第20話『湯けむりとチーズと休日と。ピザ屋、温泉でひと息つきます』
空中都市への配達ミッションも終わり、ひと休みが欲しいラ・ステラメンバー。
そんな時、村人のひとりが教えてくれたのは――
「この先に、極上の温泉郷があるよ」
それは、チーズのようにとろける休日の始まりだった。
「ふわぁ~……極上って言葉に弱いよな、俺ら」
レンが大きく伸びをして、道端に腰を下ろした。
空中配達から帰ってきたばかりの翌日、ラ・ステラは臨時休業中。
リリィは扉に『本日、魂が休暇中です』という張り紙を貼って満足そうだ。
「ねえ、行こうよ! 温泉郷“ユノレッタ”って、チーズの蒸気風呂があるんだって!」
「それもう温泉じゃない、料理では?」
ツッコミつつも、レンも行く気満々で荷造りを始める。
馬車で揺られること半日。
辿り着いた山間の温泉郷・ユノレッタは、静かな湯けむりと木の香りが立ち込める癒やしの地だった。
「……最高じゃないか、これ」
さっそくチェックインした宿では、竹の囲いの露天風呂に、ほんのりチーズの香りが混ざった湯気がふわり。
「……ちょっと、湯がとろみあるの、気のせい?」
「“熟成チーズの湯”って書いてあるね」
「やっぱりチーズだった!!」
それでも――
「はぁぁぁ……染みる……」
お湯に肩まで浸かって、レンとリリィは無言で空を見上げる。
「……働いた分、ちゃんと休む。これ、大事だね」
「うん。あたし、このまま湯気になって消えたい……」
「ちょっと、店はどうするの」
夜。
夕食には“温泉卵チーズピザ”という、見た目も香りもトロトロな料理が登場。
「こんなん反則でしょ……」
食事処でとなりの宿泊客も唸っていた。
「ふふふ……レン君、メニューに加えない?」
「真似できるか……いや、したいな……!」
食後、リリィは浴衣姿で縁側に腰を下ろす。
虫の音が、静かに夜を包む。
「……レンさ、なんであたしら、こんなとこでピザ焼いてるんだっけ」
「それ聞く? 今さら?」
「ううん、意味はないけど……なんかさ、ふとね」
「俺が勝手に巻き込んだようなもんだろ」
レンが笑うと、リリィもふっと笑って、
「うん。楽しいよ。だから、よし」
その笑顔が、夜の灯りに少し照らされた。
帰り道、ユノレッタの職人からお土産をもらった。
「これ、温泉で発酵させた“とろけチーズ”。ピザに使うと、すごく伸びるよ」
さっそくレンの目が輝く。
「温泉ピザ、試すしかない……!」
「完全に仕事モードだよ、この人」
翌日から、ラ・ステラの新メニューとして登場した「とろけ湯けむりチーズピザ」は、
評判を呼び、行列を作るほどの人気に。
「やっぱ、休暇って必要だなぁ……」
ピザを焼きながら、レンはしみじみとつぶやいた。
たまには全力で休むのも、大事な仕事。
温泉で癒やされ、チーズでとろけて、心もほっこり――。
ラ・ステラのピザ、今日もおいしいです。




