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異世界ピッツァ戦記〜魔王も並ぶ伝説の窯〜  作者: たむ


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22/101

第22話『とある山岳の魔導師、ピザと引きこもりと友情と』

異世界を旅するピザ屋「ラ・ステラ」が、次に向かったのは、

人里離れた霧深い山の上。そこに住むのは、“最古の魔導師”と呼ばれる隠遁者。

「人間なんて、くだらん……だが、ピザには少し興味がある」

これは、孤高の魔導師がほんの少し、笑うまでの物語。

「……ほんとにここ? なんも見えないんだけど」


「霧が濃すぎる。ていうか道が道じゃないよ、これ……獣道」


 リリィがうんざりした顔で、山の斜面に立つ。


 今回の依頼は、一通の風の手紙からだった。


『貴店の噂を聞いた。

わしのような老いぼれでも、まだ味わえるのか――ピザとやらを。

ただし、人の目のない場所で。わしは人嫌いだ。』


 送り主は、山岳地帯に住む魔導師・アルベルト。

 かつて王都で“賢者”と呼ばれた大人物らしいが、

 人間社会から距離を取り、誰とも会わずに数十年、隠遁しているという。


「なんかさ、今回はちょっと緊張するかも……相手、すごい人らしいし」


「大丈夫。ピザって、人類共通のやさしさだから」


「すごい乱暴な理論きたな……」


 二人が霧の中を抜け、やっとの思いで小屋にたどり着くと、

 そこには白髪と長い髭をたくわえた、やせた老人が立っていた。

 背筋はピンと伸び、金色の瞳はまるで獣のように鋭い――が。


「……ふん、思っていたより若いな。貴様らが“ピザ屋”か」


「はい、“ラ・ステラ”です。本日はお招きありがとうございます!」


「……堅苦しいのはやめろ。ここに人間はわししかおらん」


 アルベルトは、手で黙って焚き火を起こす。

 ピザ釜は簡易式の石釜を現地にて即席で組み立て、

 風魔法で火を起こし、霧の中でも安定して焼ける環境を整えた。


「……手際がいいな。さすがは旅の者か」


「まあ、場数は踏んでますんで」


「……ふふっ。ピザのくせに、侮れん」


 そして、最初の1枚が焼き上がる。

 自家製スモークベーコンとキノコをたっぷり使った“山のピザ”。


 アルベルトが静かに一口、噛んだ瞬間――


「…………」


 目を閉じたまま、動かなくなる。


 レンとリリィが顔を見合わせた、そのとき。


「……これは……人間の料理なのか」


 ポロリと、そう漏らした彼の頬には、

 なぜか、うっすらと涙のあとが。


「……あの頃を思い出しただけだ」


 アルベルトは、火のゆらめきを見つめながら、静かに語った。

 かつて王都で仲間と笑い合っていた日々。

 魔法を学び、語り合い、くだらない話で夜を明かした友人たち。

 ――だが、年月は彼だけを置き去りにしていった。


「もう一度、あの味に……この歳で、出会うとはな」


 その夜、アルベルトは特別に、彼の蔵書室を二人に開放した。

 かつての研究成果、膨大な魔術理論、そして失われたレシピ帳まで。


「お前たちには、もう少し来てもらってもよい」


「それってつまり、常連……?」


「ふん。ピザ持参なら、まあ許す」


「ピザで懐柔された最古の賢者……」


 帰り道、霧が少し晴れていた。


「ねえレン、今日の配達……ちょっと、よかったね」


「ああ。あれでまたひとり、笑ってくれたなら」


 ピザは焼きたての輪――それは、人と人の心を繋ぐ円。

焼きたてのピザには、人の心をほぐす魔法がある。

ひとりで生きてきた魔導師も、その輪の中へ。

次回は、ちょっと変わった“食材ハンター”が登場します!

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