてヤバそうだな!?」
ミシュ卿はカウンター席に静かに腰かける。
レンが心の中で深呼吸を一つ。
いよいよ、最初の一枚を焼くときがきた。
カウンターの奥、窯に火が灯る。
ピザ生地が宙を舞い、幻のチーズがトロリと広がる。
「焼き上がりまで……三分だ」
「なんか急に“最終決戦”みたいになってない!?」
三分後。
焼き立てのピザ「金星のピッツァ」が、目の前に運ばれる。
ミシュ卿は、ナイフとフォークを手に取り、静かに切る。
とろけるチーズの糸が、黄金に光る。
――一口、口に入れる。
「…………」
無言。
そして、瞳を閉じたまま――静かに呟いた。
「これは……戦だ……!」
「戦!?」
「まるで味覚が戦場と化している……!」
「それ、誉めてる……の……?」
「ふむ。香りの立ち上がりは豊かで、鼻腔に残る後味はふくよか。
舌の上で広がる塩味と甘味、旨味のバランス……これは芸術だ」
「え、ガチで高評価!?」
彼は立ち上がると、拳を胸に当てて深々と一礼する。
「これより我がグルマン騎士団は、このピザを“星三つ”と認定する。
我が名にかけて保証しよう。異世界の味覚は、確かにここにある――!」
「そんなんあるの!? 騎士団て何!?」
「いや、そもそも審査いつやったの!? 今!?」
ミシュ卿の評価は、そのまま翌日の『中央街報』の紙面に載った。
タイトルはこうだった。
【速報】異世界の舌を唸らせる若き料理人!
ラ・ステラの新星、“金星のピッツァ”が革命を起こす!
その日から――
ラ・ステラの店先には、毎朝行列ができるようになった。
「えーっと、3人で来た方は右へ〜!」
「チーズアレルギーの方は“フルーツピザ”をどうぞ〜!」
「いらっしゃいませ〜〜!!!」
笑顔と、香ばしいチーズの香りと。
異世界ピザ屋は、今日もフル稼働だ。
“幻のチーズ”から生まれた一枚のピザが、異世界にひとつの風を起こしました。
でも、それはまだまだ序章。ラ・ステラのピザ革命は、ここから加速します!




