第2話『最初の客は獣人の少女!?』
突然ピザ窯ごと異世界に転移してしまった青年・レン。
異世界の空気に戸惑いながらも、なぜか温かいマルゲリータがオーブンから出てきて、最初の出会いは――狼耳の少女?
謎だらけの新天地で、「うまいピザ」だけが彼の武器だった。
「なあ、それ……食いもんだろ?」
鼻をひくひくと動かしながら、獣人の少女がじっとピザを見つめていた。
耳と尻尾はふさふさで、茶色の髪が肩まで伸びている。年の頃は……たぶんレンとそう変わらないか、少し若いくらいか。
「え、あ……ああ。ピザっていうんだけど、食べる?」
「食べる!!」
言うが早いか、彼女はレンの手からピザボックスを奪い、四つん這いでその場にしゃがみこんだ。
「えっ、いや、熱いかも――」
「あちちっ、けど……! うんめぇええええ!! なにこれっ!? うまっ!!」
口の中を火傷しながらも、彼女は目を見開いて笑った。
狼耳がパタパタと嬉しそうに動いている。
「これ、なに? こんなもん、今まで食ったことねぇ! とろとろして、じゅわってして、バジルってなに!? わかんねぇけど、うっま!!」
「いや、よかった……通じた」
レンはその様子に安心して、腰を落ち着ける。
異世界だろうが、言葉が通じるだけでだいぶ助かる。料理に国境はないって言うけど、マジでそうだ。
少女はあっという間にピザを完食し、名残惜しそうに指までぺろぺろ舐めていた。
「なあ、もう一枚ある? 金なら……いや、金はないけど、うちの村に来てくれたら、イノシシくらい狩ってやるぞ!」
「イノシシかぁ……いや、いいよ。とりあえず落ち着こうか」
二人は近くの木陰に腰を下ろし、自己紹介を交わす。
「私はリリィ。獣人族の村で猟をしてる。今日も山から下りてきたら、なんか広場が騒がしいから来てみたら……この、うまい丸いやつが!」
「俺はレン。人間。向こうの世界ではピザ屋のバイトしてた。で、気づいたらここに……っていうか、あの窯も一緒に来てた」
「へえ~、レン。人間か。あんた、いい匂いするな!」
そう言ってリリィは、またレンの服に鼻を押し付けてくる。
「ちょ、やめろ、くすぐったいって」
「ふふっ。お前、いいヤツっぽいな。ピザ、もっと食べたい。あ、村の長にも食わせてやりてぇ!」
「村長さん? そっか、じゃあ……行ってみるか?」
レンはあの窯を見上げる。あいかわらず、電源が入ってるらしく、ほんのり熱を持っていた。まるで「まだ焼けるぞ」と言わんばかりに。
燃料も電気もないのに、動き続けるオーブン。これはもう……魔法としか思えない。
「よし、決めた。リリィ、俺、しばらくこの世界でピザ屋をやってみるよ」
「おおっ、それって……あたし、またピザ食える!?」
「うん。材料さえあれば、何とかなる……と思う」
まだこの世界に小麦があるかも、チーズがあるかも知らない。けど、それでも――何となく、やっていけそうな気がした。
そして、その日の夕暮れ――。
広場の片隅には、「まかないピザ」と書かれた、簡易の木製看板が立てられた。
その横で、獣人の少女と人間の青年が、並んでピザを焼いていた。
「いらっしゃい! 今日はマルゲリータだけだけど、ぜってーうまいぞ!」
「お、おいリリィ、店の呼び込みってそんな感じじゃ――」
「細けぇことはいいんだよ! 腹減ってんだろみんな!!」
――こうして、異世界ピザ屋が静かに産声を上げた。
第2話、楽しんでいただけたでしょうか?
元気いっぱいな獣人少女・リリィとの出会い、そして異世界初営業。
次回からは材料集めや、ちょっとしたトラブルにも直面しつつ、レンのピザ道が本格的にスタートします。
次回もゆったり、ほんのり笑ってくださいね。